150 密林の王者?
今日は日曜日、ガンボージ遺跡に入って4日目。私たちは順調に攻略を進め、地下26階層まで到達する。
モンスターのレベルも上がり、ダンジョンの罠も狡猾なものとなったきた。でも、私にはそれらを対処する有能な仲間がいるのよね。
一人目はハクシャ、こいつがいれば雑魚モンスターに負けることはないわ。
ハクシャの鍛えている自動スキルは【根性】、【軽業】、【起死回生】の三つ。
敵からダメージを受けて逆境を作り、ライフの減った状態を【軽業】で維持する。そうすることでライフが減るほど攻撃力が上がる【起死回生】をフル活用しているみたい。
万が一敵の攻撃を受けても、一度ぐらいは【根性】で耐えてしまう。その時残るライフは1なので、【起死回生】の効果は最大。そんな状態のまま【軽業】で粘られたら敵としては地獄ね。
そして、二人目の仲間はシュトラ。こいつは戦闘スキルを全く鍛えてないけど他に重要な役割があった。
「スキル【マッピング】、スキル【ダンジョンサーチ】」
シュトラが地図を開くと、そこにダンジョンの構造や今まで歩いた道の詳細が表示される。
こいつが鍛えているスキルは、歩いたマップを詳細記録する【マッピング】。同じ階の構造を捜索する【ダンジョンサーチ】。どちらも、探索には欠かせない攻略用スキルだった。
こういう攻略用スキルは他に、モンスターを探査する【気配察知】。レアアイテムを探し出す【宝探し】。罠を見つけ出す【罠探し】とかがあるわね。どれも盗賊の得意分野だけど、買えば覚えることが出来るみたい。
シュトラはチマチマした作業が好きだから、こういうスキルが得意中の得意。
「本当にあんた。地味だけど優秀ね」
「地味って言うな!」
だって、このポジションって完全に貧乏くじですもの。重宝されるけど「お前とりあえず地図開いとけばいいよ」みたいな扱いになるのがお約束なのよね。
まあでも、こういう雑用仕事を好き好んでやってくれる仲間がいて助かったわ。何だかんだで、頼りにしてるわよシュトラ。
地下27階層、進めば進むほどモンスターが強くなって、ハクシャのゴリ押しで対抗出来なくなってくる。
やっぱり、前衛アタッカーのハクシャに負担を掛けすぎね。一応、タンクの役割を持ってるイリアスが守りの要と言えるわ。
「スキル【発明】アイテム、レールガン!」
大型のロボットから雷属性の砲撃が放たれ、包帯を巻いた鈍足モンスター、マミーを撃ちぬく。最初は滅茶苦茶に暴れるだけだったけど、最近はアイテムスキルで的確な攻撃をするようになっていた。
ここ四日間で一番成長したのがイリアスね。ロボットが大型かつ耐久特化で、敵の攻撃を一身に受ける形になっていた。それが、彼女の成長を促したのかもしれないわ。
私はハンマーで蠍モンスターをぶっ叩きつつ、イリアスに以前気になったことを聞いてみる。
「あんた、何で私に協力してくれるの? レンジの師匠だからって、ヤバい奴らに関わる義理なんてないでしょ」
「うーん、あるって言えばあるんっすよね。あいつらに先輩の記憶消されちゃって、もう二度と会えなくなっちゃったんすよ。それで、少し怒ってるかもしれないっす」
ロボットの鉄拳が、ゾンビの上位種であるリッチをぶっ飛ばす。彼女のロボットは超重量級。動きは遅いけど、攻撃力も半端じゃなかった。
「だから少しだけ、一矢報いたいと思っただけっすよ」
『ニャー!』
イリアスの言葉に同意するように、ケットシーのリンゴが彼女の肩に飛び乗る。
こいつらも訳ありって事ね。本当に【ダブルブレイン】の奴らはこの世界を滅茶苦茶にしてるみたい。
なんか、今まで敵の計画になんて興味なかったけど、少しだけ気になってきたわ。大勢の人を巻き込んで、現実世界にも影響を及ぼして、あいつらは何をするつもりなのかしら。
野望と夢は紙一重。あいつらだって、仲間を何人も失ってる。そうまでして叶えたい夢なの? 夢を叶えて、その先はどうしたいの?
どうにも分からないわ。ただゲームを楽しむだけじゃダメだったのかしら……
ランスというプレイヤーが出入りしている階層は30階層。ダンジョンも後半の方で、ここまで来たら最下層の攻略も狙えるんじゃないかと思えてくる。
でも、実際は無理ね。今はNPCを入れて7人。レイドシステムが適応されると難易度が上がるから、9人の攻略がベストなのよ。この中途半端な人数じゃ最後の最後で躓くのが落ちでしょう。
でも、もう30階層は近い。私たち本当に強いわね。ミミは弱いけど、他がこんなに頑張ってくれるとは思わなかったわ。
「あんたたち、付いてきてくれてありがとう。敵のアジトまであと少しよ」
「水臭いぜ。俺たちは仲間だろ!」
「暑苦しい。そういうのいらない」
ハクシャの熱血を冷たくあしらい、29階層の階段へ向かおうとする。その時だった。
『フシャー!』
「リンゴちゃんどうしたの?」
ケットシーのリンゴが毛を逆立て、急に周囲を警戒しだす。うっそ、まさかボスモンスター?
いえいえ、おかしいでしょ。30階層なら分かるけど、何でよりによって28階層って言う中途半端な場面でボスが出るのよ。フェイントってレベルじゃないわよ。
でも、リンゴの警戒には今までも助けられてるし、まさか本当にボスが……
「来るぞ! 全員戦闘準備だ!」
ハクシャの声を受け、私たちはそれぞれの武器を構える。
今までこのダンジョンのボスに現れたのは死霊モンスターか鉱物モンスター。どちらも、ピラミッドの守護者をイメージしてて、雰囲気に合っていると言えるわね。
古代王ファラオか、岩の守護者スフィンクスか。そんなモンスターが現れると予測していたけど……
『ガルルルルル……!』
「マンティコアですね」
階段の下から現れる四足の獣。ミミの言うように、コウモリの翼を持つライオンのようなモンスター、マンティコアだった。
でも、マンティコアって密林の王者よね……それに、ライオンの顔の隣には、ヤギの頭部もついている双頭のモンスターみたい。微妙にデザインが違う……? 上位種……?
モンスターは知能があるらしく、私たちの様子を見ているみたい。野生モンスターの割には行儀がいいわね……
「砂漠にマンティコア……? チョイスがよく分からないっすね……」
「まあ、気にすんなって! 先に進むには戦うしかないさ!」
首をひねるイリアスに、全く気にしていないハクシャ。何にしても、ダンジョンを進むにはモンスターを倒す必要があるわね。
私たちは今までの戦い通り、決められたポジションで戦闘へと入る。ビスカとリンゴが最後尾に下がり、イリアスとハクシャが前線に立った。
バッファーのシュトラとミミは、先制バフへと移っていく。戦闘の基本は能力アップ。早めに使って有利な状況を作り出すのが望ましいわね。
「スキル【威力付与魔法】、魔法変換の印!」
「スキル【生命の木】」
シュトラの杖から放たれた光はハクシャの拳に宿り、ミミの触れた地面から一本の木が生える。
シュトラの使った【威力付与魔法】は武器に威力上昇効果を付与するもの。その中の魔法変換の印は、自らの魔法攻撃力に応じて味方一人の攻撃力を上昇させる。つまり、自分の魔法を味方の攻撃に変換するというわけね。
ミミが使ったのは【生命の木】。設置系スキルで、生やした木の周囲にいる味方をオートで回復させるスキル。使い所が難しいけど、設置した場所によっては高い効果を発揮するわ。
『グルルル……!』
マンティコアは結構素早く、最前線のイリアスに牙をむける。でも、お生憎様。機械技師にはお得意のペットスキルがあった。
「スキル【起動】っす!」
「いくぜ! スキル【渾身】!」
彼女は巨大ロボットに乗り込み、マンティコアの牙を剛腕によってガードする。そして、その隙を利用してハクシャが攻撃力アップのスキルを使用した。
ここまでは順調。モンスターは続いて鋭い爪を振りかざすけど、イリアスはそれもガードによって止めてしまう。
やっぱり機械技師は堅いジョブね。私もこの隙を利用して、ハクシャと共に攻撃へと移っていった。
『ご主人様! 【武器変更】とか使わないでくださいね! 私を使ってくださいね!』
「あーうっさいわね。今は様子見だから使わないわよ。スキル【武器解放】」
お喋りハンマーがうるさいから、とりあえず普通に殴る事にする。【武器解放】によってハンマーを巨大化させ、それを思いっきりマンティコアに叩きつけた。
『グガ……!』
「よっし! スキル【破砕拳】!」
『ニャニャー!』
私が攻撃を打ち終えるのと同時に、ハクシャの拳が敵の体に打ち付けられる。そして、さらに追い打ちをかけるように、リンゴの【土魔法】クレイリジョンがモンスターの足元から打ち付けられた。
【破砕拳】は命中し辛いけど威力は最大級、それに【土魔法】の追加効果で敵の足場が崩れる。良いペースね。どんどん攻撃が入っていくわ。
でも、ここで私たちの予想としていなかった事態が起きた。
『グオオオオ……!』
「え……?」
突如、ライオンの首が火を噴き、イリアスとハクシャを飲み込む。硬い防御も火炎攻撃には無意味、当然ジャストガードなども行えず無防備なまま攻撃を受けてしまった。
すぐにビスカとミミがサポートに移る。ビスカは回復魔法しか使えないから、その代わりに反応が早かった。
「スキル【回復魔法】ヒールリスです!」
「スキル【生命の木】」
「ちょっと! マンティコアって火吹いたっけ!?」
何故かミミが【生命の木】を二本に増やす。「今回復したいのに永続回復とかいらないから!」と突っ込みたかったけど、とりあえずスルーよ。
今はそれよりマンティコアが火を噴いたこと、もう密林のみの字もないような行動に移ってきたわ。こいつ、本当にマンティコアなの?
『ご主人様、もしかし……』
「スキル【武器変更】アイテム、エルフの弓! で、スキル【武器解放】!」
お喋りハンマーが何かを言いかけたけど無視して【武器変更】。代わりに装備したエルフの弓をモンスターに向け、【武器解放】によって巨大な矢を放った。
イリアスは再び防御の態勢に入り、ハクシャは【生命の木】に下がる。私と一緒に攻撃に入ったのはケットシーのリンゴ。そして、サポートにはシュトラが付いた。
『ニャニャニャー!』
「スキル【属性付与魔法】水の印!」
全員考えている事は同じね。敵が炎を噴いたことにより、マンティコアの属性は炎だと確信する。
リンゴは【水魔法】アクアリジョンを発動させ、シュトラは【属性付与魔法】によって私の弓を水属性へと変えた。これで弱点を一気に攻撃よ。
やがて、リンゴの放った水流が敵を飲み込み、水を纏った私の矢がその体を撃ちぬく。でも、ここで更に予想としない出来事が起きた。
『グオ……!』
「ちょ……ええ!?」
炎属性だと思っていた敵が、今度は氷の息吹を噴く。吹いたのはヤギの顔の方。まさか、二つの顔で別の属性攻撃をするなんて……
息吹は前衛のイリアスには当たらず、中距離の私とシュトラに命中してしまう。その凍結効果により、体が瞬時に凍り付いてしまった。
これは不味いわね……凍結の効果は一瞬だと思うけど、氷が砕ける前に距離を詰められてしまうわ。
私は良いけど、仲よく凍ってるシュトラのDEF(防御力)はペラペラ。このままだとシュトラが昇天する。
「イシュラ、シュトラ! スキル【真空破】!」
「今治します! スキル【回復魔法】キュア!」
必死だったのか、ハクシャが珍しく遠距離スキルを使用する。放たれた拳圧は敵の進撃を阻害し、その隙にステラが状態異常回復魔法を放った。
氷が砕け、私は動けるようになる。今のはヤバかったけど、これで敵が二つの首という事が分かったわ。まあ、情報が分かればこっちのものよ。
「スキル【武器変更】アイテム、魔導師の杖」
「スキル【魔攻付与魔法】、雷の印!」
私は【武器変更】で武器を杖に変える。私の次の動きが分かったのか、シュトラは【魔攻付与魔法】の効果を私の武器に付与した。
【魔攻付与魔法】は敵に攻撃を与えたとき、小威力の魔法攻撃が追い撃ちされるというもの。つまりダメージを与えれば、敵に雷が落ちるっていう事ね。
防御はイリアスに任せて、私はとにかく攻撃よ。そろそろ、あの偽マンティコアもボコボコ確定だった。