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エルドガルドギルド  作者: 白鰻
三十八日目~四十二日目 ガンボージ遺跡
146/208

146 因縁の始まり

 【ディープガルド】時刻の12時。私たちはワープの魔石を使い、【イエロラ大陸】道楽の街オーピメントに移動する。

 昼食を取ったらすぐに砂漠越えね。明日にはガンボージ遺跡の攻略を開始したいから、今日中に幻影沙漠を突破しないと。

 でも、私以外のメンバーは急ぐ気がないみたい。

 街のレストラン。香辛料で作られたカレーのようなものを食べつつ、ミミとハクシャはお喋りを続ける。


「ROCOというギルド名はハワイで生まれ育った人を意味します。私はハワイが好きなので」

「それならさ、RじゃなくてLじゃね? 正しくはLOCOだろ」


 無駄に博識なハクシャにより、【ROCOロコ】というギルドの根本が否定された。このギルドマスター、やっぱりおバカだったのね。

 初めて指摘されたのか、ミミは動揺した様子で口をパクパクとさせる。そして、精いっぱいの強がりを言いだす。


「わ………わざとに決まっています……おしゃれです!」

「そうか、良い名前だな!」


 笑顔でそう返すハクシャ。この聖人め、裏がない奴は世渡り上手ね。

 それにしても、こいつらやる気あるのかしら。シュトラはビスカやイリアスと話してるし、お喋りしに来たわけじゃないのよ。

 そろそろ、文句の一つを言おうとした時、お喋りハンマーが私に話しかける。


『ご主人様ボッチですね』

「うるさいわゴルァ!」


 机を両手で叩き、私は叫んでしまう。またやっちゃったわね……それもこれも、こいつが変なことを言うから……

 これは不味いわ。完全に周囲から変な目で見られてるし、イリアスさんは私のことを心配しているみたい。


「ど……どうしたっすかイシュラっち」

「ごめんなさい。最近、お姉ちゃんの頭がおかしいんです……」


 フォローに見せかけて喧嘩を売ってくるシュトラ。よし、こいつは後で殴ろう。

 今はそれよりお喋りハンマーね。こう会話の度に口を挟まれたら、こっちのペースが狂わされて仕方ないわ。

 私はハンマーを床に打ち付けるが、金属製のこいつに効くわけがない。まったく悪びれる様子もなく、ハンマーは言う。


『ほーら、私のことを話さないからこうなるんです』

「うっさいわね。あんたは切り札なの。今はまだ明かさないわ」


 何も持っていない凡骨の私が、唯一持ってる特別な力。それが製作した武器と会話する【万象】のスキルだった。

 たとえ仲間でも、こいつの事は絶対に話さない。私は何の力もないプレイヤーの振りをしつつ、いつか大きな事をするんだから。ま、その大きな事については何も考えてないんだけど。


「とにかく、あんたは黙ってなさい。いつか皆にも話すから」


 小声でハンマーを注意し、私は作り笑いを浮かべる。そして、周囲に無理のある弁解をしていく。


「ちょっと人が多いところが苦手で……思わずうるさいって言っちゃったわー」

「イシュラ、カルシウムを取れ! 牛乳だ牛乳!」


 ハクシャの言うように、私はイライラしすぎなのかもしれない。カルシウムで落ち着くとは思えないけど、やっぱり頭は冷やした方が良さそうね。

 この暑い砂漠の街だと、余計にイライラして仕方がないわ。それに加えて、ギルド【IRISイリス】から遅れているという焦り。晴らすためにはやっぱり前に進むしかない。

 とりあえず、目の前にあるカレーを口に入れる。今は焦っても仕方ないし、幻影沙漠の突破方法を考えるしかないわ。
















 オーピメントの街を出て、私たちはサンビーム砂漠を歩いて行く。

 とにかく日差しが熱くして仕方ないけど、モンスターは序盤の雑魚ばかり。一々相手にしてられないから、全部逃げて対処していく。敵も格上の私たちを襲おうとはしないし、進みが速くて助かるわ。


 道中、うるさいお喋りハンマーにお仕置きするため、ケットシーのリンゴをけしかけてみる。

 こいつ、ハンマーが喋っている事が分かっているのか、積極的に引っ掻いたり噛み付いたりしてるわね。空気が読める子で本当に助かるわ。


『ニャー!』

『や……やめてください! ご主人さま助けてー!』


 誰が助けるか、あんたに必要なのは自重よ。私はリンゴによって揉みくちゃにされるハンマーを満足げに観察する。


「ざまーみろ、お喋りハンマー!」

「お姉ちゃん……」


 シュトラたちに変な目で見られるけど、今は我慢よ我慢。いつか【万象】の力で皆をぎゃふんと言わせてやる。その為にも、お喋りハンマーの調教が必要なのよ。

 気が済んだところで、ハンマーを回収する。さーて、あと少し歩いたら幻影沙漠、モンスターのレベルも一気に上がるから注意しないとね。




 サンビーム砂漠の幻影地帯。砂嵐が吹き荒れ、幻影の風景が見えるフィールドね。

 この砂漠を突破するのが面倒だから、ガンボージ遺跡の攻略はあまり進んでいない。本気で進むなら、数週間は街に戻らない事を考えないといけないわ。

 ワープの魔石は街にしか対応してないから、一度街に戻ったらまた砂漠越え……本当、何でこんな場所にダンジョン作ったのよ。

 この幻影沙漠を突破する方法は既に調査済み。街で買ったコンパスを頼りに、ひたすら真っ直ぐ進めば良いだけだった。

 見えるものは幻影だから無視。砂嵐は大変だけど、仲間とさえ離れなければ問題ないわね。幸い、モンスターはほとんど出てこないから、本当に越えるだけのフィールドみたい。


「コンパスに従えば余裕よ余裕。あんたたち、逸れちゃダメよ」

「あ、燃料の石炭買い忘れたっす! 帰って良いっすか?」


 はぁ……!? 砂嵐をもろに受けつつ、イリアスがとんでもない事を言い出す。

 ちょっと、まだ入ったばっかなんだけど……石炭が無いんじゃ、あんたロボット動かせないじゃない! タンクの機能が停止するじゃない!

 バカすぎる……私が文句を言おうとした時、今度はミミとビスカが騒ぎ出す。


「……? このコンパスという物は何を意味しているのでしょう? 針の方向に遺跡があるのでしょうか?」

「さ……砂漠はダメ……水……水……水……」


 明後日の方向へ行こうとするミミをハクシャが止め、砂の上に膝を落とすビスカをシュトラが介保する。ダメだこれ……こんなんじゃ真面にダンジョンを進むなんて無理よ……

 ハクシャはこのありさまに爆笑する。まあ、笑うしかないでしょうね。


「ハッハッハッ! イシュラ、このパーティーヤバいな!」

「全く笑えないわよ!」


 まだダンジョンにも到達していないのに、一度目の攻略は失敗ね。私たちはミミとビスカを引きずりつつ、砂嵐の当たらない方へと引き返した。

 こんなんじゃ先が思いやられるわ……とにかく、丁度近くにオアシスがあるからそこで作戦会議ね。サンビーム砂漠の中央にあるナルシスの泉。ここなら、多分石炭も買えるでしょう。

 やっぱり、生産職を戦わせるのは無理があるのかしら。私一人頑張ったって、何の意味もないじゃない……















 幻影地帯から少し歩き、私たちはナルシスの泉で休息を取る。

 イリアスは石炭の入手に行き、ミミはテントで販売されてる果物や野菜に真剣みたい。バカから目を離すと怖いから、それぞれにシュトラとハクシャを同行させた。

 私はNPCのビスカと行動。彼女は泉を見ると、その前で上衣を脱ぎ捨てる。まさかこいつ……


「わあい! みっずだー!」

「ちょ……」


 ビスカが池に飛び込み、あたりに水しぶきが巻き上がった。猫のリンゴはその水を被り、『フニャー!』と鳴き声を上げる。こいつもいい迷惑ね……

 ナルシスの泉を悠々と泳ぐビスカ。その時、私は不自然な点気付いた。こいつ、あまりにも泳ぐのが早すぎる。明らかに人間の速さじゃない。

 彼女の姿を観察すると水の中に見える下半身。それは、本当に人間の物とは異なっていた。


「さ……魚ー!?」

「人魚です。人魚の街セレスティアル出身ですので」


 泳ぎを止め、こちらを見るビスカ。尾びれのある魚のような下半身はまさに人魚の物だった。

 ギルド【IRISイリス】の奴ら、こんな隠し玉を用意していたのね。NPCの他種族とも仲良しって、どんだけチートギルドなのよ。

 まあ、私には関係ないわ。こいつが人魚であろうと何だろうと、攻略に協力してくれるって言うのなら何だっていい。


「ふーん、人魚が砂漠なんて越えれるの? 大の苦手でしょ?」

「い……行けます! 行かせてください! 初めは興味本意でしたが、ここまで来たら頑張りたいです!」


 NPCは私たちプレイヤーと違って、死んだらそこでお終い。同じキャラクターが新たに生成されるけど、消えた本人は蘇らない。

 こんな奴を本当に連れて行っていいのかしら……やる気でどうこう出来る問題じゃないでしょ。


「でも、死なれたら気分悪いし……」

『ご主人様! 私からも頼みます! 同じNPCとして、彼女の気持ちが分かるんです!』


 ハンマーがいきなり熱血口調で参入する。いや、ビスカもハンマーに気持ちを分かってほしくないでしょ……だって、あんた無機物じゃない。

 まあ、それはそれとして、こいつもこう言ってるし連れていくか。いざとなったら、このハンマーを盾にすればいいや。


「分かった。ただし、死ぬんじゃないわよ」

「わあい! ありがとうございます!」


 泉から飛び出し、ビスカは私の手を握る。ひたひたに濡れてるからちょっと不快……でも、感謝の気持ちは伝わったわ。

 さーて、充分休息したし、そろそろ攻略を再開ね。今度こそ幻影沙漠を突破して、レンジの奴を見つけてやるんだから!

 私がそう決意を固めた時だった。

 この泉に訪れたことによって、新たな機転が生まれてしまう。ある人物と私たちは出会ってしまったから……


「人魚……いえ、失礼。珍しかったのでつい……」


 珍しいものを見るような顔で、一人のプレイヤーがビスカを見る。でも、失礼だと思ったのか、すぐに謝罪をして視線を逸らした。

 学者のような服装をした眼鏡の男。ジョブは錬金術師アルケミストかしら。彼は眼鏡のズレを直し、私たちの前へと歩いてくる。


「セレスティアルから遥々ようこそ。砂漠の大陸は不慣れでしょう」

「はい、でも大丈夫ですよ。頑張りますよ!」


 こいつ、初めて会ったのにペラペラ喋るわね。馴れ馴れしい性格なのかしら。

 でも、悪い奴じゃなさそう。結構年上のプレイヤーだけど、誠実そうで嫌な印象は受けないわね。

 こいつに疑う部分なんて何一つない。でも、ここでお喋りハンマーがいきなり騒ぎ出す。いったい、何が気に食わないって言うのかしら。


『ご主人様……この人、何か嫌です……怖いです……』

「何が怖いのよ。唯のおっさんじゃない……」


 口ではそう言うけど、確かに怪しいかも。ケットシーのリンゴは全身の毛を逆立て『フー……!』と威嚇していた。

 握ったハンマーから震えが伝わる。まるで、こいつと精神が繋がっているかのように、次第に恐怖心が芽生え始めた。

 そんな私をビスカと男は不思議そうに見る。また、変な人に思われちゃうわね……ほんと、ハンマーの奴は何をさせたいのかしら。


「あんた……何者なの……」

「しがない砂漠の錬金術師アルケミストですよ。仮想空間の研究をしています」


 再び眼鏡のズレを直し、錬金術師アルケミストは私の質問に答える。何者かと聞かれて名乗らない事が、私の恐怖心を確信へと変えた。

 すぐに、ビスカとリンゴを抱き寄せる。そして震えるハンマーを思いっきり握りしめた。

 当然、戦闘なんてする気はないわ。これは念を入れた警戒よ。何事もなく終わってくれるなら、それが一番良いの。お願いだから、このまま退いて……

 私に警戒されたことを悟ったのか、男は残念そうに頭を下げる。物腰は紳士な男性で、やっぱりこいつに疑う余地なんて何一つなかった。


「申し訳ございません。いきなり話しかけて怖がらせてしまいましたね。では、そろそろお暇させてもらいます」


 本当に偶然私たちに会ったのか、錬金術師アルケミストは何もせずに姿を消す。もしかして、私の勘違いだった……? お喋りハンマーの奴、無駄にあの人を傷つけちゃったじゃない。

 でも、怪しいのは事実だったわね。結局、何者だったのかしら……


 そうこうしているうちに、ハクシャやシュトラたちがこちらへと戻ってくる。色々あったけど、これでようやく冒険再開ね。

 私たちの行動は、【ディープガルド】の命運とは関係ないと思ったけど……少しづつ、大きな因縁に巻き込まれていると感じてしまった。

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