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エルドガルドギルド  作者: 白鰻
三十三日目 歯車の街テラコッタ
132/208

131 ありがとうございます

 タンジェリン機械遺跡の周囲を回り、俺はリュイとギンガさんが戦う場所へとたどり着く。

 どうやら、敵のリフレクトを解除したらしい。ここに来るまで、何度も【星魔法】が落下する光景が見えていた。

 明らかに無駄撃ちだが、おかげで早く合流出来たので良しとしよう。まずは様子を見つつ、支援するタイミングを見計らうんだ。


「スキル【袖摺返そですりがえし】!」

「スキル【回復魔法】ヒールリジョン!」


 リュイは魔法攻撃をカウンターし、ルージュにダメージを与える。しかし、後衛のマシロによって瞬時に回復されてしまった。

 聖なる光を受け、魔導師ウィザードの少女は全快となる。それでも、リュイは諦めずにダメージを狙っていった。


「スキル【壁添かべぞい】!」

「スキル【防御魔法】プロテクション!」


 機械遺跡の外壁を沿うように、彼は刀を動かしていく。だが、その攻撃が放たれるより先に、マシロはルージュの防御力を上げてしまった。

 少女を覆う透明の壁に阻まれ、刀によるダメージは軽減される。僧侶プリーストが支援に回ったのは厄介だ。こりゃ、ジリ貧になりそうだな……


「ルージュは私の友達! またリュイに奪われるのはやだ!」

「くっ……」


 マシロと対峙する事によって、リュイは精神的にダメージを受けているようだ。この二人を戦わせるのはあまり得策じゃないな。

 俺は彼の支援に入るため、戦いの場に参入する。それと同時に、ギンガさんの魔法がマシロを捉えた。


サムライの少年よ。惑いは刃を鈍らせるぞ。スキル【星魔法】プチメテオ!」

「スキル【地魔法】アースリス……!」


 彼はカッコいい体勢から、ど派手な杖を一振りする。しかし、そこから放たれた星は、迫り上がる大地によって阻まれてしまう。ルージュの発動した大地の魔法だった。

 魔法を防がれたことにより、ギンガさんはキレる。大人げなくキレまくる。


「ルージュ貴様ァァァ!」

「師匠はいつも分かってくれない……ボクのことなんて全然!」


 あの人に理解を求めるな。無理だから。

 それにしても、相変わらずルージュの支援は上手いな。魔道士ウィザードにも関わらず、後衛のマシロを器用に守っていた。

 相手は【覚醒】持ちが二人、こっちも三人で一気に攻めるしかない。何とかルージュに近づかなければ、こっちの策が実行できなかった。


「リュイ、ギンガさん。遅くなりました」

「レンジさん! ビューシアさんは……」

「アイに丸投げした。今は先にルージュを救いたい」


 俺とリュイは、敵から下がりつつ会話を交わす。相手は魔法職のため、距離を取るのはそこまで有効ではない。

 しかし、戦いを仕切り直すのには、やはり距離が重要だ。おかげで敵が今どんな感情を抱いているのか、改めて認識できた。


「リュイ……! 絶対に許さない! リルベの仇!」


 俺とリュイが距離を取った事により、マシロはルージュの支援を放棄する。そして、長い詠唱をこちらに向かって唱えていった。

 狙いは完全にリュイ。あいつの憎しみは本物ってわけか……これはお節介だけど止めないとな。


「スキル【聖魔法】プチホーリィ!」


 マシロの杖から白い球体が放たれる。詠唱が予測よりも短い。恐らく、これは低級魔法だろう。

 リュイは魔法を防御してカウンターするため、刀を構える。だけど悪いな。お前にあいつの攻撃を受け止めさせる訳にはいかない。


「スキル【起動スタンドアップ】!」


 俺はロボットに乗り込み、リュイの前に立ち塞がる。そして、防御の体制を取り、マシロのプチホーリィを両腕で受け止めた。

 魔法攻撃のため、防御上から大ダメージを受ける。HPは合流前に回復したが、過信していたら先にメカがいかれそうだ。

 そんな俺の行動にリュイは声を荒げる。どうやら、介入してほしくないらしい。


「なんで……これは僕が背負うべき業なんです! 貴方が受け止める必要はないんですよ!」

「あるさ、これはリルべの名誉のためだ」


 そうだ……虚空に消えたリルべからは、憎しみや恨みを感じなかった。あの表情からはやるせなさ、やりきれなさを感じたんだ。

 俺はこう思っている。あいつは素直になれなかった。それが悔しかったんだ。


「マシロ、俺は復讐を否定する気はない。だけど、リュイを恨むのはお門違いだ。少なくとも、リルべはこいつを恨んじゃいない!」

「うるさい! お前にリルべの何が分かる!」


 攻撃の手を止め、マシロはムキになって叫ぶ。いつも眠そうに、何事にも興味がなさそうにしていた彼女が、こんなにも怒っている。やっぱり、こいつらは人間なんだ。

 俺は【起動スタンドアップ】を解除し、ゆっくりとマシロに近づいていく。今は言葉をぶつけ合う時。武器も兵器も必要ない。

 ルージュとギンガさんも戦いを中断し、そんな俺たちを見つめる。戦いよりも大切なことがあったからだ


「分からないよ。分かってやれなかった……結局、俺は後悔ばかりだ……」


 そうだ……俺は最後まであいつを理解出来なかった。いや、あいつだけじゃない。ヌンデルさんも、イデンマさんも、誰一人分かっていない。


「だけどこれだけは言える。あいつはリュイを好敵手として認めていたし、今のお前を見たら失望するだろうな!」

「うるさい! うるさ……」


 マシロが杖を振りかざした瞬間だ。彼女は呆然とした表情でその手を止めてしまう。

 すでに、俺は目の前まで歩み寄っている。しかし、それでも少女は武器を振り落そうとはしなかった。

 何もない空間を見つめるマシロ。やがて、彼女の頬に一筋の雫が流れた。


「リルべ……」


 いったい何が起きているんだ。こんな事があり得るのか。まさか、あの何もない空間に見えない魂が存在しているというのかよ……

 マシロは泣きじゃくりながら頷いていく。ただ、何度も何度も……


「うん……うん……分かった……マシロ分かった……もう復讐やめる……」


 死んだリルべが、蘇って俺たちを助けた……? いやいや、ありえないだろ……ここがゲームの世界だからと言って、消滅したデータが戻るわけがない。

 ギンガさんは腕を組み、目を閉じる。彼が今起きている奇跡に納得するはずがなかった。


「死者の意思が通じたと? ふん、非ィ科学的だ」

「でも……もし本当なら素敵です……」


 そんな彼とは対照的に、ルージュは胸を抑え、マシロと同じように涙を流す。そこに、普段の演じられたキャラクターは無かった。

 今は敵対する形となっているが、あの少女は紛れもなくルージュだ。彼女が優しい心を持っているなら、かならず取り戻すことが出来る。そう俺は確信した。

 こんな希望を見据えたのもリルベのおかげなのかもしれないな……


「ありがとうございます……」


 マシロの視線の先に向かってリュイは頭を下げる。もし本当にあいつが助けてくれたなら、彼も嬉しいだろう。最後の最後に分かり合えたのだから。

 俺は【奇跡】のスキルを使って、本当に魂が存在しているかどうか調べようとする。しかし、すぐにその考えを改めた。

 無粋だ。リルベはマシロに話しているのに、俺が首を突っ込む必要はない。

 奇跡が起きたんだ。それだけで良かった。


 やがて、マシロはローブで涙をぬぐい、こちらをキッと睨む。なるほど、ここからが本番というわけだな。彼女の瞳は以前と違い、力強く輝いていた。


「リュイはもういい! でも、勝負は別!」

「ああ、そりゃそうなるよな! だけどこっちも負ける気はない!」


 俺とマシロが向き合うと、ルージュが慌てた様子で構え直す。俺の目的は最初から一人、彼女を救う事だ。

 もしかしたら、本当にあいつは現実を無くしてしまおうと考えているかもしれない。俺たちを裏切ったのも本人の意思できっちり考えてやったことかもしれない。

 それでも、俺はあいつの魂と話したかった。だからこそ、この【奇跡】のスキルで切り開くんだ。


「ルージュ! 待ってろ……すぐにそこから引っ張り出してやる!」


 ここからは直接体でぶつかり合う必要がある。【起動スタンドアップ】のスキルは封印して、このスパナでぶん殴っていくしかない。

 だが、そのためにはマシロの魔法が邪魔だ。ギンガさんに支援してほしいが、協力してくれるかどうかは怪しいだろう。

 俺が一人考えていると、リュイがその横に付く。とりあえずは、こいつに頼るしかないな。


「どうするつもりですか?」

「【奇跡】のスキルを使って魂と対話する。そのためには、ルージュの中に入らないと」


 俺がそんなことを話すと、なぜかギンガさんが食いついた。


「中に入るだと? ふん、エロいな!」

「ギンガさん、死んでください」


 幼気な少年を前に、なぜそんなくだらない発想が出来るんだろう。やっぱりこの人は最低だ。

 俺もリュイも、ルージュやマシロだって本気で戦いに臨んでいる。それぞれの意思があって、失った魂を背負って対峙しているんだ。

 それなのに、この人は自分勝手に暴れているだけ。助けては貰ったが、俺たちを侮辱するなら出ていってもらいたい。


「僕は小学生相手にやましい気持ちは持っていません。ただ、あいつを取り戻したいだけです」

「分かっている。貴様の思い人はアイという少女一人だろう」


 不敵に笑みを零し、ギンガさんはそう言いかえした。

 いきなり何を言っているんだ。体が熱くなってくるだろ……やめてくれよ……


「何ですか急に……」

「ふん、図星か。良いだろう、貴様が何をやらかすか見たくなった」


 彼は俺を押しのけると、銀河を模した杖を握りしめる。そしてそれを軽々と一回転させ、魔法の詠唱を始めた。


「マシロという少女を止める。【HP代価】のスキルによって身を削るが問題はない。私のライフ、貴様にくれてやる」


 これは掌返し不可避。この人やっぱかっこいいわ。自分勝手だけど、それ相応のかっこよさあるわ。

 俺はこの人を見くびりまくっていたな。エルド、クロカゲさん、ディバインさんに次いで四位の実力者。弱いはずがないし、意思がないわけがない。

 ギンガさんは常に本気だ。おふざけなんて一切ない。全てに対して本気なんだ。

 彼を期待させたからには、それに応えなくちゃな。ルージュ……絶対に取り戻してやる!


「行くぞリュイ! サポートを頼む!」

「はい! 必ず守り抜きます!」


 俺とリュイが走り出した瞬間、周囲に大量のメテオが落ちていく。仲間の魔法はライフに影響を及ぼさない。このメテオの雨の中を俺たちは無傷で進むことが出来た。

 だが、凄まじい音と衝撃は回避できない。抉れていく大地をかわし、俺はルージュの元へとたどり着いた。


「スキル【解体テイキング】!」

「スキル【兜割り】!」


 俺がスパナを叩きつけると、ルージュはメイスで応戦する。互いのスキルが打ち付けられ、攻撃は相殺になった。

 さて、彼女に【奇跡】をもたらす事が出来るのだろうか。

 まあ、考えても仕方ない。なるようになれだ。


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