表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルドガルドギルド  作者: 白鰻
三十三日目 歯車の街テラコッタ
130/208

129 脳内宇宙

 ビューシアはようやく剣を構えると、その刃をこちらへと向ける。

 相変わらず動作は遅く、レベルは俺やリュイよりもはるかに低い。他の【ダブルブレイン】とは異質な存在だと感じられた。

 しかし、奴のプレイヤースキルは上位レベルだ。おまけに、今はルージュも敵にまわっていた。


『さあ、ルージュさん。彼らに分からせてください。現実というものがいかにくだらないものか……』

「うむ……! スキル【覚醒】!」


 少女の瞳に三角帽子の紋章が浮かび上がる。バーサクの状態異常を受け、彼女はより一層暴走状態となった。

 巨大なメイスを軽々と振り回し、ルージュはこちらへと走り出す。【覚醒】の効果により、そのスピードは遥かに上昇しているようだ。

 俺は彼女の通常攻撃をスパナによってジャストガードする。しかし、メイスを弾いたとしても、この少女には得意の追撃魔法があった。


「やめろルージュ!」

「うるさい……! スキル【炎魔法】ファイアリス……!」


 読んでいても対処できない攻撃はある。ルージュは弾かれながらも、メイスから燃え盛る炎を放った。

 魔法攻撃はジャストガード不能。おまけに、機械技師メカニックの動きは他よりも劣っている。彼女の魔法攻撃を回避できるはずがなかった。

 炎に身を焼かれ、俺は大ダメージを受ける。ルージュがINT(魔法攻撃力)を鍛えていたら一撃で詰んでいたかもな……

 すぐに、サムライのリュイがサポートへと走る。しかし、俺の眼は後方に潜む新たな敵を捉えていた。


「レンジさん!」

「スキル【光魔法】シャイン!」


 眩い光がリュイの頭上に降り注ぎ、彼を地面に叩きつける。魔導師ウィザードが習得できない【光魔法】。この魔法を最も得意としているのは僧侶プリーストだった。

 やがて目隠しをした少女が俺たちの前に現れる。彼女はその目隠しを外し、白い瞳でリュイを睨み付けた。


「リュイ……リルベを殺した!」

「マシロさん……ですか……」


 サムライは立ち上がり、マシロから目を逸らす。後ろめたい気持ちは分かるが、お前はリルベを救おうとしたんだ。何も気に病む必要なんてない。

 しかし、マシロの参入によって状況は最悪となる。相手は三人、こちらは二人。これでは勝負にならないだろう。

 やはり、ルージュを正気に戻すしかない。俺はただひたすらに彼女に向かって叫ぶ。


「ルージュ……聞いてくれ! 俺は……」


 だが、その瞬間。こちらに向かって黒い刃が振り落された。

 とっさにその攻撃をガードし、互いに武器を押し付けあう。戦士ナイトビューシアは容赦なく、俺を打倒しようと力を入れた。


『貴方の相手は私ですよ……レンジさん……』

「くそっ……! 邪魔だ! スキル【覚醒】!」


 俺は【覚醒】のスキルを使用し、自らの能力を上昇させる。敵は【ダブルブレイン】かつ、最強のプレイヤーキラー。一切の油断はなかった。

 しかし、奴は戦士ナイトの割にSTR(攻撃力)が異常に低い。こいつは俺の思った以上に低レベルだな。すぐにスパナを振り払って、敵を後方へと弾き飛ばした。

 それでもビューシアはすぐに体勢を立て直す。再び距離を詰め、今度は俺の腹部を狙って下方から斬り上げた。


「何だよこれ……」


 奴の動きは完璧だ。並のプレイヤーならば、攻撃を防げず一撃を受けていただろう。

 しかし、俺には彼の動きが読めていた。まるで誘われるようにスパナを動かし、ビューシアの攻撃をジャストガードする。そして、再び誘われるようにスパナを動かし、彼の顔面へと武器を振りかざした。


『流石はレンジさん……』

「凄い……」


 だが、ビューシアはその攻撃をジャストガードし、瞬時にその場から退避する。リュイは感心しているが、これは俺の実力ではない。この戦いは何かがおかしかった。

 敵の動きは読めるが、こちらの動きも読まれている。互いに手の内が分かっているような……互いに心が通じ合っているような……


 こいつと戦うと何故か落ち着くような……


「何なんだお前……何なんだよ……!」

『私は貴方の因縁……貴方にとっての全てですよレンジさん……』


 背筋が凍りつき、言葉に出来ない恐怖が俺を襲う。

 ダメだ。こいつと戦っているとおかしくなる……今はルージュを救う事が最優先。こんな奴の相手なんてしていられない!


「スキル【起動スタンドアップ】!」


 俺はロボットに乗り込み、ルージュの元へと走らせる。メカの修理は完了しているが、使用できるのは一回の戦闘で三分程度。この三分を無駄には出来ない。

 少女は俺を見ると魔法の詠唱を始める。相手が魔法職なのは厄介だ。ジャストガードを得意とする俺に、魔法攻撃は天敵中の天敵だった。


「スキル【氷魔法】アイスリス……!」

「スキル【光子砲レーザー】!」


 ルージュの放った凍結魔法をロボットが放つレーザーによって相殺する。瞬間、互いの攻撃がぶつかり合い、蒸気を巻き上げ小爆発を起した。

 反動でロボットの動きが止まる。それを見計らい、ルージュはメイスによる接近戦へと移っていく。

 相手にしてみて初めて気づく。このゲームにおいて、遠距離技と近距離技を使い分けるのがどれほど厄介かという事が……


「スキル【二連撃】……!」

「スキル【解体テイキング】!」


 一撃目を【解体テイキング】で相殺したが、二撃目がロボットのボディへと打ち付けられる。装甲の堅いこいつに生半可な物理は効かない。だが、本命は次に控える連続魔法だった。

 ルージュは攻撃を行いながらも、詠唱を行っている。【移動詠唱】のスキルが、彼女の赤魔導師としての動きを可能としていた。


「ルージュ! 正気に戻ってくれ!」

「ボクは正気だ……! スキル【水魔法】アクアリス……!」


 魔導師ウィザードの放つ激流、直撃を受ければ一貫の終わりだろう。

 やられる……あのルージュに全てを消される……俺の頭は回転し、この危機を打開する策へと動かしていった。


「解除だ……!」


 ロボットをアイテムボックスへと戻し、俺は機体の外へと投げ出される。間一髪、その横を水流が流れ、攻撃の回避に成功した。

 悔しそうな顔をするルージュ、この場は何とか切り抜けたな。

 しかし、一難去ってまた一難だ。リュイとマシロが戦う方から大きな声が響く。


「レンジさん! 逃げてください!」

「これでお終い! スキル【聖魔法】ホーリィ!」


 俺たちの足もとに巨大な魔法陣が浮かび上がる。僧侶プリーストマシロが扱う【聖魔法】だった。

 ダブルブレインにHPの概念はない。【回復魔法】を扱う必要性はないため、彼女はINT(魔法攻撃力)特化だと予測できる。この魔法が発動した時点でお終いだ。

 再び俺の頭は回転する。しかし、今度の今度は策が思い浮かばない。

 諦めてたまるか……俺はスパナを握りしめ、マシロを止めようと動き出す。その時だった。


超波動銀河流星群アルティメットギャラクシーバーストォォォ!」


 突如【星魔法】の最上位技、メテオストームが降り注ぐ。これはメテオを全範囲に降らせる最強の攻撃魔法。使えるプレイヤーは一人しかいないだろう。

 地上に降り注ぐ星々は、周囲を包む白い光と相殺していく。轟音を響かせ、シエナ平原の大地をえぐっていったが、相殺のためこちらへのダメージは防がれた。

 ギンガさん、結局助けてくれたじゃないか。ピンチの時を待っていたのは頂けないが、この支援がなければ不味かった。

 彼は腕を組みながら、俺たちの前へと姿を現す。


「ふん、また【聖魔法】か。芸のない奴だ」

「お前に言われたくない!」


 思考停止【聖魔法】と思考停止【星魔法】。戦略性はないが単純に強い。どちらも消費が大きい代わりに莫大な威力を持つ魔法だった。

 すぐにリュイが駆け寄り、彼を盾にするように立つ。


「ギンガさん、どうしてここに!」

「散歩……いや、宇宙遊泳と言ったほうが良いか……」


 絶対、俺たちを監視していたな。仲間にしてほしいならそう言えば良いのにな……まあ、この立ち位置の方が彼らしいか。

 それに、今回俺たちを助けたのはギンガさんなりの拘りがあったのだろう。ルージュがあのようになったのはギンガさんも面白くないはずだ。


「ルージュ……貴様……」

「し……師匠……」


 彼は魔導師ウィザードの少女を睨む。だが、すぐにその表情は和らぎ、たちまち上機嫌となった。


「ふん、流石だと褒めてやろう。仲間を裏切ってまでも貫きたい意志。中々の強かさだ」

「おいいいィィィ!」


 何言ってんだこの人! 頭ん中コスモかよ!

 要するに彼は根っからの個人主義者。例え周りを巻き込もうが裏切ろうが、自らの芯を通せばそれが正義となる。恐らくそう思っているのだろう。

 だからこそ、ギンガさんは自分に絶対的自信を持っている。たとえ自らを尊敬する少女が相手だろうが、容赦するはずがない。


「ルージュ、前にも言っただろう。貴様には貴様の意志があるように、私には私の意志がある。だからこそ! ここでブラックホールの彼方へと消えるがいい!」

「ギンガさん! 次のゲームオーバーでルージュさんの記憶が消えないという保証はないんですよ!」

「黙れィ! 奴はそれを覚悟して裏切ったに決まってるだろうがァ! ならばその礼に答え、徹底的に叩き潰すのが奴のためなのだァァァ!」


 止めるリュイを振り払い、彼は杖を掲げる。

 聞いた話だが、ギンガさんが強化している自動スキルは【詠唱速度up】と【スキル宣言免除】、【MPup】の三つ。前者二つのスキルによってノーモーションで魔法を連打し、後者のスキルによって消費を抑える戦法だ。

 だからこそ、魔法の発動がとにかく速い。何とかして止めないとルージュの記憶が……


「ルージュ、私と対峙したことを後悔するが……」

「スキル【防御魔法】オールリフレクト」


 しかし、彼が御託を並べている合間。マシロが魔法を跳ね返すリフレクトをルージュたちに掛けてしまった。

 おいおい……これは不味くないか? 魔導師ウィザードは魔法以外の技スキルを全く持っていない。魔法を弾き返されたら何も出来ないだろう。

 ギンガさんは腕を組むと、無言でうなずく。やがて、こちらへと視線を向けた。


「ふん……詰んだわァ!」

「ええー!?」


 まさかのギンガさん使えねえ! 当然、リュイが鋭い突っ込みを加える。


「【解除魔法】は習得していないんですか!」

「それを使えば、敵はリフレクトを張り直して面倒だろうがァ! この私にMPの削り合いという地味な戦いをしろと? 貴様なめているのかァ!」

「なめているのは貴方ですよ!」


 【解除魔法】を使用すれば、相手の防御効果を除去することが可能だ。しかし、当然敵もリフレクトを張り直し、いたちごっこになるのは確実。あのギンガさんが地味に消耗戦を行うなど、絶対にありえなかった。

 要するに、この人は【星魔法】をぶっぱしたいという事。とにかく、何をするにも面倒な人だ。


 この一連の漫才により、ルージュの手は止まる。そして、恋しそうにこちらの会話に耳を傾けていた。

 なるほど、ギンガさん。これも貴方の策略だったというわけですね。流石は総合ランキング上位だ! 凄い! そういう事にしておこう!

 流石のビューシアもこの状況を好ましくないと思ったのか、マシロに新たな指示を出す。


『まったく、うっとうしい……マシロさん……!』

「うん! スキル【移動魔法】オールテレポート!」


 僧侶プリーストはゆっくりとこちらに近づき、広範囲を転移させる魔法を使用していく。

 しかし、その瞬間だった。ビューシアが剣を振りかぶり、俺への攻撃に移る。とっさにスパナによってガードしたが、後方へ押し飛ばされてしまった。


「くそっ……! しまった……」


 俺とビューシアを残して、他の四人は【移動魔法】によって転移される。完全に分断されてしまったな……

 どうやら、このビューシアという奴は、意地でも俺と戦いたいらしい。なら、こっちも受けて立ってやる。ルージュたちの元へ行くには、こいつを倒さなきゃならないんだ。


 俺の因縁……俺の宿敵……

 こいつが勝手に言っている事だが、少しずつ意識が向いてくる。

 武器を交えた時の不思議な感覚……それが蟠りとなり、心に残っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ