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エルドガルドギルド  作者: 白鰻
二十七日目~三十二日目 クレープスの塔
126/208

125 空へ!

 スキルを使用せず、忍者ニンジャ剣士ソードマンは武器を交えあう。

 クロカゲには【空蝉の術】と【行進曲マーチ】による翻弄。エルドにはダブルブレイン特有の再生能力がある。互いに決め手がなく、攻めきれない状況となっていた。

 このままでは泥沼試合だ。時間が掛かればかかるほど、有利になるのはクロカゲの方。彼はディバインによる支援を待っているのだから。

 上機嫌で戦闘を行っていたエルドだが、ここで勝利を優先してくる。彼はクロカゲのクナイを払いのけ、強襲スキルを発動させた。


「らちが明かないな。後衛を討つか。スキル【アサルトブロウ】」 

「スキル【薙ぎ払い】!」


 後衛のジョノに振り落された瞬速の剣。が、吟遊詩人バードは右手の小刀によってそれを受け止める。戦闘職が放つスキルを魔法職が防いだ。それも、STR(攻撃力)特化のエルドの剣技をだ。

 英雄の瞳が輝く。彼は闘技場に参加していないため、ジョノの強さと戦略を把握していなかったのだ。

 気分が乗れば乗るほど、エルドの動きは本調子となっていく。【バックステップ】によって下がりつつ、彼は前方を切り裂くスキルを発動させた。


「おお……! スキル【スラッシュ】」

「スキル【譚詩曲バラード】! スキル【兜割り】!」


 ジョノは敵のスキルを小刀によってガードしつつ、左手に持った三味線を奏でる。【譚詩曲バラード】の効果によって素早さを下げ、さらに【スラッシュ】を防いだ瞬間に小刀を振り落とした。

 エルドの右腕を切りつける。魔法職の物理攻撃のため威力は微妙だが、最強と呼ばれる彼を傷つけたのは大きい。ジョノはこの戦いに参加するほどの実力を持っていた。

 今のエルドは素早さが低下している。このチャンスを物にするため、ジョノとクロカゲは攻めに出た。


「スキル【夜想曲ノクターン】!」

「スキル【火遁の術】!」


 吟遊詩人バードは魔法防御力を下げる【夜想曲ノクターン】を奏で、忍者ニンジャは【火遁の術】による灼熱の業火を放つ。忍者ニンジャの扱う遁術は、PPパワーポイントを消費するが魔法攻撃に分類される。だからこそ、ジョノのサポートが生かされた。

 クロカゲが【火遁の術】を放つ保証などない。しかし、ジョノは今までの経験で、彼が使うスキルを予測していた。これにはエルドも感心するばかりだ。


「ははっ、こりゃ凄い。クロカゲ! お前、良い部下持ってるな!」

「そりゃ、どうモ……!」


 彼は業火を風によって逸らし、直撃を回避していた。やはり、この男を撃破するなど不可能だ。

 今クロカゲが計画している策は、この天空の街からエルドを追い出す事。方法は一つ、広場の隅に追いやり、クレープスの塔から突き落とすのだ。

 策を読まれれば終わる。自然に彼を誘導しなくてはならない。

 クロカゲがアイコンタクトを行うとジョノは頷く。二人は同時に走り出し、エルドを左右から挟み込んだ。


「二対一か、まあそうなるわな」


 エルドは疾風を纏った剣を動かし、二人の攻撃を同時にいなしていく。クナイと小刀による連撃を容易く見切り、そのどちらもガードによって弾いていった。

 当然、守るだけではなくチャンスがあれば攻撃に移る。クロカゲが僅かな隙を見せた瞬間、長剣が彼の頬擦れ擦れを掠った。あと少し逸れていればクリティカルヒットを受けていただろう。


「あぶナ……」

「スキル【風魔法】ウィンド」


 忍者ニンジャが安堵した瞬間、詠唱スピードの速い下級魔法が発動される。エルドの剣から放たれる低威力の風は、そのままクロカゲを吹き飛ばした。

 流石のエルドでも、手練れ二人を同時に相手すれば苦戦する。しかし、こうやって吹き飛ばし、ジョノ一人を相手にするのならば話は別だ。


「ジョノ……!」

「ぐ……スキル【二連撃】!」


 一人残された魔法職に容赦なく斬撃が放たれていく。ジョノはスキルによって攻撃を弾くが、それも二回までだ。【譚詩曲バラード】の効力も切れ、エルドのスピードは本調子へと戻ってしまう。

 クロカゲは走る。だが、間に合わない。

 STR(攻撃力)特化の剣技が守りを突破し、その体を何度か切り裂いていく。あっという間にライフは半分を切り、ジョノは絶体絶命の状態に追い詰められた。

 守りを諦めた彼は、小刀の持ち方を変える。やがて、それを敵の顔面へと向かって放った。


「スキル【武器投げ】!」

「魔法職なのによく動いたな。だが、これで……」


 投げられた刃を首だけでかわし、エルドは剣を振りかぶる。今までのスキルよりモーションが長い。間違いなく大技が放たれるだろう。

 しかし、ジョノもクロカゲも対抗出来なかった。何も出来ないからこそ、エルドはこのスキルを選んだのだ。


「スキル【エリアルバッシュ】」

「がはっ……!」


 【エリアル】と【バッシュ】を組み合わせたスキル。上空に剣圧を走らせる対空スキルだった。

 ジョノは地上にいたが、このスキルは【バッシュ】の攻撃範囲を併せ持っている。地上の敵に打った場合、その体は空中へと投げ出された。

 地から足が離れれば終わりだ。空中戦はエルドの独壇場なのだから。


「終わりだ。お前はこちら側に来てもらう」


 空中から落下するジョノに彼は剣を構える。だが、吟遊詩人バードは抵抗しようとはしなかった。

 相手への妨害スキルは、戦闘が終わらない限り持続する。そう、例えプレイヤーがゲームオーバーになろうとも、後に続く希望となりえるのだ。


「悪いな……俺はこの世界に戻る気はない! 付き合ってもらうぞ英雄! スキル【聖歌アンセム】!」

「スキル【エリアル】」


 投げ出された空中で、ジョノは曲を奏で続ける。例え剣が迫っていようとも、三味線の音が鳴りやむことはなかった。

 やがて、上部を切り裂く【エリアル】が、無防備な吟遊詩人バードに命中する。彼のライフはすべて削られ、その体は光となって消えていく。これで、ジョノはゲームオーバーとなった。

 クロカゲは叫ぶ。ただひたすらに叫び、戦いを続ける。


「エルドオオオォォォ……! スキル【分身の術】!」

「スキル【バッシュ】」


 四人に増えた忍者ニンジャ全てを剣圧が切り裂く。先ほどとは違い、今度はクロカゲ本人も切り裂いていた。

 もう、限界だ。どうしてもエルドを退くことが出来ない。

 クロカゲは歯を食いしばり、忌々しい英雄を睨む。あと少し、あと少し時間を稼げれば、ジョノの意思は繋がる。その少しがどうしても長かった。


「スキル【煙玉】……!」

「スキル【ダッシュ】。スキル【スラッシュ】」


 【煙玉】のスキルによって白い煙を出現させ、クロカゲは敵に背を向ける。しかし、エルドはスキルによって加速し、一気に忍者ニンジャの背部へと詰め寄った。

 これで、背部を切り裂けばクロカゲもゲームオーバーだ。恐らく、エルドはそう思っただろう。

 しかし、この圧倒的不利な勝負にクロカゲは粘り勝った。それを証明する咆哮が、バレンシアの街に響き渡った。


「うおおおおおォォォ……! スキル【かばう】!」

「……ん! ディバインか……!」


 鉄壁の守りがエルドの前に立ち塞がる。【スラッシュ】は防御によって弾かれ、彼の体は背部へと押し戻された。

 戦士ナイトディバインの守りは強靭だ。しかし、どうしてもスピードが足りない。ここで、クロカゲの先読み能力が発揮された。


「ディバイン! 空ダ! 空へ突き飛ばセ! スキル【影縫いの術】!」

「ぬ……ここまで誘導したのか。見事! スキル【シールドバッシュ】!」


 エルド足元から黒い影が伸びる。ここでこのスキルによる拘束を受ければ、続くディバインの【シールドバッシュ】によって吹き飛ばされるのは確実だ。

 エルドの後方は崖っぷち。クロカゲは回避行動を続け、彼を広間の先端まで誘導していたのだ。

 突き落とされれば無事では済まないだろう。だが、エルドは顔色一つ変えていない。彼には攻撃を回避する【ジャンプ】があり、【覚醒】という奥の手もあった。例え鋼鉄のディバインが参戦しようと、英雄に抜かりはない。

 しかし、ここでエルドにとって不測の事態が訪れる。今初めて、彼の表情は焦りと困惑によって歪んだ。


「PPがない……だと……」

「スキル【聖歌アンセム】は消費MPとPPを二倍にすル。落ちろエルド」


 【影縫いの術】によって拘束され、さらにディバインの盾が敵の胸部に打ち付けられた。【シールドバッシュ】の効果によりエルドは塔の外へと弾き飛ばされる。

 久しい熱戦に満足し、彼は不敵な笑みを浮かべつつ腕を組む。そして、そのまま【オレンジナ大陸】の大地へと降下していった。


 これで最強と呼ばれるエルドが終わるはずがない。彼の再生能力はまだまだ残っているため、地上に打ち付けられたとしても全快してしまうだろう。

 だが、当分襲われることはないはずだ。この高さから落下して、すぐに復活できるはずはない。クロカゲは大量の汗を流し、息を全て吐き出した。 


「っダー……! 死ぬかと思っタ……! ディバイン遅いヨ!」

「すまぬ。ログインしていなかった」


 ディバインに不満を討ぶつけても仕方がないだろう。彼は視線を伏せ、今までの行動を振り返っていく。


「なめていタ……何も理解していなかっタ……ジョノの方が理解出来ていタ……」


 少なくとも、ジョノとゲッカは【ダブルブレイン】という驚異を認識し、今まで行動を取ってきた。何もしていなかったのはギルドマスターの自分。ただ奥歯を噛みしめ、自らの愚かさを嘆くばかりだ。

 ディバインは眉間にしわを寄せ、冷静に今の状況を整理していく。まず、ジョノという上位プレイヤーを落とされたのが気がかりだった。


「これで、ジョノは【覚醒】の操作を受けるか……」

「いや、あいつはもうログインしないネ。多分、ゲームオーバーしたらデータを消すように細工していたんダ……」


 未来の自分に手紙を書くなり、敗北と同時にゲームが壊れる改蔵をするなり、操作を無効にする方法はいくらでもあった。だが、それを行えば【ディープガルド】での絆を断ち切ることとなる。

 ジョノにはその覚悟があった。だからこそ、彼はこの世界に戻らない。


「戦う理由が出来タ。行くよディバイン……」


 ジョノがゲームオーバーになったことにより、奇しくも【漆黑しっこく】との協力関係が完全なものとなった。

 先読みのクロカゲ、エルドに匹敵するゲームプレイヤー。彼の心は打倒英雄へと燃える。

 あの強大な存在に勝つには、まだまだ戦力が足りない。全てを決めるのは数日後、歯車の街テラコッタにてクロカゲは大きく動くことを決めた。



















 【インディ大陸】、極寒の街スマルト。その中央に立つ真っ白い城で少女のすすり泣く声が聞こえる。

 部屋に閉じこもり、ただ一人で泣き続けるのはダブルブレインのマシロ。今日初めて彼女はリルベの消滅を知った。

 マシロにとってリルベは弟のような存在であり、保護者のような存在でもあった。イデンマの消滅も重なり、彼女はただベッドにうずくまるしかなかった。


「リルベ……リルベェ……」

『仇を討ちたくありませんか? マシロさん……』


 そんな少女の耳に入ったのは悪魔の囁き。真っ黒い鎧を着たプレイヤーは部屋の扉を開け、マシロの元へと近づいていく。そして、枕を抱く彼女の頭を優しく撫でた。

 プレイヤーキラービューシアは鎧の下で微笑する。この男がマシロに同情するはずがない。これは全て、彼女の心を操作する策の一つだった。


『リルベさんを殺したプレイヤー。教えてあげましょう……』


 ビューシアは笑い続ける。彼はこの混沌を楽しんでいた。

 英雄エルドは知らない。自分たちの身近に、こんなにも恐ろしい存在が潜んでいたことに……


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