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エルドガルドギルド  作者: 白鰻
二十七日目~三十二日目 クレープスの塔
123/208

122 ご主人様、今の私たちかなり主人公状態ですよ!

 私が武器を握ったのと同時に、格闘家(モンク)のハクシャがその前に立つ。何カッコつけて出しゃばってるのよ。多人数戦は苦手なくせに……

 あいつは拳に力を込めると、自己強化スキルを使用する。この戦略が吉と出るか凶と出るか。


「イシュラ、シュトラ、俺の後ろに隠れてろ! スキル【渾身】!」

「スキル【上昇付与魔法】、魔法変換の印!」


 スキル【渾身】は自身の攻撃力を上げる代わりに、防御力を下げるスキル。ハクシャは【素早さup】と【軽業】のスキルを鍛えることによって、下がった防御力を回避することで補っている。これがこいつの最も得意とする戦法ね。

 格闘家(モンク)は一人の【覚醒】持ちと向き合い、スキルを発動させる。


「よっしゃ! スキル【正拳突き】!」

「スキル【上昇付与魔法】、追加効果の印!」


 強力なノックバック効果。その威力に【覚醒】持ちプレイヤーはぶっ飛んでしまう。

 ぶっちゃけ、ハクシャは強い。こいつはバカっぽいキャラを演じてるけど、どっちかと言うと頭脳派なのよね。まるで軽業師のように相手を翻弄し、隙をついて一撃を与えるのがこいつの怖いところ。

 だからこそ、一人と向き合わない多人数戦は大の苦手ね。敵も増えたし、私が出るしかないか。


「スキル【武器開放】!」

「スキル【魔攻付与魔法】、地の印!」


 ハンマーを巨大化させ、私はハリアーさんと戦うラプターの奴を見る。ハクシャが戦ってくれてるし、これなら乱入できそうね。

 将を射らんとすればまず馬を射よって言うけど、知ったこっちゃないわ。将を射れば終わりなんだから簡単よ。

 それにしても……


「って、あーもう! シュトラ、さっきからうるさい!」

「そんなあ! 私ちゃんとサポートしてるのに!」


 こいつの魔法は何をやっているのかよく分からないのよね。ま、サポートになってるならそれでいっか。

 私は巨大化したハンマーを掲げ、ラプターの元へと走った。あいつはこっちの動きに気づいていない。これで大ダメージは確実よ。


「二体一ならどうしようもないでしょ! くらえ!」

「スキル【ジャンプ】」


 そんな私の気配を感じたのか、敵は振り落としたハンマーを飛び越えてしまう。不味いわね。相手は上空に飛び上がって、反撃の態勢に入ってる。早くこの場から移動しないと……

 って、ハンマーが重くて持ち上がらない! えっと……もしかして、これ本当にヤバイんじゃ……


「スキル【マシンガン】!」

「スキル【武器変更】アイテム、ヴァルキリーの盾!」


 上空から降り注ぐ弾丸。私はすぐに武器を変更して、その攻撃をガードしていく。間一髪、あと少し遅れてたら不味かったわ。

 盾の適正スキルを持っていないため、ガード上からかなりのダメージを受けてしまう。それでも、まだ反撃のチャンスはあるはずよ。


「いったいわね! でも、次こそは……」

「次はないよ後輩くん。スキル【ボムショット】」


 既に船上へと着地していたラプター。彼女のスキルが私の背部へと撃ち込まれた。

 は……速すぎるわよ。これが【覚醒】持ちなの? 私じゃ相手にならない……

 弾丸はそのスキル効果によって爆発し、私を船の外へと吹き飛ばす。ライフは残ってるけど、このままじゃ……


「イシュラ!」

「お姉ちゃん!」


 ハリアーさんとシュトラの声と共に、私は海面へと落下した。水しぶきを上げ、体はゆっくりと沈んでいく。

 あーあ、これはダメね。防具の重さとダメージで全然泳げないわ。


 このまま、海に沈んでゲームオーバーか……

 本当に私、持ってないなあ……

















 意識が戻ると、私は青い電脳空間に迷い込んでいた。

 これがゲームオーバー画面って奴? 初めてこの世界に来たとき、キャラクターメイキングした場所がこんな所だったわね。

 周囲を見渡すと、私以外にもう一人女性がいた。この人は、最初に会ったNPCかしら。


「あんた、一番最初の……私、ゲームオーバーになっちゃったの?」

「いえ、貴方はゲームオーバーになっていません。奇跡的な場面で、私がこの場所にお連れしました」


 私がピンチになるのを待っていたって事? これが、このゲームの演出? 憎いことしてくれるわね。


「で、要件は何?」

「私が再びプレイヤーの前に現れた時、それは限定スキルの入手条件を満たした時です。この世界に二つと無いスキル。貴方はこのスキルを受け取る資格を手にしました」


 どういうこと、全く心当たりがないんだけど……

 でも、これは渡りに船ね。ずっと求めていた最強のスキル。誰も持っていない私だけの力。これさえあれば……


「私は強くなれる!」

「なれません。全然なれません」

「えー……」


 なれないのかよ! そう言えば、ラプターの奴が言っていたわね。限定スキルは個性、決して特別強くなる力じゃないんだって。


「これは道具との絆を証明するスキル。強大な力も、この世界を変える影響力もありません。ただ、貴方にとって耳障りとなり、混乱を招く結果になるかも知れません」

「そんなスキルに意味なんてないじゃない!」

「それでも私は、このスキルを受け取ってほしいのです。自らが作った武器と共に戦い、ここまで成長をつづけた貴方に……」


 もしかして、このスキルの習得条件は自分で作った武器を鍛え続け、なおかつその武器を使って戦い続ける事?

 うっわ、これは本当に面倒な習得条件ね。私みたいにどちらも中途半端じゃないと無理じゃない。

 そっか、これが個性って事なのか。じゃあ、ここでスキル習得のチャンスを手に入れたのも何かの縁ね。


「良いわ、そのスキル貰ってやろうじゃない!」

「では、受け取ってください。限定スキル【万象】を!」


 NPCの声と共に、再び私の意識は沈んでいく。

 こいつ、結局何者なのかしら。


 もしかして……神様……?















 冷たい海の中、私の意識は戻る。時間にしたら数十秒の事だったのかも、息苦しいけど心ははっきりとしてるわね。

 さあ、早く船の上に戻らないと! 今、自分がどうすれば良いのか、手に取るように分かるわ!


「スキル【武器変更】アイテム、コボルトストライク!」


 装備していた盾を愛用のハンマーに変更する。コボルトストライクは私の最高傑作。これさえあれば……って、どうにも出来ないじゃない!

 何をとち狂ってるのよ。このままじゃどんどん沈んで……


『グレイトですよご主人様! それが正解です!』


 誰かの声が聞こえた。それと同時に、私のハンマーが海上へと引き寄せられていく。

 いったい、何が起きてるの。これが限定スキルの効果? 私の体は装備したハンマーに引っ張られ、やがて海面から飛び出した。


「ぷっはー!」

「お姉ちゃん!」


 水しぶきを上げ、私の体はエンタープライズの船上に打ち上げられる。シュトラ、心配させたわね。全く状況は分かってないけど、とりあえずお姉ちゃんは復活したわ。

 さっきラプターから受けたダメージが残ってるけど、戦わなくちゃ今度こそゲームオーバー。なら、精いっぱい抗うしかないわね。


「よーし、今度こそボコボコにしてやるんだから!」

『その意気ですよご主人様!』


 突如、さっき海の中で聞いた誰かの声が響く。

 私は眉をしかめ、周囲を見渡した。すると、右手に掴んだハンマーから再び声が響く。


『ご主人様こっちです! いやー、本当にあの状態で奇跡の復活をするなんて、今の私たちはかなり主人公状態ですね! これもそれも、普段からの頑張りが……』

「うっわ! 何これキモッ……!」


 滅茶苦茶喋るハンマー。あまりの衝撃に、私はそれを足元に叩きつけた。


『ちょ……ちょっと何をするんですか! 武器はプレイヤーの命、それを捨てるなんてとんでもありません!』

「ご……ごめんなさい」


 注意されたので、とりあえず拾い直す。もしかして、これが限定スキル【万象】の効果?

 うっわ微妙……作った武器と会話するスキル。確かに、これは耳障り以外の何物でもないわね。まあ、助けてもらったから文句も言えないけど……

 私が一人考えていると、ハリアーさんが声を荒げる。彼女はラプターの奴と交戦中みたい。


「イシュラ! 一人で何を騒いでいる! ここは戦場だぞ!」

「一人じゃないわよ! ほら、武器が喋って……」


 そう言いかけた時だった。突然ハンマーが大声を上げる。


『ご主人様、後ろです!』


 彼の声を聞き、反射的に後方へと武器を振り抜く。すると、【覚醒】持ちと思われる海賊パイレーツのプレイヤーをそのまま殴り飛ばした。

 わお、やるじゃんお喋りハンマー。レンジの限定スキルと違って、全く役立たずってわけじゃなさそうね。よーし、このまま一気に……


「スキル【コール】! 現れろゲソノウミィ!」


 今度は何よ! 突然、船の周りに巨大なゲソ足が姿を現し、船上のプレイヤーを蹴散らしていく。そっか、アパッチの奴が合流したみたいね。

 クラーケンの戦闘を見ていて気づく。周りは既に敵ばかり、味方のプレイヤーの大半がゲームオーバーになっていた。まさか……シュトラとハクシャも……


「お゛ね゛いち゛ゃーん……!」

「イシュラ! 無事で良かったぜ!」


 私が最悪の事態を考えていると、涙でぐしゃぐしゃになったシュトラが抱きつく。汚い汚い……

 ハクシャの方も無事か。まああいつは強いし、ハリアーさんも居たから当然ね。

 でも、そのハリアーさんも限界みたい。敵プレイヤーが多すぎて、手が付けられなくなっていた。

 彼女の側近であるアパッチが、守るように私たちの前に立つ。彼はハリアーさんに言葉をぶつけた。


「ハリアーさん不味いっすよ! ここは退きましょう!」

「退くだと……バカを言うな! 奴らは私を裏切った【エンタープライズ】のメンバーだ! ここで、私の力を見せつけなくてどうする!」


 あちゃー……うちのギルドマスター、相当頭にきてるわね。散々私に考えるように言ったのに、自分が暴走してどうするのよ。

 結局、私とハリアーさんは似た者同士か。走り出したら止まらない直情型。他人事だけど、同じパーティーメンバーは大変でしょうね。

 このギルドはならず者の集まり【エンタープライズ】。直情には直情で対抗するのがこのギルドのスタイルだった。


「勝てない勝負に固執してんじゃねえよ糞アマがァ! 御頭が後輩の前で駄々捏ねてどうすんだゴルァ!」

「よく吠えるじゃないかアパッチ! 私に口答えをして、どうなるか分かっているだろうな!」

「先輩! 今は喧嘩してる場合じゃないっすよ!」


 突如始まるハリアーさんとアパッチの喧嘩をハクシャが宥めた。絶体絶命のピンチに何をやってるのよ……非常事態の時こそ先輩としての威厳を見せるものでしょ……

 でも、流石にアパッチは考えがあって行動しているみたい。彼は覚悟を決めた表情で、右手を上に上げる。そして、船を背負うほど巨大なクラーケンに指示を送った。


「ゲソノウミィ! エンタープライズの海賊船をぶっ潰せやァ!」

「ええー!」


 驚く私たちなど気にも留めず、巨大クラーケンは十本足を船に絡める。みしみしと音を立て、船は徐々に崩壊していった。

 船を沈めれば、この場にいる【覚醒】持ちを退けるかもしれない。でも、私たちはどうするのよ! 陸へと繋がる桟橋には敵がうじゃうじゃいるってのに!


「こんな事をしたら、私たち逃げ場がないじゃない!」

「敵はゲソノウミに任せ、俺たちは小型のゲソスケに乗って退避する。とにかく、今はハリアーさんを押さえつけてくれ!」


 私たち三人はアパッチの指示に従って、ハリアーさんを押さえつける。それと同時に、もう一匹のクラーケン、ゲソスケが海面から飛び出し、船上へと足を付けた。

 このなまめかしいゲテモノに乗るのね……でも、文句を言っていられないか。四人がかりでハリアーさんを押さえつつ、私たちはクラーケンに飛び乗る。その時だった。


「アパッチくん、逃がさないよ! スキル……」

「ゲソノウミィ! 【煙幕】だ!」


 こちらに銃口を向けるラプターさん。しかし、彼女がスキルを放つより先に、巨大クラーケンが口から真っ黒い煙を吐く。

 周囲を包み込む真っ黒な霧。それに乗じて、私たちを乗せたゲソスケは海へと飛び込んだ。

 使役士テイマーの指示に従い、クラーケンはただひたすらに大海原を進み続ける。私たちも、決して振り返ろうとはしなかった。

 たぶん、【エンタープライズ】のギルド本部も、残したゲソノウミも無事じゃないでしょう。それでも、私たちは進むしかなかった。


『ご主人様。ここからが勝負所ですよ』

「うるさい」


 海面を進むゲソの上で、私はハンマーと会話する。自分で言ってて、どういう状況か分からないわね……

 でも、勝負所なのは確かみたい。ここからが私たちの本当戦いだった。

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