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エルドガルドギルド  作者: 白鰻
二十六日目 天空の街バレンシア
118/208

117 塔の中層を目指せ!

 天空の街バレンシア、有翼種という種族の暮らす塔上の都市だ。

 古代文明の遺産であるクレープスの塔から技術を吸収し、【ディープガルド】で最も科学の発達した街となっている。街並みは古代人が書いたSF小説のような世界観で、ギリシャ建築と産業革命の雰囲気を混ぜたように感じ取れた。

 そんな街のはずれ、塔の内部へと続く道の前に……


 飛空艇黑翼は落下した。


「無茶苦茶しますね……」

「言ったじゃないカ。結構ヤバいっテ」


 飛空艇の甲板の上で、俺たちは床に突っ伏していた。まさに緊急着陸といった状態。現実だったら絶対に大破する角度で、船は塔上の街へと降り立つ。

 クロカゲさんは一人直立し、すぐに行動へと移っていく。まずは、この街の有翼種と話を付けなくてはならない。唯でさえ、最低の入場を果たしたのだから。 


「じゃあ、オレはNPCたちと話しを付けてくるヨ。レンジの言う【ディープガルド】統一のためにもネ」


 彼は若干小ばかにするような、皮肉の入った言葉を投げる。実現不可能とは思っているが、否定するわけではないといった感じだ。まあ、今後の動き次第で考えを改めてくれるだろう。

 一番信じていない人はゲッカさんだろうか。俺の語った思想全てを根本から否定していった。


「統一など無理難題ですね。それ以前に、たかだかNPCの力など役に立ちません。データごときに何が出来るというのですか」

「そのデータごときが構成する世界が【ディープガルド】だ。この黑翼は誰の協力で完成したと思っている」

「む……」


 ジョノさん俺の思想に対し、空気を読んだフォローに入る。何だよこの人、マジ聖人だよ。なに一つ難点を持っていない完璧超人だよ。

 【漆黑しっこく】の反応は微妙だが、ギルド【IRISイリス】の方はどうだろうか。平和主義者で他人を信じるアイなら同調してくれそうだな。

 そもそも、俺が甘い理想を口にするようになったのはこの少女の影響。そんな彼女がこの理想論を否定するはずがない。そう思って、俺は話しを振る。


「アイ、お前はどう思う?」

「無理ですよ」

「え……?」

「みんな違うんですから。一つになんてなれませんよ」


 おっと、これは意外な言葉が出たな。頭の中がお花畑かと思っていたが、ここに来て急に冷めた対応をとられる。こいつの考えている事は全く分からない。

 リュイも彼女の意見には疑問を浮かべる。


「何だか以前と逆ですね。アイさんがあり得ない理想を語って、レンジさんがそれを否定するのがお決まりでしたが……」

「い……いえ! 否定するわけじゃないんですよ! ただ、みんな違うからそれがむしろ良くてですね! 安易に一つにするとか口にしちゃいけないような! なんというかその……すいません……」


 慌てた様子で言葉を加えるアイ。なるほど、この意見には納得だ。つまり彼女は個人個人の思想を尊重したいのだ。


「お前は自分の心に嘘を付くことが大嫌いだからな。多人数による同調圧力が気に食わないんだろ?」

「そ……そうです! みんな自由が一番です!」


 本音が出ただけで慌てすぎだろ。お前が結構ブラックなのは俺もよく分かってる。誤魔化さなくても良いのにな……

 俺とアイで微妙な空気になっていると、ルージュがその間に割って入る。こいつも空気を読んでるな。


「でも……同じ敵に立ち向かうのは悪くない……!」

「そうですね! それには私も同意です!」


 一つにするという部分が引っかかっただけで、やること自体は否定しないか。俺も少し口が過ぎたみたいだ。

 これはあくまでも協力要請。世界を一つにする必要はないのだ。


「NPCとの【交渉】なら、ヒスイに頼るのはどうだ? こういう事は商人マーチャントの得意分野だからな」

「そうですね。機会があれば話を持ちかけます」


 元、【7net(セブンネット)】のギルドマスター、ヒスイさん。ジョノさんのアドバイスにより、彼の協力を得ることも選択肢となった。

 もっとも、ヒスイさんはバルカン山脈のダンジョンに身を潜めている。参考程度に捉えたほうが良さそうだ。















 塔の中層に存在するバルコニーのような空間。バレンシアの街はその場所に作られていた。

 俺とアイ、リュイとルージュは四人で街を歩いていく。今までの街とは違い、やはりここはSFっぽい。建造物も真四角だったり球状だったり、どこか変わっていた。


「レンジさん、天使ですよ! 可愛いですねー」

「珍しいものを見るような顔をするな。失礼だろ」


 アイは有翼種のNPCを見て興奮している。

 確かに天使のようだが表情が硬いな。まあ、人の文明とは離れた場所で生活しているんだ。友好的なはずがないか。

 こういう他種族と交渉をするには、やはり【交渉】のスキルが必須だろうな。もしくは、エルフの村でギンガさんがやったように圧倒的な力を示す事。

 うん、まあ無理だな。素直に別の手を考えるか。


 白を基調とした街並みを進んでいくと、教会のような場所に付く。入り口では翼を持ったシスターが宗教勧誘のような事をしていた。


「人間の皆さん。神様の祝福あらんことを……」

「はあ……」


 懐かしいフレーズが出たな。確か【ディープガルド】に初めて入った時、NPCのお姉さんが同じことを言っていた。その後、アイも言っていたかな。何にしてもお決まりのフレーズなのだろう。

 なんだか、この世界の神に興味が出てきたな。ゲーム上なら、もしかして神も存在するかもしれない。そう、俺が考えている時だった。


「いやー、ブラボー! 無事にクロカゲさんと友好関係を結び、ここまで来れたのですね。やはり、わたくしの目に狂いは……」

「おらっ!」


 道化師ジェスターのマーリックさん。俺は彼が話す途中でその頭を軽く小突いた。

 この人はどの面下げて俺たちの前に来たのか……ナチュラルに許してくれるとでも思ったのだろうか。どうやら、そのつもりだったらしい。


「いきなりこれですか……」

「第一声が謝罪の言葉ではなかったので、一発殴らせてもらいました。助けては貰いましたが、散々掻き回されましたから」

「なるほど手厳しい。しかし、それで許していただけるとは……やはりあなたの器量は大きい」


 お世辞で誤魔化しに来たか。まあ、気分は悪くない。

 彼は【漆黑しっこく】のスパイとしてずっと俺たちを騙し続けていた。しかし、彼の独断で俺たちをサポートし、なにより【漆黑しっこく】との関係は改善されている。根に持っても仕方がないだろう。


「裏切りの件は申し訳ございませんでした。第一声が謝罪の言葉でなかったのは、わたくしも逃げていたのかもしれません」

「だからこそ殴りました」

「それで良いのです。わたくしの気持ちも晴れました」


 反省しているようだが、以前としてポーカーフェイスだな。このタイミングで一体何をしに来たのだろうか。


「実はですね……【ゴールドラッシュ】と【7net(セブンネット)】が崩壊したことにより、各地で影響が出始めているのです。そのご報告に伺いました」

「それは嫌な予感がしますね……」


 リュイは眉をしかめ、彼の言葉に耳を傾ける。

 この人の情報に間違いはない。しかし、聞くのが怖い所だな。


「元【ゴールドラッシュ】の副ギルドマスターであるランス氏の指揮により、【覚醒】持ちを中心とした新たなギルドが形になっているようです。今はまだ名前もありませんが、大人数の二つのギルドを統一した事もあって規模は過去最大でしょう」

「まあ、予想通りですね……」

「問題はここからです。このギルドの目的というのが奇想天外で何とも……」


 マーリックさんは苦笑いをしながら、ランスさんたちの目的を明かす。


「ランキング一位のプレイヤー。エルド氏の全面支援です」

「なっ……つまりどういう事だ!」

「【ダブルブレイン】の全面支援ですよルージュさん!」


 全く状況が分からないルージュにリュイが説明をする。

 エルドはダブルブレインによる組織、【ダブルブレイン】の代表だ。その彼を神聖化し、プレイヤーからの尊敬対象しようという根端だろう。

 そうか……だからこその『英雄様』だったのか。ようやく色々と繋がってきたな。


「あいつらは本当にエルドを英雄にするつもりだったんだ。【覚醒】持ちを使ってヨイショし、全プレイヤーからの尊敬の的にする計画……」

「元々、エルド氏は最強プレイヤーとして支持を得ています。それに加え、総合ランキング一位。圧倒的な強さ。何より天性のカリスマ性……」

「こんな事をして何になるんだよ。あいつの自己満足か……?」


 いや、エルドは人に尊敬されることに愉悦を感じる奴じゃない。あいつは根っからの自由人。他人の評価なんて気にも留めていないんだ。

 しかし、そうなると余計に目的が分からない。死んだイデンマさんは、エルドを英雄にして何をするつもりだったんだ。そして、今エルドを神聖化しようとしている奴は誰なんだ。


「あー! わけ分からん!」

「まあ、わけは分かりませんが、動きとしては大人しくなっていますよ。【ゴールドラッシュ】の防御体制が崩壊したのにも拘らず、NPCの虐殺はストップしているようですし」


 そうだ……今までレネットの村やスプラウトの村を守っていたのは【ゴールドラッシュ】。その守りが崩壊したことにより、この二つの村はエネルギー搾取の的になるはずだ。

 しかし、マーリックさんが言うには平和その物らしい。これは、向こうも準備段階という事だろうか。


「レンジさん良かったですね! これでこっちも準備が出来ますよ!」

「そうだな……飛空艇がぶっ壊れて動けないし、何よりヴィオラさんが行ってる調査が終わっていないからな」


 アイも言っているが、今は準備をすべき時という事だろうか。ギルド【漆黑しっこく】に付いて行ったのは大正解。何とかクロカゲさんを説得して、戦力を強化しなくてはならなかった。

 プレイヤー、NPC、そして俺たち自身も強くならなくてはならない。今のレベルではあいつらに対抗できないだろう。


「飛空艇が直るまでに、このクレープスの塔でレべリングする。何とか【オレンジナ大陸】の適正レベルまで上げるぞ」

「なるほど……では、貴方がたにクエストを依頼しましょうか」


 突如、マーリックさんがそんな提案を出す。どうやら、何か考えがあるようだ。


「この【オレンジナ大陸】の適正レベルは40。貴方がたは未熟なままショートカットをしてきた状態で、リュイさん以外は適正レベルに達していません。当然、敵モンスターへの対抗は難しいでしょう」


 俺のレベルは36。確かに、適正レベルに達していない。

 このゲームは一つの大陸に付き10レベルずつ上げていくのが常識だ。しかし、俺たちは【漆黑しっこく】に無理やり連れて来られたので、【オレンジナ大陸】に対応できていなかった。


「では、どうすれば……」

「このエスケープの魔石を渡します。これはダンジョンを脱出する魔石。使えば塔の最下層まで転送されます。貴方がたは、そこからこの中層まで戻ってきてもらいます」


 なるほど……塔の最下層ならここよりモンスターも弱いはず。レベルを上げながらバレンシアの街を目指せば、自然に適正レベルに達するはずだ。

 しかし、今のメンバーでダンジョン攻略とは……何も最上階を目指すわけではないが、厳しい戦いになるのは確実だろうな。


「明日からの一週間。その間に飛空艇の修理も完了します。それまでに必ずここに辿り着いてください。ではでは、健闘を祈ります!」


 そう言って、マーリックさんはどこかへと消えてしまう。本当に落ち着きがない人だ。

 今まで俺は充分にレベルが上がるまでダンジョンの奥に行かなかった。無茶をしようとすれば、ヴィオラさんやアスールさんが助けてくれる。完全なぬるま湯だったよ。

 しかし、今回はそれがない。気を引き締めていかなければならなかった。

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