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エルドガルドギルド  作者: 白鰻
二十六日目 天空の街バレンシア
116/208

115 神の鉄槌

 部屋中に広がっていく炎。これは長居無用という雰囲気だな。

 砂漠の熱と同じように、室温の上昇でもゲームオーバーとなりえる。当然、炎に飲み込まれたら大ダメージだ。

 だが、リュイを置いて逃げるわけにはいかない。俺はこの戦いを最後まで見届けると決めたんだ。


「スキル【覚醒】。ルージュ、俺が守ってやる」

「う……うん!」


 敵が【ダブルブレイン】なので【覚醒】の使用が可能となる。俺はルージュの前に立ち、いつでも守備できる体制を取った。これで彼女の安全は確保できるだろう。

 リルべを止めるのはリュイを信じるしかない。マジックハンドで穴を飛び越えて支援に入ることも考えたが、今となっては無粋だろう。彼の覚悟に水を差すつもりはなかった。


「スキル【撃ち落とし】ィ!」


 不幸か幸いか、リルベの精神は大きく乱れている。彼は頭上を撃ち抜くスキルを闇雲に放ち、船内の天井を破壊していく。

 破片がリュイへと降り注ぐが、ギミックによるダメージにレベルは関係ない。防御も相まってライフは全く削れていなかった。


「【撃ち落とし】! 【撃ち落とし】! 【撃ち落とし】ィィィ! どいつもこいつもおいらをバカにしやがって……この船の奴らは皆殺しだァ!」


 それでもリルベは、狂ったようにスキルを放ち続ける。天井は次々と破壊され、上部の甲板へと貫通してしまった。空いた穴からは曇り空が見え、そこから雨風が降り注ぐ。

 しかし、これはこちらにとって好都合だ。雨によって上昇した船内の温度は下がり、戦闘を続けやすくなった。

 リュイは防御の態勢を崩すことなく、ただ降り注ぐ木片を防ぎ続ける。


「僕は貴方を見下しませんし、笑うつもりもありません! これは真剣勝負……宿敵として誠意をもって答えるだけです!」

「……ふん」


 彼は攻撃をガードしつつも、日本刀による通常攻撃で斬りかかっていく。それに対し、リルベは距離を取る戦略を取り、戦闘を長引かせようとしていた。

 しかし、それが災いしてダメージが重なっているように見える。どうやら、攻撃を回避しきれていないらしい。天井の破壊を優先した結果だ。


「先ほどからギミックの破壊ばかりですね。直接撃ちこまないのですか」

「こっちは中華姉ちゃんの一撃で相当削れてるんだ。レベル差無視のカウンタースキルを食らったら結構ヤバいんだよね」


 なるほど、これはリュイのカウンターを警戒しての行動か。狂っているように見えて、頭の方は冴えているわけだな。

 だが、その言葉により、元々受けていたダメージが大きいと分かる。このハンデがあるなら、リュイにもチャンスがあると思うが……まあ、敵も考えているだろう。

 リルベは再び矢じりを天井に向け、スキル発動の態勢に出る。これはまた【撃ち落とし】のスキルか!


「だからじわじわ削ってやるよ! スキル【雨降らし】!」

「スキル【岩浪いわなみ】!」


 彼が放ったのは頭上に大量の矢を放ってそれを降らせる【雨降らし】。まさかのフェイントだがリュイは冷静だった。彼は矢の雨を刀でガードし、カウンターの態勢に移る。

 上手いな。【岩浪いわなみ】は相手の攻撃を一定時間耐えた後に反撃するスキル。一度受けた攻撃を返す【虎一足とらいっそく】などと違い、連続攻撃全てを返すことが出来る。消費PPパワーポイントは大きいがこれなら大ダメージが狙え……


「ざーんねん! スキル【キャンセル】からの、スキル【痺矢】!」


 が、それは浅はかだった。リルベは降らす矢を放棄し、カウンターに走るリュイを迎え撃つ。

 互いに防御なしの攻撃体制。弓術師(アーチャー)の矢がリュイを貫き、(サムライ)の刃がリルべを一閃する。状況は互角だが、ダブルブレインには再生能力があった。


「くっ……」

「さーて、これで防御も回避も出来ないよ! スキル【乱れ撃ち】!」


 傷口を再生したリルべは更に連続スキルを放つ。先ほど彼が使った【痺矢】の効果でリュイは麻痺。対抗手段はなく、なおかつカウンターを行う事も出来なかった。

 彼の体を貫いていく矢。動くことが出来ないため、何本も放たれた全ての矢が命中していく。


「リュイ……!」

「死ィィィねェェェ!」


 恐ろしい形相を浮かべ、リルべは全ての矢を撃ち終える。俺は最悪の状況を考えていた。しかし、まだ絶望するには早いようだ。

 リュイは立っていた。ゲームオーバーになることなく、残りライフを維持し続けている。彼は決して折れることなく、刀を構えていた。


「あっれー、まだ粘ってるんだ。見かけによらずタフだね」

「僕がスキルポイントを与えた自動スキルは【HPup】。カウンターの威力が上がりますから……」

「へえ、やるじゃん。でも、こっちは【PPup】のスキルを鍛えてるんだよね。まだまだスキルは使えるよ!」


 崩された天井から雨が降り注ぎ、リュイの髪を濡らす。ライフは半分を切っており、防御を怠れば危険な状況だ。

 今、彼が使える技スキルは十一。その内、背後からの攻撃に対抗する【滝落たきおとし】。敵の数に応じて威力の上がる【惣捲そうまくり】。一定時間攻撃を堪えた後に反撃する【岩浪いわなみ】。この三つはスキルレベルが全く上がっておらず、高い威力を期待できない。

 敵を討つのは、初期から使い続けていた馴染みのスキル。リュイとリルべは互いに武器を振りかざす。


「スキル【初発刀(しょはっとう)】……!」

「スキル【毒矢】ァ!」


 先制スキルにより、リュイは確実に敵を斬る。しかし、リルべの方も状態異常スキルによって彼を撃ち抜いた。

 威力の低いスキルで助かった。【狙い撃ち】だったら終わっていたな。

 しかし、毒を受けたのは非常にまずい。この状態異常は麻痺と違って時間によって治癒不能。そして、ライフを減らし続ける。

 

「かはっ……」

「お前よく頑張ったよ。こんなに不利な条件なのに必死に食いついちゃってさ。結構凄いじゃん」


 リルべの傷口は再生が遅れていた。彼の方も限界が近い様子。


「認めてやるって言ってるんだ『リュイ』。だからこそ、最強スキルで葬ってやる!」

「なら、僕もそれに答えます『リルべ』さん……!」


 降り注ぐ雨の音に風の音。そして、船内で燃え続ける炎。雨によって勢いは衰えたが、それでも鎮火されることなく燻りつづけている。周囲の倒壊が進んでいる事もあり、この場所に居続けるのは危険だ。

 恐らく、次はない。今、少年二人はそれぞれの武器を構え、最後の衝突を行おうとしていた。

 ここで選ぶスキルによってリュイの運命は決まる。敵の最強スキルを突破するには、その効果を読んで技を繰り出さなければならない。


 この勝負、読み勝った者が勝者となる。


「さあ、これで止めだァ! スキル【一撃の矢】! 防御は無意味さ! 即死攻撃を喰らえェ!」

「スキル【虎一足とらいっそく】!」


 敵が繰り出したのは即死効果の矢。一方、こちらが繰り出したのは物理カウンター。

 おい、何をやっているんだリュイ! 即死攻撃をカウンターすることは不可能。何で自分から攻撃に飛び込んだんだ!

 ありえない動き。ありえない選択。しかし、彼の目に迷いなどない。

 少年は日本刀を突きだし、リルベの放った矢を柄によって受ける。いつもと同じ流れ、いつもと同じ必勝パターン。即死効果など発動されることなく、【虎一足とらいっそく】が発動された。


「貴方の物理攻撃。上乗せして返します……!」

「があああァァァ……!」


 瞬時に距離がつめられ、リュイの刀が敵を切り落とす。右肩から胸部を切り落とし、完全な直撃だ。

 カウンタースキルにレベル差は関係ない。受けたダメージをそのまま上乗せして返す。そんな強力なスキルを真面に食らってしまったことにより、リルベの再生能力はいよいよ限界となった。

 彼はぱっくり開いた1と0の傷口を抑えながら、後ずさりをする。自分の身に起きたことが納得できないらしい。


「なんで……何で攻撃に当たりに行ったんだ……!」

「チャンスだったからです。連続攻撃でも状態異常攻撃でもないスキルは大ダメージのカウンターが狙えますから」


 リュイの答えは正論だ。先ほどの攻撃はまさに一発逆転のチャンスだった。

 しかし、納得できないのは【一撃の矢】が持っている即死効果が無効になった理由。それは、リルベの口から明かされた。


「知ってたのかよ……【一撃の矢】の効果確率は三割程度だって……!」

「知らなくても分かります。そんなに強いスキルがあったら最初から使ってますし、評判にもなるでしょう」

「でも三割だよ……! 三割で全部終わっちゃうんだよ……!」

「確率的には充分です。アイさんの確率論では、五分五分以上が勝負所ですから」


 おいおい、スキルの効果も知らずにそれを受ける判断に出たのかよ。しかも、三割の確率でゲームオーバーだったのにも拘らずだ。

 アイとカジノに行ったのは正解だったな。結果として、ここ一番の勝負所で攻めに出る勇気を手に入れた。強大な力を勇気によって突破する……リュイらしい戦い方だ。

 リルベは情けなく尻餅をつき、必死にその場から逃げようとする。再生能力が限界となり、次の一撃で命を落とす事となる。その恐怖に耐えられなくなったのだろう。


「ひえ……し……死にたくないよー……! もう悪いことしないから助けて……!」

「大丈夫です。貴方を殺す気は……」


 リュイが慈悲を与えようとした瞬間だ。先ほど受けた毒によるダメージが、彼の残り少ないライフを削る。その痛みに耐えきれず、彼は膝を落としてしまった。

 そうだ……リュイは追加効果を受けなかったものの、【一撃の矢】を防御上から受けている。それ以前から毒によるダメージが重なり、既にライフは限界だったんだ。

 彼の動きが止まった瞬間、リルベは醜悪な笑みを浮かべる。


「チャーンス! 毒で倒れちゃったか。騙し討ちの必要もなかったねェ!」


 弓術士アーチャーは立ち上がると再び弓を構える。そして、矢じりの刃をリュイの方に向けた。

 おい、リュイ! 今度こそ対抗手段がないぞ! 早く迎え撃つんだ!

 俺は奥歯を噛みしめ、ルージュは必死に叫ぶ。ここからじゃ支援も間に合わない……!


「リュイ……! 立て! 立ってくれ!」

「これで終わりだァ! さあ、存在しない神様に祈りなよ! 助けてくださいってさあああァァァ!」


 リルベの手から矢が放たれる瞬間。それは起きた。


 一瞬、世界が制止したかのように、俺の感覚が研ぎ澄まされる。勝利を確信したのか、リュイの瞳は真っ直ぐと見据えていた。

 世界が白く染まる。雨風の音が止まる。その僅かな瞬間……


 一発の落雷が、リルベの脳天へと落ちた。


「があああああァァァ……!」


 再び時が動きだし、激しい光と巨大な音が船内に響く。敵が撃ち抜いて外部に繋がった穴から、それは突然降り注いだ。

 俺は夢でも見ているのだろうか。人に落雷が当たるなど、ゲーム中でも不自然すぎる。あまりにも急な展開だろう。

 それが今、目の前で起きた。勝者が決まろうとしたその瞬間に……


「そんな……こんなことって……!」

「ほんと、奇跡ですよね。スキル【燕返つばめし】!」


 重い体を奮い立たせ、リュイは再起していた。

 彼は落雷によって痺れたリルベに日本刀を振り落す。斬り落しのダメージを与えた後、そこからさらに切り上げる【燕返つばめし】。二回の攻撃により、敵の再生能力は限界を超えた。

 体を崩壊させつつ、彼は後方へと斬り飛ばされる。そこにあったのは、爆発薬によってぶち抜かれた大穴。この少年が自ら開けたものだった。

 穴から見えるのは下界の風景、体の崩壊が進んでいる状態で落下すれば確実に死ぬ。彼の命が終わってしまう。それは俺にとっても、リュイにとっても望まれない。


「リルベさん……!」


 彼の手がリルベの手を掴む。穴から落ちる間一髪、弓術士アーチャーは宙吊りの状態で救われた。

 手を離せば下界へと真っ逆さま。だからこそ、正義感の強いリュイは絶対に離さない。例え敵でも、例えゲス野郎でも、彼の意思は変わらなかった。

 リルベは笑う。この笑顔はどちらのものなのか……

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