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エルドガルドギルド  作者: 白鰻
二十六日目 天空の街バレンシア
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114 万紅叢中緑一点

 リュイが【ダブルブレイン】と戦う。俺は彼を信じているつもりだが、こればかりは止めざるおえなかった。

 アスールさんはイデンマさんを撃破しているが今回は状況が違う。彼は宿敵を倒すために盗賊シーフの対策を行っていた。それに加え、バルメリオとアスールという二つのアカウントを使って、実質二対一の戦いに持ち込んでもいた。勿論、彼本人のプレイヤースキルも上位で、バルメリオ側のアカウントは相当にレベルも高い。

 あの戦いは数々の要素が重なっていたからこそ勝てた。しかし、今回はそれがない。


「クロカゲさん、遠距離攻撃や【ジャンプ】のスキルを持っている人を呼んで支援に入れませんか?」

「うーん、可能かもしれないけど……でもさ、あのリュイって子がいたから、今こうして足止めできているんだよナー。ここは彼の意思をくみ取ってあげたいところだよネ」


 そうだ……リュイは「手出し無用」と言った。クロカゲさんはそんな彼を尊重してやりたいらしい。

 しかし、それにしても賭けられている物が大きすぎる。冷たい言い方かもしれないが、リュイの戦いに全てを賭ける価値はないのだ。

 ギルド【ゴールドラッシュ】を奪われた今、こちらの最大戦力はギルド【漆黑しっこく】。ここで全滅すればすべてが終わる。


「でも、負けたらこのギルドが……」

「その時はその時の策を用意するだけだネ。既にこの船は【オレンジナ大陸】に到着しているんダ。天を貫くクレープスの塔、その中層にある天空の街バレンシアなら高度を落とさずに着陸できル」


 クロカゲさんは落ち着いた様子で歩き出した。どうやら、墜落を防止するための策を用意しているらしい。


「二人は彼の戦いを見守るんダ。先輩であるオレの役目は別にあル」


 そう言って、彼は動力室を後にする。この自信はどこから来るか分からないが、今は信用するしかなさそうだ。どの道、リュイの戦いを邪魔するのは気が引けるしな。

 立ち去るクロカゲさんを流し目で見るリルベ。彼はこの場に残った三人に因縁を持っていた。


「リュイって言ったっけ? このメンバー、オリーブの森で戦った時と同じじゃん。これもくだらない天命って奴?」


 俺とリュイ、ルージュ、確かにあの時と全く同じメンバーだ。リルベはこの偶然が気に入らないのか、否定的な言葉をぶつける。


「じゃあ、教えてあげるよ! 神様なんて存在しないってさ!」


 数メートル離れたリュイに向かって、彼は矢じりの先を向けた。流石にレベルが高く、攻撃動作が非常に速い。そこからスキルが放たれるまでは一瞬だ。


「スキル【乱れ撃ち】! さあさあさあさあ! おいらを倒してみなよさあ!」

「この数は返せない……スキル【流刀りゅうとう】」


 連続で矢を放つ【乱れ撃ち】。リュイは防御からのカウンターを諦め、技を回避する手段に出る。

 【流刀りゅうとう】は攻撃を避けつつ敵を切り裂くスキル。彼は連続で放たれる矢を次々と回避していき、リルベの懐へと入った。

 日本刀を振り払い、敵の腹部を切り裂く。しかし、このスキルの威力は低く、尚且つリルベには再生能力もある。手応えは全くなしだった。


「ざーんねん! スキル【撃ち崩し】!」

「くっ……スキル【壁添かべぞい】!」


 敵の弓から防御無視の【撃ち崩し】が放たれ、リュイの左腕にかす当たりする。痛みを堪えつつも、彼はスキルを使ってと攻めの姿勢を見せた。

 【壁添かべぞい】は障害物に沿って敵を斬り捨てるスキル。狭い室内での使用は有用だ。

 刃は船内の壁をそってリルべを狙い、そして斬り裂く。攻撃を受けた彼の右肩からは0と1の傷口が見えていた。


「へ……へー! 前より強くなってるじゃん。でもさ、こっちも結構ガチなんだよね」


 接近戦が苦手な弓術師(アーチャー)はすぐに距離を取る。予想外の強さに少し慌てている様子だ。

 カウンターによって距離をつめれる(サムライ)弓術師(アーチャー)と相性がいい。なおかつ、誠実に攻撃を捌けるリュイが、リルべは苦手なようだ。

 当然、本気を出さざる負えない。リルべは右眼に手を当て、例のスキルを発動させる。


「もう、おふざけは無しだよ! スキル【覚醒】!」

「来ましたか……!」


 彼の片目に浮かび上がる弓矢の紋章。ここからが本番だ。

 スピードと攻撃力の上がったリルべは、ここから派手なスキルによって削りに出る。彼は矢尻を天井へと向け、それを一気に放った。


「クシ刺しだァ! スキル【雨降らし】!」

「なっ……!」


 空中に放たれた矢はリュイに向かって降り注ぐ。

 広範囲を攻撃する弓術師(アーチャー)の上位スキルか。明らかに船内で使えるような技ではないが、こういうスキル効果なので仕方がない。

 この高性能なスキルに対し、リュイは対抗姿勢を見せる。対処する手段を持っていたのだ。


「スキル【総捲(そうまくり)】……!」

「なっにー……!」


 上位スキルは上位スキルで対処する。リュイは周囲を斬り裂く広範囲スキルによって、矢をすべて薙ぎ払った。

 このスキルを習得するほど彼のレベルは高い。常に俺達より一歩先に行き、今は45レベルに成長している。

 敵のレベルは60以上だが、動きが万全には見えない。恐らく、先ほどセラドン平原で戦った消耗が残っているのだろう。


「ムカつく……ムカつく……調子に乗ってんじゃねーよ! 雑魚がァ! スキル【狙い撃ち】!」

「スキル【浮雲うきぐも】……!」


 逆上したリルべは、回避不能の矢を放つ。リュイはそれを【浮雲うきぐも】による衝撃波で撃ち落とそうとするが、完全に防ぐことは出来なかった。

 【浮雲うきぐも】は相手が動くほど威力が上がるが、リルベは無駄な動きを一切していない。その結果、【狙い撃ち】は減速しつつもリュイの胸部に直撃してしまう。


「リュイ……!」

「大丈夫です……! まだ戦えます!」


 攻撃は読めているし、技術も彼が上回っている。しかし、どうしても【覚醒】によるパワー差を埋めることが出来ない。

 唯でさえ二人のレベルは20近く離れている。カス当たりやガード上からのダメージが重なり、既にリュイは限界だった。


「そろそろ終わりだね。スキル【毒矢】ァ!」

「スキル【岩浪いわなみ】……!」


 彼が使用した【岩浪いわなみ】は、自らの防御を高めつつカウンターするスキル。先日覚えたばかりでスキルレベルは非常に低い。まさに苦肉の策だった。

 しかし、その判断をあざ笑うかのように、リルベが使用したのは【毒矢】。効果はそのまま、威力は低いが毒の状態異常を与えるスキルだった。

 リュイの刀が敵を斬る。しかし、こちらが受けたダメージのほうが大きい。


「ダメージを減らしつつカウンターする【岩浪いわなみ】。残念、毒には無意味だったねェ!」

「くっそ……!」


 珍しく荒い言葉を使うリュイ。毒の効果によって、残り少ないライフがさらに削られていく。しかし、重い体を引きずりながらも彼は動き続けた。

 刀を床に刺しながら少年は後方へと歩みだす。今の彼は無様に逃げているように見えるだろう。

 この少年が今さら逃げるはずがない。だが、リルベは勘違いしたまま彼に矢を放つ。


「お前はムカつくから絶対に逃さない! スキル【追い撃ち】!」

「僕は逃げない……! そのスキル効果は適応されません! スキル【滝落たきおとし】!」


 逃走する相手に大ダメージを与える【追い撃ち】。その効果を持った矢に対し、彼は【滝落たきおとし】のスキルを打ち付けた。

 【滝落たきおとし】は背後からの敵に大ダメージを与えるスキル。後方から放たれた【追い撃ち】を相殺するには充分な威力を持っている。

 そして、先ほどリュイは背中を見せつつもあるアイテムを使用していた。砂漠でルルノーさんから貰った高性能回復薬だ。


「ルルノーの薬……まだ持ってたんだ。でも、死期を伸ばしただけだね」


 ライフ全てを回復し、なおかつ毒の状態異常も治癒する。これほどの効力を持った回復薬は今使用した一つしかない。当然、二度目はないだろう。


 ここまで追いつめられた状況でも、リュイの表情は変わっていない。彼の真っ直ぐな瞳はただ純粋に輝き続けている。これがこの少年の強さだった。

 決してぶれる事のない武人のような精神力。それを持っていたとしても彼は人間だ。当然、恐怖や憎悪の感情は存在している。


「ずっと思っていたんです……僕にギルド【IRISイリス】の資格があるのか……他の皆さんがあまりにも特別で、僕は追いかけるので必死でした……」


 最後になるかも知れないからか、彼はずっと悩んでいたことを打ち明けていく。


「僕は天才なんかじゃない……! ルージュさんが【覚醒】持ちになった時。内心羨ましく思いましたよ! 彼女が強くなることを快く感じなかった……」


 彼は瞳に涙を浮かべながら、自虐の言葉をこぼした。


「僕って、意地悪いですよね……」

「乙女かァ!」


 しまった……物凄くまじめな話を普通に突っ込んでしまったぞ。

 いや、だって乙女の悩みだもの。男が悩むような事じゃないもの。ドロドロした女関係のような真意を暴露されてもな……

 リュイの突然の発言に、リルベは目を丸くしていた。しかし、すぐに普段の彼に戻り、相手を煽っていく。


「へー、よく分かってるじゃん! そうだよ……人間みんな意地悪いクズさ! それに加えてお前は弱いからなァ! ほんと、救いようがないね!」

「……黙れ!」


 そんな彼の挑発に乗ったのはルージュ。彼女はジト目だった瞳を見開き、言葉をぶつけていく。


「リュイはボクなんかよりずっと強い! 心が凄く強いんだ! 貴様になど負けるか!」

「むっ……いいや負けるよ。オイラは特別だからね!」


 リルべも負けじと対抗してくる。何だかんだでリュイのことを宿敵と認めているらしい。負けたくないのは向こうも同じだ。

 ルージュはいつもと同じテンションで叫ぶ。完全ではないが調子も戻ってきている。


「リュイ、ボクからの命令だ。絶対に勝て!」

「は……はい!」


 彼女の言葉を受け、思いつめたリュイの表情が和らいだ。まだまだ、勝負はこれからだな。

 少年と少女に闘志が宿る。そんな二人を見たリルベは、かなりイライラしている様子だ。どこか、恨めしそうにも感じる。

 弓を引き、リュイに狙いを定める少年。


「はあ? なにこの友情ごっこ。本当にムカつくな……オイラはお前たちの絶望する姿が見たいんだ! 幸せそうに笑ってんじゃねえよ!」


 リルベは通常攻撃による矢を次々に放っていく。精神的に不安定だからか、狙いは滅茶苦茶だった。

 リュイはその攻撃を見切り、涼しい顔で回避する。何本放たれようとも、少年は舞うように全て受け流していまう。それが、余計にリルベの精神をさかなでた。


「笑うな……オイラを笑うなあああァァァ! スキル【炎の矢】ァ!」


 彼はスキルを発動させるが、そのコントロールも滅茶苦茶だ。燃え盛る炎の矢は動力室の壁に突き刺さる。それと同時に、灯った炎が船体へと燃え移っていった。


「おい、不味いぞ……!」

「【炎の矢】! 【炎の矢】! 【炎の矢】ァァァ! みんな、みんな燃えちゃえええ!」


 狂ったように炎を放ち続けるリルベ。炎は次々に燃え移って行き、徐々に室温も上がっていく。

 リュイは鋭い眼光で敵を見つめ、攻撃態勢に出た。リルベの再生能力にも限界はある。精神的に乱れている今がチャンスだった。


 炎が燃え盛っていき、状況は最悪に見えるだろう。だが、リュイの信念によって希望が見えた。

 彼なら勝てる。俺が抱いていた僅かな疑念は、既に晴れていた。

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