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エルドガルドギルド  作者: 白鰻
二十六日目 天空の街バレンシア
114/208

113 覚悟の時

 外が騒がしいと思っていたが、それは爆発の影響ではないようだ。飛空艇の甲板に出ると、そこは戦場へと変わり果てていた。

 バランスを崩した黑翼に群がる飛行型モンスター。ハーピィロードにデビルコンドル、それに初めて見る機械型の敵もいる。ギルド【漆黑しっこく】のメンバーはそれらと戦い、敵を次々と葬っていた。

 この状況を見て、アイが声を張り上げる。


「凄い嵐ですね!」

「いやいや! それよりモンスターだろ!」


 瞬時に突っ込むが、確かに雨脚も強まっている。風もかなり強く、このままでは飛空艇が墜落しかねない状況だ。

 ギルドマスターのクロカゲさんは、味方をサポートするジョノさんを見つける。そして彼に近づき、現状の報告を求めた。


「ジョノ、いったい何が起きたんダ?」

「俺にもよく分からない。だが、何らかのスキルやアイテムを使ったMPKモンスタープレイヤーキルの可能性が高いと見ている」


 ゲームのイベントでモンスターが大量発生することはあるが、こんなに理不尽な襲撃は違和感がある。人為的なものだと疑うのも当然だ。

 しかし、一人のプレイヤーの手によって、ここまでのモンスターを操作出来るものなのか。それはそれでかなり無理のある考察だろう。

 ディバインさんは剣を構え、戦闘の準備に入っていく。彼はこの襲撃がプレイヤーの手によるものだと確信しているらしい。


「無茶なことをするプレイヤーだ。【漆黑しっこく】全員をキル出来ると思っているのか……」

「出来る出来ないにしても、この規模は異常だネ」


 クロカゲさんは周囲を見渡し、敵の数を確認していく。

 俺の目で捉えられる数だけでも、十や二十ではない。確かに、プレイヤー個人が行える限界を超えていた。

 そうなれば大方の予想がつく。おそらく敵は【ダブルブレイン】。本当に奴らは俺たちを休ませてくれないな……


 今は爆発音より、このモンスターを倒すことが先決か。俺たちだっていつ戦闘になってもおかしくないし、嵐の影響もある。現状の安定が再優先だ。

 しかし、足を止める俺たちに背を向ける者が一人。ギルド【IRIS(イリス)】の(サムライ)、リュイだった。


「おい、リュイ。どこに行くつもりだ」

「決まっています。この船の動力炉ですよ。まだ、爆発の原因は解明されていないんですから」


 いつもは冷静な彼が、珍しく勝手な行動を行おうとしている。なるほど、こりゃ嵐にもなるわな。

 クロカゲさんは少年を引き止め、爆発原因を考察する。ギルドマスターとして最良の判断だ。


「たぶん、原因はこのモンスターだヨ。プレイヤーの一人が派手にスキルを使ったんダ」

「それは自分の目で確かめてきます」


 何を言ってもリュイは聞こうとしない。本当に最近の彼はどうしてしまったのだろうか。先日、突然ルージュに決闘デュエルを挑んだ時から、ずっと様子がおかしい。

 俺は少年の手を掴み、無理やりその歩みを止めた。そして、叱りつけるように言葉をぶつけていく。


「分からないのかリュイ! 今は危険なんだ! どうしたんだよ。最近のお前はおかしいぞ……」

「そうですね……おかしいのかもしれません。それでも……!」


 自分でもその認識があるようだが、いくら指摘されても彼は前に進もうとする。これは並大抵の覚悟ではないな。

 俺はリュイの眼を見る。すると、一切の曇の無い真っ直ぐな瞳が、こちらを睨み返してきた。何を言っても聞かないのなら、こちらに止める手段はない。


「スキル【起動スタンドアップ】」


 スキルを使用し、俺はロボットに乗り込む。力ずくで止めに出ると思ったのだろうか、リュイは刀に手をつけ後ずさりをした。

 周りがモンスターだらけのこの状態で仲間割れをする気はない。この根競べは俺の負けだ。


「乗れ。モンスターを突破する。さっさと動力室を確かめに行くぞ」

「は……はい!」


 リュイはすぐさま、俺の後ろへと飛び乗る。一人乗りのため非常に狭いが、まあ何とかなるだろう。

 しかし、そんな俺たちの後ろにもう一人、誰かが飛び乗った。口を三角に尖らせたルージュだ。


「ぼ……ボクも行く! ボクを信じてくれたリュイを信じたいんだ!」

「あ、オレも行くヨ。ギルドマスターが確かめないとネ」


 三人が狭苦しく乗ったロボットを見て、クロカゲさんがニヤニヤと笑っている。この人がいるなら百人力、ひとまず安心と言っていい。

 ディバインさんもそう思ったのか、一人モンスターとの戦闘に乗り出す。彼が戦えば敵モンスターもイチコロだろう。


「ならば、私はここに残る。お前たちは動力室に向かえ」

「ディバインさん、私もご一緒します!」


 さっきまで白い布一枚だったディバインさんが、いつの間にか軽量の鎧を装備している。そして、そんな彼をサポートする少女アイ。

 まあ、ここは絶対に負けないだろう。この二人がやられている姿など想像できなかった。


 雨風も強く、早急にことを終わらせた方が良さそうだ。俺はリュイとルージュの二人を乗せて、動力室へと走り出す。

 そんな俺たちの後ろに続くクロカゲさん。彼の様子は楽しんでいるようにも感じられた。

















 ずぶ濡れになりながらも、俺たちは動力室にたどり着く。燃料節約のため、俺はすぐにロボットを解除した。

 四人のプレイヤーは奥へと歩いていく。蒸気が吹き上げ、多数の歯車が回るこの空間。既に焦げ臭いにおいが感じられ、何らかの爆発が起きたと判断できた。


「これは……」

「へえ、やっぱり感づいちゃったか。でも、敵が船に乗り込んでいるとは予測出来なかったよね」


 事の元凶はすぐに姿を現す。獣の被りものを被った弓術師(アーチャー)の少年リルべ。セラドン平原での戦い時に乗り込んでいたのだろう。

 彼はゲスな笑みを浮かべながら、服のポケットに手を突っ込んだ。


「軽率だったってわけさ。お前たちはもうお終いだよ!」

「……リルべ! しつこい奴だ」


 こいつと対面するのは何度目だろうか。レネットの村を……ステラさんたちを殺した巨悪。あまり会いたくはなかったな。

 そんな彼をクロカゲさんはまじまじと監察する。そう言えこの人、【ダブルブレイン】と会うのは初めてだったな。


「へー、こいつが【ダブルブレイン】だネ」

「総合ランキング二位のクロカゲ兄ちゃんか。連続で上位プレイヤーと戦ってるし、もう同じへまは踏まないよ」


 リルべはギンガさんとディバインさんに対峙し、ボロボロにされている。流石に自らの力を過信していなかった。

 彼は先ほど突っ込んだポケットから、一本の薬品を取り出す。そして、それを俺たちの足元へと投げつけた。


「アイテム爆発薬!」

「まずイ! 三人とも下がっテ!」


 クロカゲさんの指示により、俺たちは後方へと下がる。瞬間、薬品は大爆発を起こし、飛空艇の船底をぶち抜いた。

 半分NPCであるダブルブレインは、普通のプレイヤーより大規模に物を破壊できる。その気になれば街一つを消すことだって出来るのだ。

 飛空艇は船、魔法で動いているが作りは木製。底をぶち抜くぐらい訳はなかった。


「船底を……!」

「どうかな! うちの錬金術師アルケミストが調合した爆発薬は! これで誰にもおいらを止められないよ!」


 水上ではないので浸水はしない。しかし、一本道だった動力室の床が破壊され、リルべを追うことが出来なくなった。

 大きく空いた穴からは、地上の景色が見えている。この大きさでは飛び越えることも不可能だろう。なんて威力の爆弾だ。


「さっき一発、動力炉にぶちかましてやったんだ。ちなみに、外のモンスターもこの白い香水で呼ばせてもらったよ。おいら戦闘職だけど、たまにはアイテムも良いねー」


 白い薬品をちらつかせながら、リルべはあざ笑う。

 爆発はかわせたが、これではあいつを止めることが出来ない。動力炉を破壊されたら船が落下するのは確実。何としてでもここで撃破しなくてはならなかった。

 悪足掻きだが、問答によって奴の足を止める。


「そのアイテムを作った錬金術師アルケミストが【ダブルブレイン】最後の一人だろ。元運営のプレイヤーで、人の記憶を操作する黒幕か!」

「答える必要はないね。どうせお兄ちゃんたちはここで全滅しちゃうんだからさあ!」


 流石にリルべもバカではない。俺たちに背を向け、動力炉へと歩いていく。


「そこで指をくわえて見ていなよ! 動力炉がぶっ壊されちゃうのをね!」


 くそ……戦わずして全滅なんて冗談じゃないぞ。

 クロカゲさんはマイペースに策を練っているようだが、とても間に合わない。ここで何としてもあいつを倒さないと全てが終わってしまう。

 俺が強行手段を考えていると、リュイが一人足を踏み出す。そして、悪い顔をしながら、離れていくリルべに言い放った。


「そうやって、また正々堂々と戦わずに逃げるんですか? やはり、貴方は卑怯者ですね」

「……はい? よく聞こえなかったけど?」


 敵はこの言葉に食いつく。

 振り返り、視線をこちらへと向けた弓術師(アーチャー)。彼に対し、リュイは更なる挑発を与えていく。


「貴方は卑怯者と言ったんですよ。リルベさん」

「へえ、よく吠えるじゃん。雑魚の癖にムカつくなあ!」


 弓を手に握り、矢をセットするリルべ。まさか、攻撃に出る気か!

 俺はジャストガードをしようと足を踏み出す。しかし、そんな俺をリュイの右手が遮った。

 ここは任せろということか。一体何を考えているんだ……

 そうこうしているうちにリルべが弓を弾く。自分が狙われていると分かりながらも、リュイには一寸のブレもなかった。ただ真っ直ぐ、自らが防ぐべき矢を見定める。


「お前だけは直々にぶっ殺してやるよ! スキル【狙い撃ち】!」

「リュイ……!」


 攻撃が放たれた瞬間、サムライは口元に笑みを浮かべた。

 リュイは抜刀し、放たれた矢にその柄を当てる。ジャストガードでも、相殺でもない。これは通常のガード。そうなれば、次に彼がどんな行動に出るのか予測がついた。


「スキル【虎一足とらいっそく】!」


 相手の物理攻撃にカウンターを与える【虎一足とらいっそく】。たとえ敵が離れた所にいようとも、このカウンターは絶対に適応される。

 リュイはスキルの効果によって一気に走りこみ、船底に空いた巨大な穴を飛び越えてしまう。そして、驚くリルベの脳天に日本刀による一撃を振り落した。


「ちっ……!」


 しかし、リルベはその攻撃を弓の柄によってジャストガードしてしまう。リュイは彼から弾かれ、少し離れた場所に着地される。瞬間、この場に静寂が訪れた。

 一人、船底に空いた穴を飛び越え、敵の元へと辿り着いてしまった少年。彼以外にこの場を収束できる術を持つ者はいない。これが何を意味しているか、本人もよく分かっているようだ。


「リュイ……お前……」

「何も言わないでください……これが天命という物なんでしょうか。非科学的ですけど、自分がすべきことが分かっていたんです」


 ずっと様子がおかしかったのは、この時が近づいていると感じていたのだろう。彼にとっての大きな戦い。彼にとっての覚悟の時が……

 まさかの来客に対し、リルベは醜悪な笑みを浮かべる。戦うべき相手が現れたという事に、彼はまんざらでもなさそうだ。


「お前さあ、状況分かってる? 一人でここまで来たって事は、お前の背中にこの船の命運がかかってるって事だよ? 責任重大だねー」

「元より承知! これは証明の戦い……僕がギルド【IRISイリス】のメンバーたり得るかどうかの……!」


 彼は刀を構え、着物を翻す。それはまるで小さな武人のようだった。


「今が覚悟の時! 手出し無用でお願いします!」


 この飛空艇に乗った全てのプレイヤーが掛けられた戦い。それをまだ未熟な一人の少年が背負うこととなる。

 vsリルベ……まさかこんな形になるとは、まったく予想だにしていない事態だった。

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