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エルドガルドギルド  作者: 白鰻
二十二日目~二十五日目 小人の村カーディナル
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107 暗黒ルートを突き進む

 ルージュの使った【覚醒】は、敵がプレイヤーを操るために使うスキル。俺は仲間がこのスキルを所持しないように、今まで体を張ってきたつもりだ。

 しかし、彼女はこのスキルを使用した。呆然とする俺とは違い、リュイはすぐさま疑問を放つ。


「る……ルージュさん! これはどういう事か説明してください!」

「ボクも知らんわ……! 全く覚えていないが、今は頗る調子が良いぞ!」

「絶対ヤバいルート進んでるじゃないですか!」


 【覚醒】の効果により、今のルージュはバーサクの状態。つまり、気分がハイになっている感じだろう。

 本来なら、この状態での戦闘はほぼ無意識。ステータスは上がっているものの、滅茶苦茶に暴れまわるだけだった。

 だからこそ、敵はその間に精神を操る。はずなのだが……ルージュは俺と同じように、自分の意志で動いていた。


「安心しろ……! ボクは超新星として生まれ変わった! さしずめ暗黒ダークルージュ、いや暗黒物質ダークマタールージュと名乗った方が良いか……」

「名前からして闇落ちしてますよ! 暗黒ルート突き進んじゃってますよ!」


 リュイの突っ込みが冴え渡る。しかし、今はふざけている状態ではない。ルージュの事は不可解だが、それより【漆黑(しっこく)】に追い詰められた状況を打開したいところ。

 こちらが【覚醒】を使用したことにより、彼女たちはこちらを警戒する。その目は完全に、弱小プレイヤーに向けられたものではない。


「また複雑怪奇な……やはり彼女たちの世代は危険ですね」

暗黒物質ダークマタールージュ……まさか、敵の伏兵? なら、油断は必要なイ!」


 ゲッカさんは様子を見るように、アイの攻撃をかわしている。一方、ルージュと向き合うフウリンさんは完全に本気だ。相手を探るような真似をせず、特別なスキルによって勝負に出る。

 これは意外だな。てっきりゲッカさんの方がヤバい人かと思ったが、彼女の方がそれを凌ぐヤバさだった。


「限定スキル【鬼神】!」

「限定スキル……!」


 フウリンさんの頭に小さな角のようなものが生える。そして、周囲に赤い炎が燃え上がり、彼女の体へと纏わりついた。

 俺の【奇跡】やハリヤーさんの【海鳴】と同じ限定スキル。しかも、これは完全に戦闘特化の限定スキルだ。

 どう見ても、絶対に戦っちゃいけないタイプの奴だろうな……彼女の声質は、この世界の精霊に近いものだった。


『今の私は暴走状態に入っタ……さしずめ鬼神デーモンフウリン、いや鬼神的デモニックフウリンと名乗った方が良いカ……』

「対抗してきましたよこの人! 頭の中が同レベルですよ!」


 リュイは悠長に突っ込んでいるが、生憎俺にはそんな余裕はない。たぶん、俺もアイやルージュと同じように、かなり精神がトリップしているな。頭が真っ白で、とても冷静な判断が出来る状態じゃなかった。

 しかし、アイは想定外の事態が起きた方が冷静になるようだ。今まで戦いを楽しんでいたようだが、ここに来て普段の彼女に戻る。剣を交えるゲッカさんに、スキルの詳細を求めた。


「スキル【鬼神】とは……」

「バーサクの上位状態異常、鬼神モードになるスキルです。フウリンさんはあのスキルを使いこなせていません。あのルージュというプレイヤー、無事では済まないでしょうね」

「そんな……!」


 それを聞いた途端。俺はルージュを取り押さえることを決める。敵ではなく、あえて味方の方を狙うのには理由があった。

 暴走状態になっているフウリンさんと違い、彼女の方は本人の意思で戦っている。それに加え、【覚醒】を使用している相手なら、こちらも【覚醒】を使用できるはずだ。俺を取り押さえている忍者ニンジャを振り払い、この場を収めてやるさ。


「ルージュを止める……! 【影縫いの術】は突破させてもらいます!」

「流石にターゲットをゲームオーバーにするのは不味いですね。仕方ありません」


 任務に支障が出るのか、ゲッカさんはアイを振り払ってフウリンさんの元へと走る。おいおい、この場面はルージュを抑えるべきじゃないのか? いや、フウリンさんは暴走状態だったな。恐らく、彼女を止めるには武力で打ち負かすかないという事だろう。また面倒な事態だ……

 とにかく、そっちはゲッカさんに任せて俺はルージュを止める。まずはこちらを拘束する邪魔な忍者ニンジャ二人を振り払ってやるさ!


「スキル【覚醒】!」

「スキル【初発刀しょはっとう】」


 俺は上昇した能力をフルに活用し、忍者ニンジャの【影縛りの術】を引きちぎった。驚く彼らを尻目に、一気にルージュの元へと走る。それと同時に、ゲッカさんの先制スキルがフウリンさんに一撃を与えた。

 上司が仲間の制止行動に出たことにより、忍者ニンジャ四人がその支援に出る。こうなれば、もはや対立どころではない。完全に、ギルド【IRISイリス】、ギルド【漆黑しっこく】が仲間同士で戦っていた。


 そんな中、俺はルージュと向き合う。場が混乱した状況でも、彼女は武器を収める気はない様子。当然、こちらもスパナを構えざるおえなかった。


「いい加減にしろルージュ! これ以上戦っても、【漆黑しっこく】との隔たりが大きくなるだけだ!」

「ふん……! だからどうした! レンジ、ボクたちは特別なんだ! そんな奴らの力なんて必要ないだろ!」


 やはり、様子がおかしい。【覚醒】のバーサク状態によって、自分の感情に素直になってるな。

 ここは冷静に対処しなくてはならない場面。しかし、俺の頭は既に真っ白になっていた。怒りに身を任せて、幼い彼女を怒鳴りつける。


「ふざけんなガキが! 特別だったらどうした! 絆を断ち切るぐらいなら、最強のスキルなんざドブに捨てちまえ!」

「レンジさん!」


 叫ぶ俺の腕を何者かが掴む。サムライの少年リュイだった。

 忍者ニンジャたちがフウリンさんを押さえに出たことにより、彼も解放されたらしい。瞳を潤ませながら、必死に俺を宥める。


「貴方まで冷静さを失ったら、誰がこの場を収めるんですか! 僕を不安にさせないでください! 訴えますよ!」

「あ……ああ……悪かったよ」


 そうだ……今はヴィオラさんもバルメリオさんもいない。俺がしっかりしなくちゃどうするんだ。自分が思う最善手段でこの場を収める。まずは、冷静にルージュを対処しなくちゃいけない。

 今の彼女はバーサク状態。会話で気を逸らしながらゆっくりと近づく。そして、隙を身ながら万能薬をぶっかけるだけだ。何も難しい事ではなかった。


「ルージュ、冷静になってくれ。リュイも心配してる」

「うう……」


 俺は懐にアイテムを忍ばせつつ、ルージュに近づいていく。それと同時に、アイとリュイが俺をサポートする態勢に入った。

 彼女を警戒しつつも、不意にゲッカさんたちの方を見る。彼女たちは人数に物を言わせ、炎を身に纏うフウリンさんを追いつめていた。これなら安心だろう。あとは、ルージュを止めるだけだ。


 俺の説得が通じたのか、少女の動きが止まる。俺は安堵の表情を浮かべ、ほっと胸をなでおろした。

 しかし、それは完全な油断だ。突如、ルージュの目の色が変わり、こちらを睨みつける。敵意を感じた時には、すでに詠唱の体制に入っていた。


「ぼ……ボクの邪魔をするな! スキル【雷魔法】サンダリス!」

「やっべ……」


 よくよく考えたら、バーサク状態の彼女に会話が成立するかは微妙。そういう状態異常と割り切るべきだった。

 ルージュのメイスから放たれる強力な雷。甘んじて受け止めようと覚悟した時だ。


「スキル【小夜曲セレナーデ】魔法攻撃力を低下させる」


 俺が雷を受ける瞬間、そのダメージを和らげる曲がカーディナルの村に響く。これは、吟遊詩人(バード)の能力低下スキルだった。

 攻撃を受けつつも、俺は曲が響いた方を見る。するとそこには、小刀を口にくわえ、三味線を奏でる男が立っていた。

 大柄で褐色肌、優雅な吟遊詩人(バード)のイメージとかけ離れた風貌。ゲッカさんたちと同じく、服装は和服だ。彼は俺たちに目もくれず、フウリンさんを取り押さえる忍者ニンジャ四人を睨み付ける。


「ゲッカとフウリンを抑えるのがお前たち四人の役目だろう。このざまは何だ」

「すいませんジョノさん……」


 総合ランキング7位のジョノさん。ようするに【漆黑(しっこく)】最高幹部のご登場というわけだ。

 彼は以前、俺たちの捕獲を拒否している。ギルドマスターのクロカゲさんに意見でき、なおかつ人に同情するほど血が通っていた。他の幹部より安心感があるな。


 新たな敵を視認し、バーサク状態のルージュが攻撃に出る。中途半端に正気なのか、【小夜曲(セレナーデ)】の影響を受けない物理攻撃を仕掛けた。


「スキル【振り上げ】……!」

「スキル【交響曲シンフォニー】攻撃力を低下させる。スキル【協奏曲コンチェルト】防御力を低下させる」


 【交響曲(シンフォニー)】によって威力の下がったメイスを彼は右手の小刀によって受ける。そして、左手の三味線によって更なる音楽を奏でた。

 相当にスキルの使用速度が早い。これは【素早さup】のスキルを鍛えてるな。


「物理特化の魔法職がお前だけだと思うなよ。スキル【二連撃】」

「ふぇぇ……」


 動きの鈍い魔道士(ウィザード)に対し、小刀による攻撃に出る。【二連撃】、その名前の通り二回連続で攻撃するスキルだ。当然、吟遊詩人バードがデフォルトで覚えるスキルではない。お店で買うスキルだった。

 ルージュのメイスを防ぎつつ、ジョノさんは斬撃でダメージを与えていく。彼の左手には三味線、右手には小刀が握られている。恐らく、ラプターさんと同じ【両手持ち】のスキルを鍛えているのだろう。


「そうだ……ジョノさんは決闘ランキング3位。闘技場での成績はギンガさんを上回っているんだ……」


 三味線によって能力低下スキルを奏でつつ、小刀による斬撃でライフを削る。同じ吟遊詩人(バード)でも、ヴィルさんの戦い方とはまるで違っていた。

 彼は決闘ランキングの上位プレイヤー。対人戦に特化された根っからの戦闘狂だ。

 小刀によって切り捨てられ、ライフギリギリで取り押さえられるルージュ。そんな二人の戦闘をアイはぞくぞくとした表情で見つめていた。まさか、ジョノさんと戦いたいとか言い出さないよな。それは流石に止めさせてもらうぞ……


 しかし、予想した展開になる事はなく、この場は一先ずの収束が付く。ジョノさんはルージュの身柄を忍者ニンジャの一人に任せ、俺の方へと歩いてきた。

 流石に戦う気はないがルージュは解放してほしい。そう話を付けようとした時、彼の口から意外な言葉が出る。


「レンジだったな。マーリックから伝言を預かっている。『幸運あれ』とな」


 一瞬、言葉の意味が分からなかった。しかし、すぐにこれが道化師ジェスターマーリックさんの計らいだと気付く。

 彼はギルド【漆黑しっこく】の諜報員として、ずっと俺たちを監視していた。しかし、行ってきたサポートは全て独断。助けられてきたという事実は変わらない。

 今回だってそうだ。これはマーリックさんが恵んでくれたチャンス。ギルド【漆黑しっこく】と友好関係を築く機会は今しかない。ここで踏み込まなくてどうするんだ!


「分かりました。ジョノさん、ギルド本部まで同行します。手厚く迎えられるんですよね?」

「当然だ。客人には誠意で答える」


 俺の答えに対し、ジョノさんは不敵な笑みを返す。初めから彼が来ていれば、余計な戦闘にならずに済んだのにな。

 この判断に対し、アイは驚きの声を上げる。確かに、普通なら横暴なギルド【漆黑しっこく】など信用できないだろう。俺だって完全には信じていない。

 しかし、ここで繋がりを断ち切れば前進できないのも事実。皆には納得してもらうしかないな。


「れ……レンジさん! 良いんですか!?」

「ああ、これが最善だ」

「ですが、敵に屈するわけには……」

「敵じゃない。俺が味方に変える」


 俺は少しイラついていた。勝手なことをするアイやルージュに対して、この状況に何も出来ない自分自身に対して……

 まずはヴィオラさんに連絡して、落ち着いてからルージュと話し合う。更にその後、ギルド【漆黑しっこく】との対談。これは忙しくなりそうだ。

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