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エルドガルドギルド  作者: 白鰻
二十二日目~二十五日目 小人の村カーディナル
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106 真紅の覚醒

 キーパーソンである俺を狙うギルド【漆黑しっこく】。俺たちはそのメンバーに取り囲まれていた。

 敵はサムライのゲッカさん、格闘家モンクのフウリンさん、そして忍者ニンジャのプレイヤーが4人。全員上位のプレイヤーで間違いないだろう。

 しかし、リュイはその中の一人、ランキング8位のゲッカさんと面識がある様子。彼女はリュイと同じサムライのジョブを選んでいる。その関係で知り合う機会があったのかもしれない。


「リュイ……! こいつの事を知っているのか!」

「はい、これでも元【漆黑】のメンバーですから」


 ルージュの質問に対し、彼はとんでもない事を暴露する。まったく、気になどしていない様子。明らかに、さらっと言えることじゃないだろ!


「おい、初耳だぞ! 何でそんな大事なことを隠していたんだ!」

「別に隠していたわけではありません。一週間でやめてしまったので、話す必要はないと思いました」


 確かに、話したところで別にどうという事はないか。親交を深めていたのならともかく、一週間の付き合いで終わったのなら無関係に等しい。会話に出なかったも仕方なかった。

 だが、ここに来てようやく、リュイがどうやって俺たちに遭遇したか読めてきたぞ。あの、オリーブの森での出会いは、ギルド【漆黑しっこく】から抜け出した直前だったんだな。

 彼はさらなる詳細を俺たちに話していく。


「今だから言えますが。僕、友達がいないんです」

「知ってた」

「他より技術が高いのを鼻にかけて、ギルド【漆黑しっこく】では孤立してました。居づらくて堪らず逃げ出しましたね」

「知ってた」


 こいつが俺たちの元に転がり込んだ理由は大方予想通り。一カ月近くなって、ようやく本人の口から説明が入ったか。この一カ月で随分と素直になったものだ。

 リュイの事が気に入っていたのだろうか、ゲッカさんは上機嫌で刀を構える。こちらに対する殺意は無くなったが、武器を収めるつもりはないらしい。


「リュイさん、貴方なら私との実力差は分かるはず。素直に尋問に下ってください」

「僕は良いんですけどね。女性二人の方が少々肉食系で……」


 俺もリュイに同意だ。無駄に足掻いてゲームオーバーになるぐらいなら、こいつらのゲームに付き合ってやるべきだろう。現状の彼女たちは中立という立場。顔色を伺って穏便に解決したいところだ。

 しかし、戦闘狂でポンコツなアイが止まるはずがない。彼女は拘束スキルを使用し、この包囲網を突破しようと試みた。


「スキル【まつり縫い】! さあ、今の内に逃げますよ!」

「諦めない気持ちは良いが、今回ばかりは無茶があるぞ!」


 見えない糸が、四人いる忍者ニンジャの一人を拘束する。おいおい、たった一人止めて何になるんだ。この人たちに加え、8位のゲッカさんと9位のフウリンさんもいるんだ。逃げ切れるはずがないだろう!

 この行動が狼煙となり、ギルド【漆黑しっこく】との交戦が始まってしまう。こうなったら成るようになれだな。ゲームオーバーを避けつつ、突破を試みるしかない。

 行動可能な三人の忍者ニンンジャが、一斉にアイを取り囲んでいく。これにより、俺とリュイが包囲網から解放された。

 流石の彼女も上位プレイヤー三人を相手にすることは出来ないだろう。俺はそう思っていた。

 しかし、そんな俺の背筋に恐ろしいほどの悪寒が襲う。一瞬、新たな敵が現れたのかと思ったが何てことはない。悪寒の正体は、アイが放つ尋常ではないほどの殺気だった。


「スキル【仕立直し】、邪魔な補助効果は削除させていただきます……」


 大針を一振りし、三人の内の一人から防具の効果を取り除く。だが、たった一人の防具を封じたところで何になるんだ。この状況を打開できるはずなんて……


忍者ニンジャでありながら、随分と重い防具を使用していますね。変体構成の盾役でしょうか? ブロッキングの補助効果が付与されていると見ました。申し訳ないですけど、まずは貴方から機能停止させていただきます」

「何だよこいつ……スキル【空蝉の術】!」


 可憐な美少女、しかも生産職の仕立屋テイマーが大針を片手に迫ってくる。これにはターゲットにされた忍者ニンジャもたじたじだろう。俺だってこんなの混乱する。

 しかし、それでも彼はランキング上位。即座に回避率を上昇させる【空蝉の術】によって、盾役としての機能を果たす。見た目はモブキャラだが、絶対俺より強いな。

 この忍者ニンジャが行った行動は模範解答だ。現状行える最善の手段だろう。相手がアイでなければ……


「【空蝉の術】……死にスキルですね。雑魚にしか効きませんよ……」

「なっ……!」


 彼のスキルに対して、アイが行った行動は無視。【空蝉の術】によって重なって見える敵に対し、彼女は正確に攻撃を放っていった。

 幻覚など、この少女には全く無意味。勘と経験により、ぼやける標的のクリティカルポイントを正確に貫いていった。もう、お前は滅茶苦茶すぎる。好きにやってくれ……


「嘘だろ……」

「こいつ、バカみたいに強いぞ!」


 拘束が解けた一人を含め、見物している忍者ニンジャ三人が慌てている。俺とリュイも空いた口がふさがらなかった。

 相手もクナイによって対抗姿勢を見せている。しかし、それらの攻撃は全てジャストガードによって防がれている様子。これは、こいつら助けに入らないだろうな……関わりたくない気持ちで一杯なのが分かった。


「悪戦苦闘ですか……下がってください。彼女は私が仕留めます」


 忍者ニンジャ四人が逃げ腰なのを察し、サムライのゲッカさんがアイの前に立つ。それと同時に、忍者ニンジャたちは俺たちの方へと戦闘態勢を取った。

 アイの戦闘が気になるが、こっちも何とかしなくちゃならないな。幸い、格闘家モンクのフウリンさんは以前としてやる気なしだった。


「とにかく、もう戦闘は避けられない。スキル【起動スタンドアップ】!」

「そうですね……ギリギリまで粘ってみましょう!」


 俺はロボットに乗り込み、一人の忍者(ニンジャ)へと殴りかかる。

 アイがあんなに簡単に追い詰めたんだ。もしや、こいつら意外と雑魚なんじゃないか? そんな淡い期待を込めた通常攻撃。当然、簡単に回避される。


「スキル【分身の術】」


 拳を避けた忍者(ニンジャ)が二人に増えた。どう考えても嫌な予感しかしない。

 彼と分身は同じ動きをし、両方共が大きく息を吸い込む。とっさに、俺はガードの体制を取った。


「スキル【火遁の術】」


 彼らは口から灼熱の炎を吹きかける。これは魔法に近い攻撃なのか、全くガードが出来ていない。VIT(魔法防御力)が低い俺は大ダメージを受けてしまった。

 炎にまぎれて、もう一人の忍者(ニンジャ)が何らかのスキルを発動させる。この時点で、俺は抵抗を諦めた。どう考えてもムリゲーだ。


「スキル【影縫いの術】」


 【まつり縫い】と同じ拘束スキルによって、俺はロボットごと動きを封じられた。真っ黒い影に縛り付けられ、振り払える気がしない。

 すまん、アイ。やっぱり駄目だった。全然雑魚じゃなかった。

 流石に一人一人が強いな。俺たち弱小ギルドで対抗できるはずがない。規格外のぶっ壊れアイちゃんにはついて行けなかった。

 【起動スタンドアップ】を解除し、ロボットから降りた俺に忍者(ニンジャ)二人が声をかける。


「大人しくしておいた方が良いぞ。あの女マジでヤバいからな……」

「ゲッカの奴は本気だ。素直に従った方が良いぜ」

「あ、意外と普通なんですね……」


 覆面忍者は意外と普通のプレイヤーでした。リュイの方を見ると、彼も別の忍者(ニンジャ)に捕まっている。これは、このままの方が安全だな。

 しかし、アイは全く止まらない。ゲッカさんとガチガチなバトルを繰り広げていた。


「なるほど……貴方がクロカゲさんの言っていた『ジョーカー』ですか」

「じょー? かー?」

「奇奇怪怪、弱小ギルドの弱小プレイヤーが、一ヶ月も満たないうちに上位のプレイヤースキルを身に付けたと聞きます。ギルド【IRISイリス】に優れた指導者が存在しているのは明白。私はギルドマスターのヴィオラさんだと睨んでいましたが……」


 ゲッカさんは大針をガードしつつ、目の前の敵を睨みつける。


「貴方がジョーカーなのは確実。いったい何者……」

「私はアイ、ただのゲーム廃人ですよ!」


 そうか……俺たちが異様に強くなったのは、全部こいつのおかげだったのか。

 そりゃそうだ。VRMMOを初めて間もない俺が、上位プレイヤーにたどり着けるはずがない。そこに規格外の存在がいるのは明白だったんだ。

 そして、その規格外に指導を受けた奴がもう一人。


「貴様……! アイから離れろ! ボクが相手だ!」

「ルージュさん来ちゃダメです……!」


 今までずっと様子を見ていたのだろうか、ここに来て魔導師ウィザードルージュが参戦する。

 しかし、何だか様子がおかしいな。こいつの性格だったら無鉄砲に突っ込むか、怯えて動けないかのどちらかだ。このタイミングで支援に入るのは、どうにも違和感がある。

 まるで、俺とリュイが捕まるまで待っていたような。そんなありえない可能性が俺の頭をよぎる……いや、ピンチを救う演出をしたかったのか? それならあり得るか。


「無理無体ですね。フウリンさん、露払いをお願いします」

「アイヤー、弱い者いじめは嫌いなんだけどナ……」


 アイにカウンタースキルを放ちつつ、ゲッカさんがフウリンさんに指示する。獣耳の格闘家モンクは頭の後ろに腕を回し、気乗りしない様子で前に出た。

 彼女は右手を前に出すと、掌を自分に向けちょいちょいと動かす。これは、カンフー映画でよく見る挑発だな。「かかってこい」という事だろう。

 ルージュは口を三角に尖らせ、ジト目でフウリンさんを見つめる。そして、メイスを華麗に振り回し、そのまま一気に殴りかかった。


「スキル【兜割り】……!」

「スキル【発勁】!」


 しかし、フウリンさんの対応は早かった。彼女の手から放たれる衝撃波が、ルージュをその場から吹き飛ばす。唯の衝撃波ではない。その攻撃は赤く燃える紅蓮の炎だった。

 【炎属性威力up】を鍛えた属性特化か。以前戦ったハクシャとは違い、自分からは積極的に動いてはいない。同じ格闘家モンクでも、全く違う型と見ていいだろう。


 この攻撃により、ルージュは大ダメージを受けてしまう。彼女の耐久で一発耐えれれば充分だ。頼むから、これ以上動かないでくれよ。

 しかし、その願いは通じなかった。ルージュは興奮した様子で目を輝かせ、すぐに次なる攻撃の態勢に出る。おいおい、一体どうしたんだよ。お前、こんな性格だったか? これじゃあ、まるでギンガさんじゃないか……


「ふん、中々やるではないか……! だが、貴様など宇宙の塵に等しい事を教えてやる!」

「お……おいルージュ……」


 やはり、おかしい。最近のルージュは作ったキャラクターが前面に出すぎている。

 彼女はずっと恐怖を我慢して戦ってきた。しかし、今のルージュは自信に満ち溢れ、恐怖など断ち切っている様子。まるで、理想の自分を本物にしたかのように、彼女は堂々と戦いの場に立っていた。

 やがて、この少女が普通ではない事を確信する決定的な瞬間が訪れる。


「スキル【覚醒】……!」

「なっ……!」


 そのスキル名を叫んだ瞬間、ルージュの瞳に三角帽子のシンボルが浮かび上がった。

 俺がよく知っている、敵の野望を打ち砕く希望のスキル【覚醒】。ゲームオーバーにならなければ手に入らないそのスキルを彼女は発動した。つまり、そういう事なのか……


 アイやリュイ、【漆黑しっこく】のメンバーも状況を飲み込んでいなかった。なぜ、どのタイミングでルージュが【覚醒】持ちになったのか理解できない。

 それに、彼女は全く操られていない様子。俺と同じように、自身の意思でこのスキルを発動したのだ。

 笑うルージュに、冷や汗を流す他のプレイヤー。俺は一体、どうすればいいんだろうか……

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