00 飛龍狩りのエルド
灼熱の炎。煮え滾ったマグマ。
ここはとあるゲーム、とあるダンジョンの最深部。そこで、あるパーティーがモンスターの討伐ミッションを行っていた。
難易度は文句なしの最高クラス。このゲームでも五本の指に入る高難易度ダンジョンに加え、敵は超巨大な火竜。半端なプレイヤーでは到達できない世界がそこにあった。
灼熱の炎を身に纏い、火竜は容赦なくプレイヤーに襲い掛かる。盾役の戦士は必死に仲間を守るが、それも限界。ただ攻撃を受け、ヒーラーである僧侶が回復を行う。MPが尽きればそれで終わりという、完全にじり貧の状態に陥っていた。
魔道師の少女はすでにMPが尽き、このミッションを完全に諦めている様子だ。
「やっぱり無茶だったんだ……私たちだけで火竜を討伐するなんて……」
「ここで全滅すれば、一気にランキング圏内から降格。もう、上位に追いつくことは出来ないな……」
そんな彼女と共に、盗賊の男も絶望の表情を浮かべる。レベルが見合わなかったのか、彼の攻撃は火竜には効かない。この男もまた、何もできない状況に陥っていた。
このパーティーは一人のギルドマスターによって動く、小規模ギルド。決して弱くはない。むしろ、最近急成長している期待のギルドだった。
だが、そのおごりが過ぎたようだ。
「せっかく百位以内に入ったのに、俺たちの夢もここで終わりか……」
「マスター……」
屈強な戦士のギルドマスター。戦意を失ったメンバーを必死に守り、力の限り戦った。
後悔はないだろう。この巨大なVRMMOで百位以内に入るという名誉を手にしたのだから。
だが、男は思う。もう少し、もう少し高みに上り詰めたかった。上位の者にしか見れない世界、実力者たちの集う上位の世界、それをただ少しだけ見たかったと――
「おいおい、諦めるなよ。半分削ったんだろ? あと半分、精々気張ろうじゃないか」
突如、ギルドメンバーたちの前に現れる一人の男。
その見た目は剣士だが、盾は持っていない。防具は全て布で、剣は刀身の長いロングソード。白を基調としたその服装は、まるでどこかの勇者のようだった。
彼は飄々とした様子で、暴れる火竜を眺める。
「おー、超上級巨獣じゃねえか。これ、ここまで削ったのか? ひょえー、こりゃ将来有望だな」
いつ襲われてもおかしくないその状況でも、男は余裕の表情だった。自分の強さに絶対的な自信がある。そういった様子だ。
ギルドマスターは彼の顔に見覚えがあった。
忘れるはずがない。自分の目標であり、いずれ到達したいと思っていた高み。その頂点に君臨する男が、今目の前に存在していた。
「エルドだ……」
ギルドマスターは右手を強く握りしめ、叫ぶ。
「間違いない! 攻略、討伐、総合ランキング一位! 飛龍狩りのエルドだ!」
「なっ、TP中のTPじゃねえか! 何でここに!」
総合ランキング一位、それはこのゲームにおける評価指数合計値においてトップを意味する。即ち、このゲームにおける最強の存在がこの男、飛竜狩りのエルドだった。
どこのギルドにも属さず、己の実力のみでトップに上り詰めたソロプレイヤー。このゲームをプレイする者なら誰もが憧れるだろう。
エルドは照れ臭そうに頭をかき、ギルドメンバーたちの前に立つ。
「いや、持ち金尽きちまって、宝石でも掘って一発当てようと思ったんだけどな。まあ、いいや、よし! 報酬の二割は貰うぞ!」
彼が剣を抜き、戦いが再開される。
知能の高い火竜はこの突如現れた強者を警戒し、今まで攻撃を行わなかった。しかし、敵が剣を抜いたとなれば話しは別だ。竜は巨大な雄たけびをあげると、強靭な爪を使い、エルドに斬りかかった。
手始めの接近戦。だが、彼は真面に殴りあう気など、さらさらない様子だ。
「おっ、来たな。スキル【ジャンプ】!」
「た……高い……」
エルドが飛龍狩りと呼ばれる所以、それはこの異常に成長した【ジャンプ】のスキル。このスキルを駆使し、彼は天を飛ぶランクの高い巨獣を軽々と討伐していくのだ。
しかし、火竜も見す見す敵を逃すはずがない。空中で格好の的になったエルドに、竜は容赦なく灼熱の炎を吹き付ける。
攻撃は直撃……したかと思われた。しかし、ここでエルドは驚きの戦法に出る。
「やれやれ、俺は盾を持っていないんだ。勘弁してくれよ」
なんと、彼は敵の火炎をロングソードによって吹き飛ばしたのだ。これには盗賊と魔道師のプレイヤーも度肝を抜かす。頭の回転が速いのか、盗賊のプレイヤーはこのカラクリを理解した様子だ。
「【チャージ】のスキルで火炎を弾き飛ばしたんだ……」
「【チャージ】って、相手を吹き飛ばすスキルでしょ! そんなこと出来るの!」
「出来ているから仕方ないだろう!」
攻撃エフェクトにも当たり判定はある。理屈的には可能だった。
しかし、それを実際に行うとなれば話は違ってくる。襲い掛かる高速の火炎にスキルコマンドを打ち込むなど、とてもノーマルな人間が出来る事ではない。このエルドというプレイヤーの異常性が、充分に分かる戦法だ。
「スキル【ダブルスラッシュ】!」
驚くギルドメンバーをしり目に、火炎を突破したエルドは空中から連撃を繰り出す。二回ヒットの高威力な攻撃。これには堪らず、竜は大きなうめき声をあげる。威力は充分だった。
攻撃に成功したエルドは、軽快に地上へと着地する。彼は戦闘開始時からずっと空中で飛翔降下しながら戦っていた。流石は【ジャンプ】が得意な飛龍狩りだ。
「どうした火竜! 俺を燃やしてみろよ!」
エルドは刀身を竜に突き付け、そう叫ぶ。
自信に道溢れた頂点の貫禄。彼の戦いを見たギルドメンバーたちは、ただ言葉を失っていた。
七つの大陸を巡る壮大な世界観。二十三のジョブが織りなす戦略性のある戦闘。
女性でも楽しめる生産システムの充実。子供でも安心なデフォルメ化されたモンスターにエフェクト。
発売されて早一カ月、いま日本で最も注目されているゲーム。
それが最新のVRMMORPG【ディープガルド】だ。
戦闘職: 剣士、戦士、盗賊、格闘家、弓術士、銃士、海賊、侍、忍者、使役士
魔法職: 魔道師、僧侶、召喚術師、吟遊詩人、踊子、付術師、道化師
生産職: 商人、農家、錬金術師、鍛冶師、機械技師、裁縫師