初初
世界救っても馬鹿のままじゃ、ただの駄目人間ですよねってことです。
引きこもり系勇者ファンタジー
そこは閑静な住宅街。
春先の朝霧に包まれ、空気はほのかに肌寒く感じるほどだ。
ある三階建ての家の玄関前に二つの影があった。
一つは扉の取っ手にに手をかけていて、丁度家から出てきた少年だった。
黒髪に黒いジーンズに黒いライダージャケットを羽織った姿だ。
もう一つはその背に羽のようなものを付けた長い白髪の少女。
着ている服まで白く、その姿はまるで色が全て抜け落ちたようだった。
両者は互いの姿を認めると二秒ほど静止し、
「……ここは初めまして、と言うべきでしょうか。それとも久しぶりですねで始めるべきでしょうか」
少女の言葉が終ると同時、少年は勢いよくドアを閉めた。盛大な音がした。
それはドアが閉まる前に壁との間に入れられた少女の手とドアがぶつかった事により発した音で、ドアが閉まろうとするのを止めていた。
「ぐっ? くそっ! この悪魔め。離れろ!」
「悪魔とは失礼な。ボクはれっきとした天使ですよ」
「それでも俺にとっては立派な悪魔だ――。何しに来やがった」
「いえ、ただ少しいつも通りの事をしてもらいたくて……」
「やっぱりか! くそう、この留年を告げる悪魔め!」
「そんなこと一度も告げたことありませんよ」
「……お前がこの世界を救えだの、危機に陥っているから手伝えだのと言わなければ俺はもう高校三年だったんだ。
なのに、……もう十八なのに、……まだ高二ってどういう事だ――!」
少年は叫び、ドアを強く引っ張る。
「知りませんよ、そんなの。大体、世界と学校の単位どっちが大切だと思ってるんですか?」
それに応じるように天使の力も強まる。
「単位に決まってるだろうが! 中学はまだ義務教育だからよかったが、お前のせいで一年間丸まる高校に出れないこともあったんだぞ!?」
互いに引き合う少年と自称天使の力は拮抗しドアが震えを持ち始める。
「大体、何なんだ、今回は? ……っく、四年前に封印した地底世界の王が蘇りでもしたか?」
「いえ、んっ……違います」
互いに全力で引っ張りあっているため所々で息が切れる。
「じゃっ……ぬあっ! 平行宇宙を支配して……いた組織の残党でも出たのか? 二年前に完全に壊滅させたと思ったんだっ……が」
「それでも……あ……りません」
「ああ、それじゃあ……あれか? ……く、この……一年前に和解させた異世界の竜と人との種族間戦争が再発したんだな」
「全く……見当違い……です」
「っ……まだるっこしいな。じゃあ何なん……だ! その問題っつーのは?!くだらなかったら帰ってくれ。いや下らなくなくともいっその事帰れ!」
少々イライラしながら少年――白水神矢は叫んだ。
天使は人差し指を白水に向けて、
「あなたですよ」
は? と間の抜けた声を白水は発した。
その拍子に気も緩み力の拮抗が崩れドアが外側に開き白水はそのまま外へ吹っ飛ばされた。
対して自称天使は勢い余ってドアの取っ手をぶち壊しつつそのまま後ろ向きに倒れ後頭部を強打した。
その状況を無視して白水は天使に訊く。
「どういう事だ?」
「痛いですねー、もう。……結論から言うとあなたの存在がこの世界を危機に陥れているのですよ。現世最強の勇者、シンヤ様」