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三杯目

ストックはしばらくあります

「で、釈明はあるか?」

「ないね」

「はぁ、言い訳をしないのは好感に値するけど、この場合に置いては逆効果だね。というか死ね」

「胸で圧殺されたなら本望」

「圧殺するほどの胸がない」

「大丈夫だ、俺が揉んでやる」

「帰れ」


 十分もしないうちに孝はけろっと復活した。なに食わぬ顔でどうして座椅子に座れるのだろうか、こいつの頭を覗いてみたい。


「まぁ、冗談はここまでにしよう」

「オレの胸を揉んだのを冗談だと申すか」

「安心しろ、あれは本気だ」

「全く安心できない!?」


 もうやだこの子。


「で、この後どうすんだ?」

「この後と申すと?」

「残念ながら記憶が女ヴァージョンのお前に切り替わると か言うご都合主義が起きてないってことは、戸籍なし住所なし名前なし職業なしなお前だが」


 孝なりに真面目に考えていたのか。というか、オレの知ってる孝はこっちが素のはず。さっきまでの孝はきっと幻想。イマジンブレイカー呼んでこい。

 しかし、どうしようか。よし。


「仕方がないね。服を買おう」

「仕方なくないよね!?」

「孝はぶかぶかの服を永遠に着ろと申すか。マニアックだな」

「大好物です!」

「……オレはお前のそんな変態性を知りたくなかった」

「はっ!? くっ、孔明の罠だ!」

「というかそろそろお前の視線が鬱陶しい。着替えてくる」


 孝が起きあがってからこっち、ずっとオレのパジャマを凝視しているからやりにくくて仕方がない。返し縫い萌えは本当かも知れない。


「そんなご無体な!」

「いいから動くな、ぜったいだ。もしも覗いたらぶっ殺す」

「女の子の声で言われると、かわいいと思えてしまうのは不思議だな」

「オレの中でお前の株が絶賛下降中な件」


 オレのできる精一杯の冷たい視線を浴びせると、座椅子の真横にあるタンスから適当なパーカーとジーンズを取り出した。一応シャツとパンツも。

 やおら立ち上がって洗面所まで歩くと、


「ぜったいに覗くなよ」


 と、言って勢いよく扉を閉めた。

 

 ふう、どうして孝があんなに暴走しているかは、どう考えてもオレの容姿のせいだが……理性はどこに置いてきたし。

 さて改めて鏡とにらめっこしてみると、本当にわけがわからないほどの銀髪美少女が写っている。目が死んでるのが唯一の共通点とか切なすぎて死ねるな。

 なんにせよ。さっさとパジャマを脱いで着替えないと。

 ……その前に。

 オレはスライド式の洗面所の扉を再び思い切り開けた。


 ふもーふもーと鼻息荒い孝とご対面。 


「……弁明は?」

「二度も念押しされたら振りだと思うよね」

「そんな貴方にキスのご褒美」

「マジで!?」

「マジでマジで」

「っしゃおらー!」

「とりま目を瞑って」

「もちろん!」


 さて。見上げなければならないのが癪だが。キスを体験させてあげよう。


「えいやっ」

「ぐふぉぁあああああおあおおぼええええぇぇぇえ……」


 棒状の物を孝を口の中に突っ込んだ。目を白黒させながらえずいている。タップタップとオレの手を必死に叩く。

 にこっとそれに笑い返してあげた。ほっと孝が安堵したように見えた。


「喉仏のその向こうまでどこまでも、せいっ」

「────おごぁぁぁあああああああ………おえぇ…!」

「吐くならトイレ。それ以外ならワンモアナウ」


 そのまま顔を青くさせて吐こうとする孝に釘をさす。

 うん、すごい勢いでトイレに走っていったな。どたばたとうるさい。……突っ込んだこれはゴミ箱だな。


「じゃ、オレはその間に着替えてるからよろ」


 遠くでオロロロロ聞こえてくる限りはきっと安心だと、オレはパジャマのボタンに手を添えた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「殺す気か!?」

「覗き魔に人権は存在しないず」

「キスはどうした!」

「オレの歯磨きを突っ込んだから間接キス」

「本当か!?」

「ただし男性時に愛用してた奴な」

「オロロロロロロロ」

「吐くならトイレだワンモアナウ?」

「ノーモアナウ!」


 孝と掛け合い漫才(?)をしているオレは前述の通りパーカーとジーンズを着ている。ジーンズは裾が長いから折り曲げて、パーカーはダボダボだけど。ばっとフードを被ればやたら目立つ銀糸が隠れるから万事オーケー。

 再び机を挟んで座椅子に腰掛けている。


「元が男なんだから恥ずかしがる要素ないじゃん」

「つまりヒート・エンドが喰らいたいと」

「ごめんなさい」


 きゅっと股間をちぢ込ませて孝が謝った。


「恥ずかしいとか恥ずかしくないとかじゃなくて、この手のTSものは下手するとその警戒心の薄さから男に襲われることが多いのさ。果ては男性不信かぶっ壊れるか、はたまた男に助けれての依存しかないあたり詰んでる。だからオレは男の考える限りで女らしい警戒をすることに決めたのだよ」

「いつ?」

「お前に胸を揉まれたとき」

「や・ら・か・し・た!」

「親友萌えルートは消失しますた」

「俺のバカ!」


 過去の失敗に悶えて泣くがいい! 

 ん? あれそういえばオレはどうして着替えたんだっけ。確か。そう。


「孝。親友萌えルートを復活させたければ買い物に付き合え」

「お、おう! ……奢るのは経済的にピンチなんだけど」

「安心してくれていい。付いてきて欲しいだけ」

「どこに?」

「ランジェリーショップ。さっきから擦れて変な声出そう」

「警戒心は!?」


 っさいなぁ。そのためにパーカーに着替えたんだから。

 それに孝にだってうま味はあるんだぞ。


「やったな孝。いろんな縫い目が見れるぞ」

「いやそれ嘘だからね」

「さて出かけようか」


 今日は長い一日になりそうだ。


「無かったことにしやがった」


 失礼な。

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