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二十五杯目

時間がすこし進みます

といっても数時間単位だけど


この話を読む前に、まずは深呼吸だ。

さぁ、菩薩のごとき寛大な心で、

 そして、本当にイジメは昨日に比べて大分楽になっていた。

 オレが脅したって言うのもあるだろうけど、セコいイジメはクラスメイトが見張ってくれているし、言いがかりを付けてこようとした先輩方はどこからともなく現れたクラスメイトに追い払われている。先生こっちですとか。カレーが飛来したりとか。

 もちろん後でオレが美味しく頂いてます……嘘だよ?

 お昼ご飯は今日はカレーじゃなくて、孝に買ってきてもらって総菜パンを食べた。朝はリリムとの攻防で用意をする時間がなかったのだ。カレーパン希望と言ったのに、孝はたまには別のを食べろとか言うし……

 ……そのせいで、なんか妙にお腹減ってるんだけど。孝め。


「この分だと、最初危惧していたよりも遙かに早く終わりそうだな」


 日も沈んでまもなく、オレの家に二人でいた。リリムはちょっと用事があると書き置きを残して、どこかに行ってしまっていた。そう遅くはならないとも、書いてあったので孝とリリムの帰りを待っているのだ。

 話したいこともあるし、家族なら一緒にご飯食べたいし。だから今は、オレは座椅子に座っていて孝はベッドの縁に座ってぼぉっとしている。


「孝は一昨日時点では気づかなかったけどね」


 今日はなんだか知らないけど、孝にやられてばかりだったからちょっとイタズラ心がむくむくと。お腹がくーくーと。

 孝はベッドの縁でギクと肩を震わした。冷や汗がたらりと。


「……すぐに気づいたからノーカンで」

「四日前までの孝くんは見て見ぬ振りだったそうだよ?」

「ちょ、それはヒドくねぇか!?」


 むふふー、オレばかり別の自分のフォローをしなければならないのは不公平だと思います。

 よって、この責め方は公平な手段だと思うのだよ。

 口に出すつもりはもーとーないけど。

 ――だってたかしを。


「ふっふんー、だからたかしはオレをうんと守る義務があるのです」


 言いながら、立ち上がってベッドの縁にオレも座った。ぴとと孝に身を寄せて。

 不本意ながら孝に触れていると安心する。誤魔化しようのない事実だから利用してしまおうって。

 依存~依存~、思うけどこればっかしは仕方がない。

 それに依存も悪くないよ。たかしになら。幸せな気分になるし。まるで麻薬のような。


「へ?」


 マヌケな面でオレを見ちゃってまぁ。顔真っ赤だぞ、ならもっとくっついてやろう。

 夏場だから半袖、互いの腕が素肌でくっつくくらい近く。たかしを感じるほど近く。


「拒否権はないからな。したら、リリムに頼んでたかしも女にしてもらう」

「全力で守ろう」

「さすがたかし」


 やっぱり孝は良い奴だ。今日だって、なんだかんだ言いつつも一番近くにいてくれたのは孝だし。オレのことを覚えてるし。嫌わないし。気持ち悪がらないし。大事にしてくれるし。すごく良い匂いだし。美味しそうだし。ほんとうに。 


「たーかしー?」

「ち、近い! あとたぶんなんか漏れてる! 甘い匂いし始めたから!」

「んふふー」


 すりすりと孝の腕を抱きしめて顔を擦り付けると、孝の顔が強ばった。なにかに堪え忍ぶように、固まってしまった。どうしたんだろ?


「せ、千里……? お前、おかしいぞ……」


 おかしい? オレが? どうして? ただ、たかしに好かれたいからくっついてるだけなのに、どうしておかしいなんて言われないといけない? たかしのくせにオレを否定するの? なんで? たかしなのに。


「べつにおかしくないよ? それよりキスしようよ。オレを守ってくれるんでしょ? だから誓いのキス」


 たかしの腕から離れるのは惜しいけど、座ったままたかしの肩を押してベッドに押さえつけた。いつかのように、たかしに馬乗りになる。きっとたかしはいま混乱してるんだと思う。オレがしてあげたら、正気にもどるよね、きっと。

 にがさない。ぜったい。たかしはオレのだから。

 たかしと目を合わせたまま顔の高度を下げていく。



「──やめろ!」

  


 ぐいっとたかしの手でオレの頭を戻された。なんども進もうとしても、たかしの手が邪魔をする。たかしが。おれを拒んだ。いやがった。

 たかしがオレをどかそうとまでする。いやだ。ぜったいにどかない。どうせみりょー中のたかしにはそんなに力がない。

 だけど、拒絶されたということがオレを蝕む。孤独にさせる。


「どう、して?」


 どうにか言葉にできたのはそれだけだった。頭が真っ白になりそうだ。たかしに拒まれるなんて、夢にも思っていなかった。

 たかしは悲痛なものでも見るような目でオレを見ていた。


「さっきまで普通だったのに、突然どうしたんだよ!」

「ふつう? おれはいまでもふつうだよ? ふつうにたかしを愛してるし、たかしが好きだし、身体が疼くし、お腹がくーくーなるよ?」


 ん、なんだか支離滅裂なこと言ってる気がする。仕方がないね。たかしが悪い。たかしがへんなこと言うから悪い。


「ね、たかし。すえぜんだよ?」


 たかしもおれがスカートめくれば見てくれるよね。ピンクのフェロモンが部屋中を覆った。目の前のたかししか見えないけど、いいよね。おれにはたかししか必要ないし。


 徐々に、徐々に、馬乗りのままスカートを上げていく。両手でジラすようにすると、たかしも口ではああいいながら、じっと見つめてくる。


 息づかいも荒いし、獣みたい。おそわれたらきっと蹂躙されるのだろう。でも、たかしならいいや。たかしだからいいや。これをあげきったら、おちるよね。


「ほら……? もうちょっと、だよ……?」


 あとちょっと、5センチ……4センチ……3センチ……2センチ……もう少し、もう少しでたかしはおれのものになる。おれはたかしのものになる。身体の奥がじゅんてたかなる。たかしがすきだよ。すきなの。めちゃくちゃにしてほしいの。


 あと1センチ……もう、止められない。とめるきもない。

 たかし、たかし、たかしぃ……これでずっといっしょだから──


「──ぅらぁ!!」

「ひゃっ!」

 

 あともうちょっとだったのに、たかしが突然身体をおこすからびっくりして落ちちゃったよ。ちぇー。これでまたさいしょからじゃん。

 ベッドの上に衣服を乱したまま仰向けになって、たかしを抗議の目で見つめた。


「……ぶねぇ……呑まれるところだった。ってか、半分呑まれてたか……なんにせよ。千里が正気じゃないことだけは確か……リリムェ……」

「……なにいってるのさ。おれはいたって正気だし、お腹がくーくーなるから食事なの」


 たかしがベッドの上の鞄からなにかを取り出している。わからないけど、そんなのよりおれを見てほしい。フェロモンまんせー。こっちむいてよたかし。どうせベッドの上から降りられないんだから。


「古今東西、お前がおかしくなったらこれと決まってるからな」

「なにいってるの……? そんなのよりおれを見てよ。たかしはおれを見なきゃいけないの」


 たかしはおれを見ていない。たかしがおれを見ていない。へんな平面が少し立体になったような、四角い箱をみれに見せつけた。

 どうでもいい。


「これを見ろ!」

「やだ。たかしだけを見てる。たかしはおれだけを見てればいいの」

「そうだろう、そうだろう! これはカレーってちょっと待て!? お前がカレーを見て反応を示さないだと!?」

「カレーなんかより、たかしが好きなの。興味ないの」

「ま、待て! カレーだぞ!? お前が命の次に、いや命より大事だといってはばからないカレーだぞ!?」

「ん? いのちより大事なものなんて、たかししかいないよ? たかしのためならなんでもしてあげる」


 そう言って、制服のボタンを一つずつ外し始める。下から順番に、おへそが見えるくらい。

 たかしの喉がごくりとなった。


「や、やめろ! いまのお前は千里じゃない! そんな姿見たくない!」


 たかしが自分に言い訳するように後ろに下がろうとして

何か見えない壁のようなものに阻まれた。ピンクのもやでできた即席の壁だけど、たかしは知らないもんね。驚いてる。かわいいね。

 あと、ぜったいにおれから目を離さないところとか。


「うそ。おれのことずっと見てるくせに。もう目がはなせなくなってるくせに」


 くすくすと挑発するように笑う。ボタンを外す手は止まらない。ゆっくり開けてるから、ようやく胸元が見えるところまで。

 

「ほら……? こんどこそ、みて……?」


 そして、ついに、制服の前がはだけた。自分で言うのもなんだけど、白磁のような肌が露わになる。胸の膨らみはストライプのブラに隠されちゃってるけど、すぐにぬぐからもーまんたい。

 たかしにしか見せない。たかしだから見てほしい。アルプの素肌。おとこならむしゃぶりつきたくなるような淫魔の肢体。たかしの視線がおれの身体をじっと舐めるように見ていく。息が荒いのが伝わってくる。それだけで、またおなかのおくがじゅんて熱くなる。

 きっといまのおれも頬が上気しているだろう。はぁと吐息が漏れる。もどかしい。いくら視線で欲望をぶつけられても、からだの疼きは収まらない。乾きはいえない。


「せ、せん……り……あ、くそっ……」


 すごい。おれの淫気に当てられてるはずなのに、たかしはまだ辛うじて正気を保ってる。さすがたかしだよ。

 だからね、おれが理性にとどめをさしてあげる。そんなに苦しそうなのに、我慢しなくていいんだよって。

 どんなたかしでもおれは受け入れられるから。


「たかし……いいよ……きて……?」


 だから、両手をたかしに捧げるようにして、瞳を潤ませて言った。メチャクチャにしてほしいと。よくぼうをぶつけてほしいと。


「──千里!」

「きゃん!」


 効果は劇的だった。たかしはおれの肩を押さえつけて押し倒し、おれののどからうれしげな悲鳴があがる。くしくもさいしょとは反対のたいせいだ。

 たかしの荒いこきゅうが顔にあたる。むずむずと期待にもにた高揚感をおびていく。

 あつい。あつい。あつい。やっとたかしとひとつになれる。たかしがおれを奪ってくれる。

 きっと、おれは戻ってこれないだろうなと頭の隅でなにかがささやいた。そんなことはどうでもいい。たかしとつながったら、きっとたかしもおれのことしかみれなくなるから。たかしがおれを大事にしてくれるなら、おれはなんだってするよ? ほら、はやく。

 たかしのかおが間近だった。もうすぐで唇が重なる。きっとお互いファーストキスで誓いのキス。おれがたかしの所有物になるっていう、エンゲージが終わる。

 おれは唇をすこしだけ開けて、それを待った。おれのうではもう、たかしの背中に回っている。それほどの至近距離。なのに、たかしがいっこうに近づいてこない。あと数センチなのに。息が交差するほどのきょりなのに。なにかをこらえるようにたかしは脂汗をたらしていた。


「……このごにおよんで、まだてーこーするの?」

「あ、あいにくと、ヘタレなもんでね……」


 ジト目で見つめると、知らなかったか、とたかしがかっこつけて笑った。なにそれむかつく。

 ……もういい。おれからする。たかしをおれのものにする。そのたかしにおれをうばってもらう。いいの。たがいにたがいのものになればきっと一番しあわせだから。

 さいしょからこうすればよかった。じゆーいしなんていらないよね。もしも浮気なんてしたら、たぶん殺しちゃうから。たかしじゃないよ? 浮気相手をだよ。

 くすくすくすくす、と笑う。たかしがおれの上からどこうとしたけど、後頭部をむりやりおさえつけた。そのままキ……ス……

 

「帰ったぞーーーー! む、この靴はあ奴もいるな! 我が娘よ、襲われてはいないかえ!?」


 ……うっさいなぁ。おれはたかしと結ばれるんだから。


「なんじゃこのフェロモンは!? 千里!?」


 しずかにしててよ。お母さんなら娘のしあわせを邪魔しないで。


「せん……」


 むぅぅぅぅぅぅぅ!! なんでたかしはうれしそうなのさ! なんでたかしがりりむが帰ってきたことをよろこんでるの!? たかしはおれのものなのに! たかしはおれだけを見てればいいのに! 

 はやく、はやくたかしを虜にしなくちゃ。キス──


「……なにをやってるんじゃお主らはぁぁーーーー!!」

「ぁ……え……?」


 りりむがおれの作った即席のかべをこわして中に入ってきた。そこまではいい。よくないけど、いい。でも、りりむがたかしを奪った。りりむがたかしを掴むとべっどのそとにでてしまった。うばった。うばわれた。なんで。どうして。

 りりむはおれのお母さんじゃなかったの?

 のそ、とベッドの上で立ち上がった。


「す、すまん……正直助かった。あともう少し来るのが遅かったらヤバかったかもしれん」

「そんなこと今はどうでもいいのじゃ! どうして千里が暴走しておるのか……いや愚問じゃったな。精気が枯渇しておる……!」

「おかあさん……? たかし返して?」

「断る! いまのお主に渡したらこ奴が干からびて死んでしまおう。妾としてはどうでもいいんじゃが、お主が正気に戻った後に自殺しかねないじゃろ?」

「え。干からびてって搾り取られるってことか? それはそれで本望のような……」

「馬鹿者が! 妾が代わりに搾り取ってやろうか!?」

「あ、それはいいです。俺ロリコンじゃないんで」

「……なんか、唐突にお主を引き渡したくなったぞ」


 たかしとりりむが長年連れ添ったコンビのように夫婦漫才をしてる。たかしのとなりはおれの場所なのに。ゆるさない。ゆるせない。おれの居場所をうばったりりむを許せるはずがない。

 ベッドの上からフェロモンを固めて、りりむに射出した。なんでかしらないけど、それができると思った。


「お、おい。なんかピンクの固まりが飛んできてるぞ」


 りりむがたかしに言われてこちらを向いた。だけどおそい。もう目の前まで迫ってる。


「む……なんと……物質化までできるとは流石我が娘じゃな。……じゃが、甘い」


 目前で、おれのそれは弾け飛んだ。


「な!?」


 そして、おれの身体を見えない何かが拘束した。ぶざまにベッドの上で転がる。りりむが心なし、こちらをバカにしているように見えた。たかしは渡さないと、言ってる気がした。

 くやしい。くやしい。くやしい!

 たかしはりりむに守られて、可哀想なものを見る目で見ていた。いやだ。そんな目で見ないでほしい。おれは。たかしが好きなだけなのに。


「……なにを勘違いしておるかわからんが、お主から孝を奪う気など毛頭ありはせぬよ。ただ、拘束させて貰っただけじゃ」

「うそだ。たかしなんて良い男をりりむが放っておくはずがない」

「それはお主基準じゃろ。妾にとってこ奴なぞ、路傍の石も同然じゃ」

「おい、何気にヒドいこと言ってないか」

「事実じゃ。それともなにか? ロリコンではないと言っておきながら、その実妾に好かれたいと思ってるのかえ? ん?」


 りりむがイタズラっぽく人差し指を口に当てて、たかしに目を遣った。それを見てたかしは赤い顔をして唸ると、舌打ちをしてどかりと座椅子に腰を落ち着ける。

 はらだたしいやり取りだ。しかたがないね。そんなおれいがいの女と喋る悪い舌べらは引っこ抜いてしまおうか。手足もいらないよね。おれが一生世話してあげるから。 

 だから、だから──


「たかし、たかし、はやくこれ解いて? はやむごっ!」


 なにかが口元をおおった? ちがう、くちはパクパクと動くのに言葉が発せない。目を白黒させていると、呆れた目でりりむがおれを見ていた。たかしは怪訝な表情だ。


「これ以上は時間の無駄なのでな、少し口を塞がせてもらったのよ。なに、安心せい。すぐに終わる」


 しかいが明滅する……すでにベッドの上で倒れてるはずなのにぐるんぐるんと部屋が回る、回る。きもちがわるい。

 いしきが暗転する前に、最後に見えたのは、たかしは焦ったようにおれに駆け寄るところだった。そのかおはひっしな形相に違いなく、この結果がかれにとって予想外なものであると証明するにたる行動だった。


 ……すこし罰を軽くしてあげようか……


 考えることはこの後に及んでたかしのことだけという自分が少しおかしくて、口元がゆるんだ。


 そして、おれの瞼はそっと閉じられた。


千里が気が付いたら暴走していた

私は悪くない

私は悪くないのだ


たとえ訳のわからない設定っぽいのが追加されていてもそれは世界の医師であり、世界の一部である私も被害者にすぎないのである


……批判怖い、批判怖い


……あ、それと、作者の変な過去の作品で再開して欲しいのとかあったりしてしまいます?


あと、今回の話はあとで全面改稿するかもしれません。

作者もあんまりなできなんです……


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