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十七杯目


「三谷町よ、私は帰ってきたぁぁああ!!」

「落ち着け千里」

「叫びだしたい原因はほとんどお前な件!! 起きたときに頭抱えてるとかバカだろ!? 死ねよ!」

「最初、肩に頭を預けたのはお前だぞ」

「そ、それはお前が頭を撫でるからであって……」

「良い匂いだな」

「変態!」


 一見のどかな町に響きわたる男女の痴話喧嘩、もといオレたちの声。

 なんと孝はオレが寝ている最中、ずっとオレの頭を抱えていたのだ。自分の肩に押しつけるように。起きた瞬間、上を見上げると孝のドアップとかわろえない。


 整備された道路の歩道を二人で並びながら歩いた。蝉の声が喧しく響いている。


「で、ついてくるんだよね」

「ああ」

「カレーをもって出直してこい」

「ほれ」

「ジャ○カレー……だと……!?」

「お前は困るとすぐにそれを言うからな」

「孝がオレの行動を研究しすぎてキモい」

「お前の体を洗う順番もわかるぜ」

「それただの変態ですよね!?」

「失礼な、愛情だ」

「ストーカーはみんなそう言います!」

「……千里ならストーカーしなくてもカレーで釣れる気がする」

「否定できない自分が怖い」

「やめろよ……?」

「気をつけます」


 っと、そうこう話してる内にもう商店街か。ここを真っ直ぐ行って、右に曲がれば……すごくパチモンくさいインドカリー屋が。こうインド象みたいな神様を模したのかよく分からないシンボルがお店の看板になっていて。怪しい。

 っと、入り口に紙が。


「……長い間ご愛顧ありがとうございましたとか」

「……潰れてやがる」

「これはヒドい」


 ……いや、たしかにオレが昔来たときには潰れる寸前だったけども。ここが潰れてたらオレはどこで働けばいいのさ。


「味見するだけの最高の職場だったのに」

「おいその話聞いたことがないぞ」

「しまった」

「詳しく聞かせてもらおうか」

「いまさら聞いても意味がぬ」


 タダでカレーを食べれてかつお金をもらえる職場はここをおいて他にあるまい。

 孝は文句を言いたがっているが、ちゃんと働いていたというのに。


「大体、辛ければいいと勘違いしたカレー屋を立て直したのはオレ」

「ぬぐっ……たしかに。血液の代わりにカレーが流れてるお前ならば」

「おい」

「冗談だ」

「流れてるのは甘口か中辛か辛口かキーマか原産地はどこだ」

「そこかよ!?」

「それが問題だ」


 むぅ、そんなこいつならありえる、なんて顔で見んなし。オレだって冗談だってのに。

 しかし、潰れてるのなら悲しいけどこれ以上ここにいる意味はないな。孝に帰ろう、と促した。すると孝はあらぬ方向を見つめたまま固まっていた。

 どこを見ているんだ? ここは商店街の中だけど外れにあるから特になにもないはずだけど。人もいないし。遠巻きに見ている方々はいるけどね。目立つのも考え物。


「孝?」

「……ちょっとこい」

「のふぅ」


 孝はオレを引き寄せるとき、もう少し合図をするべきだと思う。いつもいつも突然だから体制は崩れるわ、孝に抱きついてしまうわでメリットなしなのだ。

 

「おわっ! だ、抱きつけと言ってない!」


 カチン。

 ……ほほーう。

 

「抱き寄せたのはあなたです」

「うぐっ」

「この人が無理矢理」

「人聞きが悪いわ」

「嘘は言ってない」

「ほんと性質が悪い」

「ふへへ」

「褒めてないってかそろそろ離れろ」

「冷静なフリをしつつ顔真っ赤ワロス」

「……」


 あれ、反応が返ってこない。これはやりすぎたか? 仕方がないね。離れるか。

 

「離、にょあぁあ!?」

「……ああもう、我慢してるのが馬鹿らしくなってきた……」


 だ、抱き、抱き、正面から抱き寄せられた!?


「か、顔、近っ!?」

「……ホント女の匂いになってるよな」

「髪の毛に顔をうじゅめるにゃぁあああ!」

「俺、髪フェチなんだ」

「また、フェロモンですね!? わかりません!?」


 と、止まれ! なくなれ! 孝が壊れた!? 


「ところがどっこい……!! フェロモンじゃありません……!!」

「帰れ! ってか正気に戻れ!?」

「すーはーすーはー」

「嗅ぐなぁぁあああ!」

「だが断る!!」


 孝が帰ってこない!? くそう、かくなるうえはっ!


「せいっ!」


 狙うは弱点! 膝蹴り食らえや!


「甘いっ!」

「なんだって!?」


 ぱしっ。

 止められただとぅ!? 


「お前はそこしか狙わないからな。予測し止めるのは簡単なことだ」

「せいっ!」

「ぐふぉあああ!?」


 ドヤ顔がムカついたので片足で飛んで頭突きをかました。ふう、ようやく束縛から解放されたぜ。

 クリーンヒットの感触がしたのら。


「頭突きで倒れるなら本望だ……」

「いい加減正気に返ること推奨だがしかし」


 あ、立ち直った。


「全部俺の意志だ!」

「嘘だっ!!!!」

「ずっとその銀の髪をくんかくんかもふもふしたかったんだ!」

「嘘じゃない!?」

「というか、俺は抱きたい!」

「ハグでお願いします!」

「性的な意味で!」

「せいっ!」

「目がぁ! 目がぁああ!?」


 私のカレーの封切りにかける時間はコンマです。

 カレーが目に入ると痛いよね! たぶんね。ジャ○カレーだよ。孝にもらった。


「……さて、遊びはここまでにしよう」

「その雰囲気だとオレがヤバい件」


 ってか、復活が早すぎる。これが噂の変態補正か。


「あれを見てくれ。こいつをどう思う……?」


潰れたインドカリー屋の隣にある細く長い道。それはどこからどう見ても……


「すごく……路地裏です……」

 

 うん、店と店の間にあるデッドスペースに相違ない。ほとんど光が入ってないのか、どこまで奥行きがあるのかわからない。

 

「それがどうかした?」

「こんな道あったか?」


 は? あったもなにも今ここにあるんだから、あったに決まって……


「待て、その理屈はおかしい。外れとはいえ、この商店街にこんな道はなかった。っていうか、オレが一昨日入った道に似すぎ……」

「ああ。って待て千里!」

 

 見つけた! 見つけた! 見つけた! 一も二もなく走り出した。制止の声なんて聞こえない。聞こえてるけど聞こえない。知ったことではない。元凶。祠。後ろから走って追いかけてくる音が聞こえた。


「千里!」


 狭い。そうだ。ここは路地裏のように存在して、当たり前のように両隣お店の側面が見えるが何もない。

 空調の室外機も、裏口も、窓も、なにも! ただ、暗い道が当たり前に続いてるだけで、そして──


「……あった」

「ま、待てって千里。話を……これは」


 ──鳥居だけがそこに存在している。あの時はよく分からなかったけど、暗い道にぽっかりとうかび上がっていた。いつ頃できたのか、やけに古びた石質の鳥居だった。


「……孝はここで待ってて」


 これ以上、孝を進ませてはいけない。明らかにコレは異常だ。そこにないものが突然現れて、人の性質を変えることができるなんて。

 ここにナニかがいるならそれはきっと醜悪な神に違いない。

 だが歩きだそうとしたオレの手は孝に捕まれた。


「ふざけるな」

「ふざけてない。至ってマジメだ。これ以上ないほどね」


 オレの眼光に気圧されたのか、孝は一瞬だけ怯んだ。しかし、すぐに目に力を込めて睨み返してきた。


「見つけたのは俺だ。なら俺にも行く権利がある」

「危険だ。一度関わってしまったオレならともかく孝はダメだ」


 引き下がれよ。


「危険なところに女を一人で行かせられるかよ」

「オレは男だ」

「今は女だ」

「それを言うか……」


 孝の手により力がこもった。


「俺たち二人が協力して、解決できないことがあったか?」


 その笑顔はあまりに暖かで。根拠のない自信と安心が胸に灯った。

 ……それはズルい。そんなことを言われた日には、断れるわけないじゃないか。

 ズルい。


「中二病乙」

「お前そこは肯定するところだろうが!」

「オレは卒業したんで」

「銀髪って中二病っぽいよな」

「なにそれ怖い」


 地毛とかしてる銀髪が中二病ならオレはどうしたらいいんだ。剃ればいいのか。いやそれはダメな気が。

 孝の手が緩む。はぁ、仕方がないね。


「後悔しても知らない」

「その台詞も中二病みたいだぞ」

「うっさい馬鹿」

「美少女に馬鹿って言われると興奮するよな」

「変態は死ね」

「興奮するよな!」

「変態だ!?」

「ご褒美です」

「うっさいもう黙れよ孝ぃ!」


 気がつけばオレの緊張は解れていた。たぶん、孝は気負うなと言いたかったんだろう。不器用な馬鹿は、おどけたまま締まりのない笑みを浮かべていた。


「……ありがと」

「あん?」

「うっさい行くぞ!」

「ちょ、待てい!」


 なんとなく今の表情は見られたくない。きっと変な顔をしていると思うから。

 オレが歩き出すと、孝も追いかけるように横についてきた。目の前には忌々しい鳥居がある。人の過去を弄くって遊んだ神になんて尊敬はいらないだろう。

 堂々と神様の通り道を歩いてやった。

 ……オレかっくいい。


バイト回のつもりだったのに気が付いたら潰れていた件


こう、千里が女の子になったことで微妙に違ってるんだよ的なことを見せたかったんじゃないかと。……ハイ、ゴメンナサイ。


これから少しトンデモ展開に……私についてこれる痛い痛いカレー投げないで

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