表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様はずっと見ている  作者: 浅川
本編「神様はずっと見ている」
6/9

 午前六時。いつもだったらまだ起床はしていないが、俺は岩田に起こされることになる。まさかの部屋に入って来てまで起こされるとは思わなかったが、若い女性に起こされるのもまた……。



 「荒木先輩、なんか大変かもしれません!」



 とそうするからには相応の訳があるからに決まっていると早くもよこしまな思考は隅にいく。



「午前二時くらいに瀬谷さんからこんなメッセージが来ていました」



 岩田はスマホ画面を突きつける。



『今すぐ来て来て来て来て来て来て』



 というメッセージだった。これはかなり情緒不安定そうだが。



「一人は寂しいから来てってことじゃないよな。早急に助けを求めているってことか?」


「そうだと思います。でも、もう四時間も経過しているしこの後のメッセージはない。まさか……」



 これは一刻を争う事態か。朝ごはんは諦めて俺達は車で奏ちゃんの家に急行することにした。



 昨日からなんでこんな事件ばかり発生するんだよ。



 奏ちゃん、何があったかは知らないが無事でいてくれ。



 ……ちくしょう。こんな流れでも憧れの奏ちゃんの自宅へ本当に行けるんだと思うと密かに喜んでしまっていた。



 それにあのメッセージ画面の小さなアイコン……あれは世間には出回っていない奏ちゃんの写真だったような。



「とりあえず昨日、私達が出会った火事の現場まで行ってください。そこから道案内します」


「そこまで戻らないと行けないのか? このカーナビから奏……じゃなくて瀬谷さんの自宅を指定してくれたら最短ルートが導き出されるぞ」


「そうなんですね。えっと……さっきなんで名前、言い直したのですか?」


「それはいいから。今は現在地であるこのマンションが画面に映っているから、そこから瀬谷さんの家をタッチして案内スタートボタンを押せばいい」


「ちょっと待ってください。個人の家だとさすがに細かすぎて見つけるの難しいです。ここが瀬谷さんの家だって書かれているわけじゃないし」


「だったら、何か公共の建物が近くにあればそこを先ずは目指せばいい」


「公共の建物……は無さそうだったけど、あっそこそこでかい公園があったな」


「それでもいい」



 岩田は機械に慣れていないのか冷静さを失っているからか、その両方な気がするが動作があまりに仕事ができない人間のそれだ。



 車に乗ってから五分が経っているが、一生懸命になっている岩田に早くしろと急かせる気にはなれなかった。



 これは火災現場まで行った方が手っ取り早いのかもしれない。



「ありました! これです。この公園まで行けばあとは私が道案内できます」


「ここか。ここってもしや……ここなら歩いて行った方が早いまであるぞ。車は通れない学校裏にある森を抜けた先にある」


「そうなんですか! なら歩いて行きますか?」


「いや、車で行こう。多少、遠回りになるけど早朝であれば交通量も少ないだろうからそんな変わらないかもしれない」



 まさかこんなにもそばに奏ちゃんが生活してたなんて。



 俺は目的地が決まると鋭い目つきで車を走らせた。



「先輩、速度オーバーしてません? カーナビも事故多発エリアですって注意してますよ」



 急カーブが続く坂道を俺はほぼブレーキを踏むことなくぐんぐんと下っていく。



 その運転に岩田はあたふたしている。



「それよりも瀬谷さんのことが優先だろう」



 対向車線に車は一台も通ってないのもこの運転を可能にしていたが、坂を下り切ったところで赤信号か。



 これには逆らえない。



「運転上手いですね。あんなくねくねした坂道を一瞬で……」


「ここからは一気に上るぞ」



 信号が青になると左折する。そこからはまた上り坂だ。俺はその直線を時速百キロで上った。



「先輩これは明らかな速度違反ですって!」



 坂を上りもう一度左折すると住宅街に入る。



 スクールゾーンみたいだし近所迷惑も考えてここからは通常運転に切り替えた。



「あっこの道……先輩もうすぐで着きます。この道を真っ直ぐ進めばそのうち着きます」



 法定速度以内で走らせても奏ちゃんの家まで車で約十分で着きそうだ。職場よりも近いじゃないか。



「ここです。左に曲がれば玄関があります」



 車窓からは歩道を挟んで家庭菜園もできそうな庭が見える。



 白い壁に黒い屋根の上品な、いかにも裕福な人の自宅だ。



「よし。ここに停めさせてもらおう。鍵はあるんだよな」


「はい、合鍵があります。なんで今日は雨戸まで出して閉まっているんだろう。夜になっても使ってなかったのに」



 岩田は小走りで一足先に玄関へ。



 家の窓はカーテンどころか雨戸で完全に閉ざされていて中の様子はどうなっているのか全く伺えない。



 岩田、曰くその雨戸は日頃から使われているものではないらしい。



 中で何が行われているのか犯人が見えないようにしたとかでなければいいが。



「鍵が……開いている? でもチェーンはされてある」



 岩田は玄関前で困惑していた。



「どうした?」


「鍵は私達が来る前から開いていたようです。ただチェーンがされているので中へは入れない……これ、どういうことですか?」


「そういえば鍵があってもチェーンのせいで中へは入れないのか。うっかりしていたな。ということは中に瀬谷さんは居るとみていいと思うが」


「電話してみますね」



 鍵はかかっていないがチェーンはされている……どうすればこの状態になるのだろうか。



 何者かに追われていたとして、急いで家の中に入る……それで鍵をかける方が自然だ。



 チェーンを先にしたらもたついている隙に間に合わないことだってある。



「瀬谷さん? 良かった無事で。遅れてごめん。メッセージ見て早起きして来たよ」



 奏ちゃんは電話に出たみたいだ。良かった。



 中からドタバタした音が。



「つばきちゃんやっと来てくれた……あっチェーンが」



 奏ちゃんの手によってチェーンは外された。椿姫ちゃんって呼ばれているのか。



 出てくるや否や奏ちゃんは岩田に思いっきり抱きついてきた。



 なんて羨ましいのだろうか。それに、奏ちゃんのパジャマ姿……。お嬢様みたいだ。



「何があったの? あんなメッセージを深夜に送ってきて」


「あいつが、あいつがやって来たの!」



 俺達はリビングへ。



 身の毛がよだつ事のあらましはこうだ。



 岩田の義理の父親、長島正道が奏ちゃん宅へ侵入しようとした。



 だが長島は奏ちゃんの住所を知る由もなく。どうやって住所を入手したのか。



 この際、そこには目を瞑るとしても長島はなんと鍵も開けることができたらしい。



 チェーンはされていたが鍵は開いていた状態はこうして生まれた。



 個人情報が漏洩していた、家の鍵をなぜか持っていた。これだけでもう女性なら発狂しそうだが何より恐ろしかったのは……。



「あいつの顔面が半分、焼けただれていたの! 火傷だと思う。あの、ダークナイトで火傷を負った人みたいだった」


「ダークナイトって……この前、一緒に観た映画だよね。正道さん、あんな顔になっていたの?」



 その例えに俺も寒気が。あのシーンは衝撃的だったよな。



 火傷というのは酷ければ酷いほど人間の基本的な形を最も崩す怪我の一つだ。



 それが顔ならどんな美男子、美女でも化け物のように変わり果ててしまう……。



「そんな大怪我を負っているにも関わらずここへやって来たのですか。そもそもどこでそんな怪我を?」


「この方がつばきちゃんを助けてくれた人?」


「そう。学生時代の先輩」


「申し遅れました。荒木基博あらきもとひろです」


「この度はどうもありがとうございます」



 声色は幼いけど、まるで我が子を助けてくれた母親みたいな言い方だな。


「どこでそんな火傷をした……火と言えば昨日の火事でなんてことはないですよね……」


「そうか。岩田はあの現場から逃げてきたんだ。昨日、長島も同じ所を通ったんだったら」


「火事ってなに? つばきちゃん、昨日の事を話してくれる? あいつと遭遇しちゃったんでしょ」


「うん。そんな話せることなんて多くはないですけど……。

 昨日のバイト帰り、私は正道さんに追いかけられた。それで、神社があるあの丘だったら隠れられそうな所がたくさんありそうだったからそこへ逃げ込みました。

 でも、階段を上っている途中で追いつかれてもう絶対絶命に。それで、軽く揉み合いになって正道さんは転げ落ちました。

 その後は気が動転していてあまり覚えていないんですけど、神社裏にある広場のベンチで泣いていたと思います。その後に大雨になってもどうにでもなれと思っていました」


「その雨が降ったタイミングより前に神社が火事になったはずだ。何が原因で燃えたのか何か思い出せることはないか?」


「うーん、気になることは何もなかったと思うんですけど。私、思えば火事になったことも消防車のサイレンの音でやっと気がついたのですよね。そのくらい精神が参っていて」


「……その神社の火事、境内の建物から一人の遺体が出てきたみたい。警察が身元の確認をしているだって」



 奏ちゃんはそのニュースをスマホでチェックしていた。



 ここで新情報が。あの火事で死人が出ていたなんて。



「まさか正道さんじゃ……」



 岩田は魂が抜けたようだ。



 いくら絶縁したくなるくらい下衆な男でも家族としての時間もあった人だもんな。



 が、待て。それだと非常にまずいことになる。



「つばきちゃん何を言っているのかな」


「そうだな。それだと瀬谷さんの家に出没した男は誰なんだって話になる」


「そうですよね。でも火傷を負っていたのは間違いないんですよね」


「……考えられるのは、長島が神社で誰かを殺害した。おまけに火まで放つという凶行に走るが、手際悪くて自分にも被害が及んで顔に大火傷を……」


「誰を殺したんですか? 私を追っかけているのに、その標的を変えてまで殺したい相手なんて私、知りませんよ」


「俺も知るわけがない。その遺体が長島じゃなければの雑な推理だよ。もしも遺体が長島なら瀬谷さんは長島の幽霊を見た、なんて……」


「やめて!」



 まぁ、そうなるよな。



「大丈夫さ。幽霊だったら鍵を開けることなんてできないし、そんなことしなくても壁をすり抜けて家に入ってこれるんだから紛れもなく生きた人間のはず……」


「先輩どっちにしても瀬谷さ、じゃなくて奏ちゃんにとっては地獄ですよ。大火傷の苦しみを物ともせずやって来たにしても、幽霊説でも」


「今なんで名前、言い直したんだ?」


「私としてはまだしっくりこないんですけど、私の前ではそう呼んでって頼まれたから言い直しました。瀬谷さんって呼ぶと不機嫌になるので」



 その瀬谷、じゃなくて奏ちゃんはもはやそれどころではないな。



 死んだ魚のような眼をしていた。



 リアルトゥーフェイスか幽霊どっちがいい? と聞かれいるんだからな。俺でもそうなる。



「もう少しで俺、仕事に行かないといけないけどこれは警察に通報した方がいいな。幽霊なんていないさ」



 だけど、成仏できない長島がボコボコにされて娘まで奪われた奏ちゃんの前に出てくる。



 これはこれで筋は通っている。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ