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神様はずっと見ている  作者: 浅川
本編「神様はずっと見ている」
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 イベント会場みたいに人が集まっているな。



 被害のない野次馬からしてみれば火事も似たようなもんか。



 俺は車を火災現場の裏手付近に停車してできる限り近づいてみようとする。車から出ると焦げくさい臭いが鼻につくな。



 集まっている人々の途切れ途切れの声に耳を傾けると神社が燃えているみたいなことを言っている。



 あとはあの雨のせいで濡れてしまい早く帰って着替えたいとも。



 神社が燃えたとはまた不吉な。ならあれは禁断の封印を解いてしまい神様が怒ってしまったからか。



 その火災現場の裏手に設置されてある階段から人が降りてきた。



 身体の線からして女性だと思うが……かなり慌てているようだな。



 その女性が走って俺の方へ。



 何かから逃げているのか。まさかこの火事と関連があるんじゃないか?



「あっ」



 女性は俺を目の前すると何かに気がついたみたいだ。



「……もしかして、荒木先輩ですか?」


「……あっ、岩田か!」



 岩田椿姫。学生時代、二年下の後輩にあたる女性だった。



 中学、高校と同じ学校に通っていた。



 中学生時代は面識はなかったが、高校に進学してから部活が同じテニス部になり俺が卒業するまでの一年間でもそれなりに親交があった。



「どうした。ずぶ濡れじゃないか。あの雨にやられたか。……あそこの階段から降りてきたけど、あそこって今、火事になっている現場だよな。もしかしてその火事に居合わせたのか」



 岩田はあまり俺の話は聞いているようには思えず、後ろをしきりに警戒しているようだった。



「すみません、ちょっとだけ私を匿ってもらえませんか?」



 さらなる急展開に俺は言われるがまま岩田に従うしかなかった。



「車の座席、濡らしてしまって申し訳ないです」


「別にそこまで濡れるわけじゃないから気にするな。なんか困っているんだろう」



 雨に濡れた女性。



 高校時代、登校時に傘を持っておらず岩田のように雨で濡れてしまっている同期を俺の傘に入れて学校まで歩いたことがある。



 その親切に感激した同期はこれで雨に濡れた不運は帳消しにでもなってしまったみたいだった。



 濡れていることなんか気にせず愛想を振り撒く。



 髪の毛が濡れた女性というのがこんなにも色気があるとは思いもよらなかったな。



 この岩田も……。



「眼鏡かけていなかったから、こっちからは岩田だって分からなかったよ。眼鏡外すとだいぶ印象変わるんだな」


「そうみたいですね。私も他人から勧められてようやく自覚するようになりました」



 単なる久々の再会であるならもっと会話を膨らませることができるのだが、これはどうやら岩田の方は何かいちもつ抱えているような。



 本人の口から本題が出るまで待つべきなのか。



「もう一度確認するけど、俺の家まで行っていいんだよな? 岩田の家じゃなくて」



 年頃の女性を車で自宅まで連れて行くのは事実だ。どうしても気にかけてしまうことはある。



「はい、私の家は……もう安全ではないのです。重苦しいお話をして申し訳ないですが私、父に狙われているんです。それで家を飛び出しました」



 マジで最上級に重かった。



 父親に娘が狙われるとは、つまりそういうことだろう。なんておぞましい。



 ニュースではたまにその類いの事件は報道されるが、まさか知り合いにいるなんて。



 ただでさえ性被害は魂の殺人と言われている。その加害者が身内なんて心中はいかほどか。どう接してやればいいんだよ。



「あれは父親から逃げている最中だったってことか?」



 こくんと頷いた。



「だから、父が見当のつかない場所へ行きたかったのです。学生時代の友人のことなんて父は知るわけないですし。あっ、父と言っても再婚相手の方です。実の父はもういません」



 実の父親ではない……それだといくらこれからは娘の間柄と言っても男が大好物の若い女性に変わりはない。



 その男は娘を狙って結婚したんじゃないのかと邪推したくもなる。



「隣町へ走っているってことはお住まいは実家じゃないんですね」


「あぁ。一人の方が性に合っているみたいで一人暮らしすることにした。二十分くらいで着くよ」



 マンションの駐車場に車を停める。車から出ると岩田は安らぎを得たようにそこからの眺めに浸っていた。


「どうした。何も珍しいものはないと思うけど」


「いえ。こんな高い場所から私の住む街を眺めることってこれまであまり機会が無かったので」


「ふーん。そうか」



 共感はできなかったが心に深い傷を負っている中でそれを少しでも紛らわせることができているのは何よりだ。



 俺もこの街で一番高い立地ってのが決め手だったからな。



 さっきみたいに豪雨になっても浸水することはないわけだし。



 本来であればプライベートで家に招くような仲ではない。



 俺の部屋まで岩田は俺の後ろに付いて来るという距離感はなんとも気まずかった。



「ここが俺の部屋。早速、着替えて風呂でも入れよ。沸かすから。着替えは俺の上着とズボン貸してあげるから」


「はい。すみません」



 紫色を基調とした花柄のワンピースに赤いカーディガンが室内に干されている。



 あの時、襖一枚隔てた先には岩田が着替えをしていると思うと勝手にそのが浮かんできていた。



 青色のパーカーにスウェットパンツ姿も似合っていたな。あのダボダボ感が……。



 まったく男って生き物はいつもこうなんだから……と客観視している俺。



 相手は義理の父親から逃げて来た女性だぞ。



 フラッシュバックさせないためにもなるべく性的なことは頭から排除しろ。



「お風呂ありがとうございます。体が温まりました」


「そうか。なら俺も入ろうかな」


「あの、この雑誌の表紙を飾っている女性、荒木先輩はご存知なのですか?」


「……これね。凄い美人だなとは思っているけど、この雑誌で初めて知った。

 実は今日、この雑誌の記者が取材に来てて。そのついでにこの雑誌に記事が載る予定ですって名刺代わりで事前に前の号をプレゼントされて。それで俺の家にあるだけ」


「私、今はこの方の自宅に住まわせてもらっているんですよね。ちょっとした有名人とは聞いてましたが、まさか雑誌の表紙になるくらいの人なんてびっくりしました」



 なんだと。この、奏ちゃんの家に岩田が居候させてもらっている……!



「それは、すごいな。有名人の家に泊めてもらっているなんて。またどうして」


「あれはもう運命としか言いようがないと思うのですが……」



 俺は岩田から映画みたいな出会いを聞く。奏ちゃんが岩田を救ったのか。



 事の経緯を聞いて俺は戦慄した。そこら辺の屑男より強かったのか奏ちゃんは。



「今日は荒木先輩にも助けてもらいました。これだけで私の人生、不幸ばかりじゃないって勇気付けられます」



 無邪気に笑う岩田。



 俺にとっても岩田と再会して奏ちゃんと繋がるチャンスが到来したのは運命かもしれない。



 この機を逃してはならないと鼓動が早まる。



 せめて会って直接、話くらいはしてみたいな。




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