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神様はずっと見ている  作者: 浅川
本編「神様はずっと見ている」
14/15

後日談

 あるネット質問掲示板の書き込み。



『あの、たまたまこんな写真を見つけたのですけど、この人の名前をご存知の方はいらっしゃいませんか? すごく僕の好みです』



『懐かしいですね。その子は奏さんって方です。(ウィキペディアのURL)

 高校生で芸能界デビューして五年くらい前までモデルや動画配信を中心にマルチに活動していたんですけど突如、引退を発表してファンクラブも閉じてSNSのアカウントも全部、削除。その後は不明ですね。

 きっとお金持ちの著名人や社長と結婚したのを公表しないまま引退したというのがファンの見方です。他の芸能人もそうですけど、本当に魅力的な女性って良い相手と結婚したら表舞台からは姿を消しますよね』





 白い天井。電気の消えた丸い照明。



 ここは瀬谷の自室である。



 白いカーテン越しからの明かりから夜ではない。



 天気は曇りで、屋根は濡れており雨が降っていたようだ。



 お昼過ぎ。瀬谷は起動ボタンが押されたかのように目を開けた。



 瞬きをして、自分は目が覚めたんだと確認しているようであった。



「はっ……つばきちゃんは?」



 自分はここに一人で居る、そうなると岩田の肌が恋しくなっていったのか。



 母親の元へ行く子供のように瀬谷は部屋から飛び出した。



「つばきちゃん! どこにいるの?」



 しかし瀬谷は廊下に出て何か違和感があるのか飛び出した勢いを早くも失う。



「なにこのにおい?」



 におい、とは火元から出ている煙であったり生ごみなどの異臭のことではなさそうであった。



「ここ、私の家だよね」



 ここまで暮らしてきて、この家でこんなにおいはしないとせないようであった。



「これって……なんだか他人の家にお邪魔した時に嗅ぐあの独特の匂いみたい」



 小走りで階段を上ってくる足音がした。



 上ってきたのは比較的、年齢は高めそうな女性であった。



「……どなたですか?」



 やっぱりここは他人の家なのか、瀬谷は硬直する。



「奏ちゃん! ようやく目覚めたんだね、良かったー」



 その女性は感極まって抱きついてきた。この反応にますます困惑する瀬谷。



「体の方は大丈夫? あっ頭も大丈夫なの? ほんと良かったよ、()()()()()()()()()に目が覚めて」



 この身体の感触、うなじには覚えがあった瀬谷。



「あっ、ごめんね。いきなり知らないお婆さんに抱きつかれたと思っているよね。その……驚かないでね。無理だと思うけど。私、岩田椿姫なの。()()()()()()()()()だけど」



「あ、あなたがつ、つばきちゃん? うそでしょ。もうすぐ八十歳って……もっとマシな嘘ついてくださいよ。私とつばきちゃんは一歳しか違わないんですよ。私を見てください。まだこんなに肌にハリがある、潤いある美肌を保っている!」


「そうなるよね。うーん、奏ちゃんだけ取り残されたように歳を取らずに時間経過したからなんだけど、これ信じてもらえる?」



 自分だけ歳を取っていない——この発言が重くのしかかったのか身体全体が強張っていく。



「奏ちゃん、どこまで覚えている? あんまり思い出したくないだろうけど、最後の記憶は……」



 ジジッとプラズマのような音が。瀬谷はぼんやりとではあるが、あの青い腕を蘇らせた。



「いやっ」



 ひざまずく瀬谷。耳も両手で押さえた。



「よしよし、もう思い出さなくてもいいよ。あれで奏ちゃん、専門的なことは私もチンプンカンプンなんだけど一度、別の次元? へ吸い込まれたみたいなの。

 そこからまたこっちの世界に連れ戻すために、とんでもない時間を要してしまった。そういうことなの」



 もう私はここで死ぬんだ、そんな諦めはあったかもしれないと瀬谷は徐々に記憶を振り返っていった。



 あそこから私を救出してくれたのなら、これだけ時間がかかっても仕方がないのでは? という妙な納得はじわりと滲み出ている感覚があった。



「……本当につばきちゃんなの?」


「そうだよ。ずっと基博さんと待っていたんだよ」


「もとひろさんって……」



 聞き慣れないけど一度だけ耳にした名前だった。



 また足音がした。そして——



「僕だよ。お久しぶり。そして、おめでとう……なんて言っていいのかな。奏さんは人類で初めて約五十年のタイムスリップをした人間になった。これも一種のタイムマシンだろうね。まるで浦島太郎みたいだ。こんな事が僕が生きている間に起こるなんて感激している」



 この達成に個人的な感慨があるような物言い。



 荒木基博。髪の毛の大半は白髪混じりになってしまっていたが量はまだその歳にしてはフサフサであった。銀縁の眼鏡をかけている。



 二人が肩を並べる。



 この二人が歳を重ねて高齢者になった荒木、岩田だと思うと面影は確かにあった。



 それどころか瀬谷は「二人とも若いですね。まだ五十代くらいじゃないんですか? それに皺は増えて歳は取っているんだろうけど、体型も髪型も殆ど変わっていない、すごい。つばきちゃん白髪ないの?」とこぼしてしまう。


「白髪は染めているからだけど、若いとはよく言われる。これもいつまでも歳と取らない奏ちゃんを毎日、見てきたおかげだろうね」


「うん。奏さんを見ている時はいつも僕達を二十代に戻してくれる。学生時代に初めて聴いた曲を再生するとあの頃の感動が湧いてくるように。この若さを維持できたのは奏さんのおかげだね」



 二人は献身的に寄り添ってくれた、これだけは分かったが瀬谷は……。



「そんな、私だけ……置いていかないでよ」



 瀬谷はとめどなく涙が溢れてきた。



「ごめんね。私のせいで一人ぼっちにさせたみたいで」


「つばきちゃんのせい?」


「ずっと心の準備をしてきたつもりだったけど、ここまで先延ばしされるとは思わなかったから……急に緊張してきちゃった」



 岩田も同調するように涙を流すと、話し始める。



「そもそも大元の、こんなことになった原因はね、私と正道さんが……」






 瀬谷は椿姫にこれまでになく執着していた。



 もしも通常の速さで瀬谷をこちらに戻したら椿姫の幸せは乱されるし、瀬谷は瀬谷で大好きな人が元々、オーディションで競い合った人物でその仕返しに度を越した悪戯を仕組まれていたというのはショックがでかい。



 荒木は瀬谷のガチ恋ファン。全く厄介な三角関係なこった。



 ……瀬谷に殴られ、蹴られた時は正直、激しく後悔した。骨折も覚悟したしやっぱりこんな幼稚なこといい歳した大人がするべきではなかったかと。



 だがもう遅いとなれば、娘の幸せを第一に考えるなら……こうするしかないよな。



 こんなお婆さんになってしまった椿姫から今更、真実を聞かされて謝罪されてもまるで現実感がなくもはや他人事のように聞こえる。



 瀬谷はもう椿姫からは手を退いて新たな人生を送るしかないだろう。



 さっ、人気モデル瀬谷奏が歳を取らずに復活ってことでこれは新たな怪異の始まりなんじゃないか?



 かつてのファンはまだ存命している。そのまんまの姿を晒せば記憶が呼び起こされる人も何人かはいるさ。



 あの神社はもはや禁足地どころか石棺せっかんとなってしまったが一度、始まってしまった怪異の連鎖はもう止まらないんだな、これが。



 どんなに時間がかかってもまた水中の龍が時期を見計らい空へ昇るようにお披露目される。



 全ての始まりは建仁けんにんからだったがそこから大正、令和、そして今とどんどん間隔が短くなっている。



 おいおい、これはまずいんじゃないか。科学技術が発達すればするほど()()()()()は見逃されなくなり、そしていとも簡単に世界中へ拡散されてしまう。



 観測者が増えれば増えるほどこのままでは地球の物理法則は改変されて……ふふふっ。



 ……瀬谷、お前もいずれ()()()()にこれるかもしれないな。



 この時代において四次元生命体でありながら歳を取らず時を五十年も駆け抜けた実績は上位生命体になるための第一条件としては十分だ。



 椿姫ともつれ状態の俺は椿姫とは運命共同体。すなわち椿姫がこの世を去ったら同時に消えるが、思わぬ形で後継者ができかもしれない。



 これからはお前がこの怪異の歴史を築く番だ。



 あとは任せた、と勝手に任命してみるがどうだろうか?



 おっ、瀬谷が俺の方を()()()()()()()……?



 気のせいか。きっとまだ早い。




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