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神様はずっと見ている  作者: 浅川
本編「神様はずっと見ている」
13/15

人形の家

 歌姫のような歌声が響く。なんて聴いていて心地良いのだろう。



 幸せが声になって降り注いでいるようだ。これは誰の曲なんだろうか。



「あっ荒木先輩、起きました? おはようございます。もう朝ですよ」



 もう朝か。



 岩田椿姫。学生時代の可愛い後輩……のはずだった。



 俺は彼女に膝枕させてもらっている……らしい。



「今の歌声は岩田か。芯がしっかりしたような声出せるんだな。岩田の声じゃないみたいだった」


「ありがとうございます。これもお母さんから受けたボイストレーニングのおかげですね」



 俺は起き上がる。幸せ絶頂の笑顔。だからあんな歌が。そんな笑顔を俺なんかに……気後れしてしまうのはなぜなんだろう。



「……奏ちゃん、どうやらバイセクシュアルだったみたいです。異性のみならず同性にも恋愛感情であったり性的魅力を感じてしまう……実際のところはわかりませんけどネット上にたくさんいる可愛い女の子達を漁っている内にこの達とならいちゃついてもいいかもと思ったそうで。

 その中でも自身も両親を交通事故で早くに亡くして苦労したように家庭環境であったりが恵まれない若い子を支援しているとは聞いてましたが、何人に手を出したんでしょうね」



 苦しい幼少期を過ごしていたとは聞いていたが、奏ちゃんがバイセクシュアル……。



 若い子に手を……あぁ、ということは……!



 俺は奏ちゃんの岩田に対する接し方を思い返してどこか腑に落ちてしまった。



「岩田、お前は……」


「女性に欲情するのは偽りないと思いますが、男性はどうなんでしょうね。……阿部さんの言う通り、極上の美人ってほんっとずるいですね」



 岩田はスマホ画面を俺に見せてきた。



「うぉ、ボニーテールにしている奏ちゃん……めっちゃ可愛い」



 そんな奏ちゃんが首をかしげて微笑んでイェーイとはしゃぎながらピースをしている。



「男性だったら一撃ですよね。じゃあ女性だったら?」


「へっ?」



 このやり取りの間でも動画は進む。いつくしむ瞳でこちらをでるようだ……。



 こんな眼で見つめられたらとろけてしまうだろう。



「あぁ、この人だったら少しくらい許してもいいかなって思ってしまいました。こっちの気も知らずにそんな無邪気に……まるで赤ん坊のように」


「そうか……男でもたまに聞くよ。爽やかなイケメンにボディタッチされたら女性と同じくらいドキッとしたって」


「けど、私はある一線を越えるわけにはいきませんでした。だって、ずっと好きだった人がすぐ目の前にいるんだから……!」



 岩田は涙を堪えながら絞り出すように……これは……俺に、好きでしたと告白しているんだろう。



 やっぱりそうか。



「長島……さんが助けてくれたってそういうことか。望んでいない行為をトイレ内で迫られて……」


「正道さんはおそらく……あの神社に眠る秘宝なる物を暴くために社殿を燃やそうとした狂ったオカルト信者のせいで巻き添えになったんだと思います。

 神社の集会所で手順を打ち合わせをしていたあの日、不審人物がうろついているみたいだからついてくるなと別れて見送った背中が最後になりました」



 そして俺と岩田は再会した。



「長島さんは……その眠っていた幽霊と合体? でもしたのか……うぇ」



 脇見したスマホの動画にはとんでもないものを映し出していた。



 奏ちゃんがTシャツを脱ごうとしている……胸の谷間に……。



「あっ」



「ここからは課金しないと視聴できません」



 スマホを取り上げる岩田。



 だよな。あんな美貌の持ち主だからその類いの依頼はたくさんきていたであろうが奏ちゃんは一般向けにはグラビア、脱ぐような仕事はしないスタンスの人で、お金払ってもせいぜいファンクラブ限定販売でスクール水着姿が収録されている写真集が関の山だった。



 スクール水着はスクール水着で需要はあるから大好評ではあったのだが。



「荒木先輩のコレクションにこの動画、追加したいですか?」



 もしかして俺の奏ちゃんフォルダバレている?



 岩田だからそんな人のスマホを盗み見るなんてことしないだろうと思っていたけど。



「と……荒木さんとやら、ここでご相談なんだが……」



 えっと、どちら様? もしかして岩田からこの声が……。



 ダンディな男の声だけど。



 岩田は行儀よく座っているのだがマネキンみたいになってしまった。



 口は動いていないのに頭上から音声が聴こえる。



 そういえばマネキンって映画、気になるな。今度、俺も観てみよう。



「活動写真を観る前にこれだけは聞いてくれ。あなたのご先祖様は旗上神社建設にあたって必要な資金を一番提供してくれたパトロン様だったんだ」


「そうだったんですか」


「だが、十五年前の改修の時には……その資金提供を渋って一部の改修に留まってしまった……で、今回の火事で神社は全焼……分かるよな。美容整形外科のアイドルとしてたんまり儲けているんだろう?」



 はて、俺はあの神社に祀られていた神様に交渉をされているのだろうか?



「安心なさい。長島が活動写真で儲けた億単位の金があるからお前さんに惚れている娘さんも協力してくれる。一人じゃない」


「しかし、阿部さんを握り潰したとはいえ神社を再建したらまた迷惑な物好き野郎を引き寄せるんじゃないですか? 怖いもの知らずの無礼者はたくさんいます」


「……俺はな、こっち側の概念では幽霊と称されているのかもしれないが、俺側からしてみればあんたらより()()()()()()だと思っているんだ。

 だから超常的な力も持っている。上位であるからには時に……下界で健気に生きているのに報われないこっち側の生命体を助けたりもするし、怒らせたら裁きも下す。

 それが俗にいう神のご加護であったり祟りなのかもしれないな」


「怒りを鎮めるために神社は必要だということでしょうか?」


「そんなのはただの形式に過ぎない。大事なのは中身だろうよ……こっち側の人間は俺を取り返しのつかないくらいに怒らせたのはその通りだ。かつての俺はもう死んだも同然。

 羽ばたいていた天使が愚者が放った矢で撃ち落とされるように墜落してしまったんだ。そんな俺が生き残るためには降格するしかなかった。()()()()()()()へ」



 四次元の生命体とは……要は俺達のことか。



「あの祠には俺の生きる次元へと繋がる鏡が納められていた。また何か困ったら俺の助けを借りられるようにとある認定した聖者に託した。

 まだ百年しか経っていないのに何かあったかと来てみたら火の海よ。

 俺は娘だけは幸せになってほしいという長島の一途な心に惹かれて器として長島を選んだ。

 その長島も死ぬ間際だったから中途半端な存在になってしまったのは誤算だが。

 これこそ幽霊という存在なのかもしれない。普段は見えないけどたまにある条件を満たしたりすると姿を現す……かつての力は失われたがこっちで暴れるには十分だ。

 むしろ幽霊になれて都合良かったのかもな。あの神社に穢れた心で踏み荒らしたり銭に換えようとする奴に裁きを……これからはこれを生き甲斐にしていこうと思う。上位の存在をあまり怒らせちゃいけないよ……と。こっち側が伝えたい教訓はこれだ」



 まとめればあの神社を正真正銘のやばい心霊スポットにしようってことか。



「報酬として()()に保管してある愛するべき奏ちゃんを返してやる。器をまたこっち側に移管するとこの人物の膨大な原子情報を再集結させないといけないからしばらくは()()()()()だが、それまで世話をしてやってくれ。

 じゃあ頼んだよ……荒木さん。あなた俺と淀みなく会話できるってことは素質あるのかもね」



 素質がある? 霊感があるってことだろうか。



 幾つもの粒が回りながら集合している……。



 集合体恐怖症にはきついかもしれない。



 数分後、そこには等身大の奏ちゃんが形成された。



 しばらくはお人形さんだと言っていたな。



 これは物質レベルの転送技術ではなかろうか?



 そんな事が可能なら革命級の技術だぞ。



「あれ、私、今まで何をしていたの?」



 岩田が戻ってきたようだ。



「うわ! 奏ちゃんが隣に」


「……多分、長島さんが返してくれたみたいだ。意識を取り戻すためにはしばらく時間がかかるようだけど」


「荒木先輩、正道さんと話したの?」


「ちょっとだけ」



 いや、厳密には違うんだろうけど。



 その長島の器に身を移した神様はずっと見ている。



 岩田を理不尽に傷つける者には容赦しないだろう。これはまた犠牲者が出かねない。



 俺にできることは……。



 岩田を俺が守ること。触れてはいけないお姫様を世間の荒波に出せてはいけない。



 それに——



「岩田、奏ちゃんが帰って来るまで一緒に面倒見よう。なんなら俺もここに住んで……」


「えっ、いいんですか」


「あぁ」


「……う、嬉しい」


「それで、燃えてしまった神社だけど……」



 神を怒らせてはいけない。罰当たりなことはしない。



 あの方の言う通りこれは古来から語り継がれた訓示だ。



 それを忘れかけてしまった現代人には良い薬なのかもしれない。




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