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神様はずっと見ている  作者: 浅川
本編「神様はずっと見ている」
10/15

「……あの、お二人は熱くなっているところ申し訳ないですけど、ちょっと休憩しませんか? 不穏な話をずっと聞いて気分が悪くなってきたというか……」



 岩田がギアを上げたようにここにきてギラついた目つきになっているのが驚きだったが、俺はもう運動しているわけでもないのにヘトヘトだった。



「荒木先生、情けないですよ!」


「でも、普通の人は参ってしまいますよね。奏ちゃんは?」


「私は……こうして人に囲まれているだけで安心かな。一人になるのはイヤ」



 質問に答えているようで、的を得ていない返事だな。



 どこか機能不全を起こしている感は否めない。消えかかっている炎のようだ。



「お茶でも出しましょうか。そういえば全員揃ったのに何も出していないし」



 こうして小休憩を挟むことになった。阿部はタバコを吸いに外へ出た。



 またキラキラした洋楽が耳に入ってくる。曲は絶えず流れていたはずだが話の最中は耳には入ってこなかった。



 四人分の飲み物を岩田が出すと瀬谷さんはお手洗いに行きたいと岩田に告げて、二人でリビングを出る。



 トイレまで一人で行けなくなってしまったということか?



 幼子おさなごでもなければ足腰の弱ってしまった老人でもないのに……まるで看病しているようで岩田も大変だな。



 いや、あんな美人だとそうでもないか。



 男であればこっちがお金を払ってでもいいから希望者が殺到することだろう。



 待てよ。トイレすら一人では無理ということはまさかお風呂も……。



 またこんな時に何、考えているんだよ俺は。



 阿部が戻って来た。なんか寒空の下でタバコを吸っていたかのように腕を擦っている。



 まだ夜は肌寒い日もあるとはいえ四月だぞ。それは大袈裟な気がした。



「外、そんなに寒いのですか?」


「いえ、この寒さはこの家だからでしょうね。やっぱりいますね、この家には」



 冗談はよしてくださいよ、とは返せなかった。



「そういえば、俺のオフィスで神社から火の手が上がったのを見た時は普通のリアクションでしたけど内心、穏やかじゃなかったんじゃないですか? まさかあの曰くつきの神社が!? って」


「あぁ、そうですね。ただあそこから見てもあそこは神社だ! って分かるほどここに土地勘があるわけではなかったのであんなもんだと思いますよ。もしやとは思って確認しに走りましたけど」


「そうか、言われてみれば。俺のクリニックを取材対象にしたのはまさかついでにあの神社も見物できるからですか?」


「さぁ、どうでしょう。それより荒木先生、霊感強いんですか? 荒木先生は見えていましたよね。あの光に、触手のような蔓……」



 衝撃が走る。ってことは阿部も見えていた……?



「きゃああああー!」



 つんざくような二重の悲鳴。岩田と瀬谷さんしかいない。



 俺達二人は反射的に声の方へ。



「どうした……ゔっ」



 またゲップのような恥ずかしい音を……なんて気にしている場合でなかった。なんだあれは。



 ブロック塀が崩れたように穴が空いている。そこから白い稲妻がほとばしっていた。



 青い手に赤い血管のような線が腕から光っている。



 それが瀬谷さんのおでこまで伸びている……瀬谷さんは仰け反ったままその体勢から微動だにしない。



 手に掴まれているわけでないのに数センチ浮いている? 足の裏が床に着いていない!



 この現象はさっき阿部から聞いた……。



 岩田は上半身がトイレ内からはみ出て転倒しているが、あの穴の内部を目が離せないようにじっと見つめている。



 こんな悪夢が起きているのに岩田はなんだか思いの外、取り乱していない気がするのは何故なのか。



 岩田は何を見ている?



 廊下の電気が消える。トイレ内の電気は元から消えていたのでこれでこの空間は暗くなる。



「皆さん、目を閉じてください! 地震がきたらどうしますか? 机の下に身を入れて、丸まって両手で頭を隠しますよね。それと同じポーズをしてください」



 阿部が励ましているかのように掛け声を。



 目を閉じて、身体を丸めて頭を手で隠す……。



 身を守るポーズ。俺はすかさずそのポーズをした。ソラが上から降ってきた時と同じ……危険が迫ったと思ったら人間は無意識にこのポーズをするんだろうな。



「いいですか。幽霊は私達が()()()()()()()()()()()()()()()()。絶対に幽霊の方は見ないでください。私達が見なければ幽霊はいなくなるということです!」



 この状況でどうすればいいのか?



 阿部は知識があるから指示してくれているようだ。



 俺達が見なければ幽霊はいなくなる……そうであってくれ! と命乞いするように祈りながら俺はギュッと目を閉じた。



 その間も何かもの凄い振動に、圧を感じてこれ以上はなす術がないと悟る。



 ……どのくらい経ったかは考える余裕もなかったが、ふっと身体が軽くなったような。



 あのプレッシャーは失せたか?



「はい、もういいみたいですね。顔を上げてもらってもいいですよ」



 阿部が危機は去ったと合図をする。



「助かったのですか?」


「はい。数々の証言を客観的に分析してガチで幽霊に遭遇したと思われる人は皆、無意識に目を閉じこのポーズをして難を逃れたって共通項があるんです。

 それ以外の対応、走って逃げた、物を投げて抵抗したとかは見間違い、幻覚だとみています。これ長年、取材した成果です。……奏さんは……助かりませんでしたか」



「あっ、いない……()()()()がいない!」



 ……岩田は啜り泣いている。



「正道さん……ありがとう」



 えっ。今なんて言った?




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