【ウイリー】
「今日は、ウイリーを教えてください」
「え゛急にどうしたの?」
バイク歴5年の田中は、モトクロスコースに練習に来ていた。
午前中走り続けたので、午後はテクニックを磨いてみたくなったのだ。
「佐藤さんは、出来るんですよね?」
40代のベテランライダー佐藤は、装備を整えて自分のバイクRM-Z250に跨った。
「田中くーん、見本を見せるからねー」
ドドドドド、ド、ボォォォォォン
アイドリングで止まっている状態から、フワっとフロントタイヤを持ち上げて、小走りくらいのゆっくりした速度でウイリー走行を始めた。
パドックの端からスタートして、田中の目の前まで20mくらい走って、目の前でフロントタイヤを落とした。
「おーーーーー、さすが、一発でしたねー」
「昔、流行った頃にいろいろ遊んだからねぇ」
佐藤は、ヘルメットを脱ぎながら笑う。
「なんか、フロントが全然上がらないんですよ、コツを教えてください」
「田中くんは、どんな方法でトライしているの?」
「どんな方法って、いくつも方法があるんですか?」
「あるある、ざっと3種類かな」
① パワーウイリー
・加速で前輪が軽くなる瞬間を使う方法
・トルクのあるバイク向き
・急にやると一気に立つので危険
② クラッチウイリー
・クラッチ操作で一瞬だけ駆動力を強める
・多くの人が使うけど、繊細さ必須
③ 抜重ウイリー
・フロントタイヤの荷重を抜く方法で、自転車のBMXで使う方法
・体重移動で抜重出来る
・フロントフォークを縮めた後、伸びる時の反動で抜重できる
・オフロードバイクのレースでよく使うテクニック
「へー、そんなのがあるんですね。僕がやってたのは、クラッチウイリーの練習かな」
「どのくらい上がったの?」
「全然ですよ、怖すぎて、クラッチを一気につなげられないんです」
「あーーー 最初は怪我しそうで怖いよね」
佐藤に促されて、田中は装備を整えて自分のバイクYZ-125Xに跨った。
「ウイリーの基本だけど、ウイリーは力技じゃなくて、重心を後ろに移す感じで、前輪が軽くなる瞬間を作るんだ」
佐藤と田中はパドックからコースに繋がる導入路に場所を移した。
「初心者は、上り坂でフロントアップの練習をすると、楽にコツを掴めるよ」
「なんで上り坂なんですか?」
「上り坂だと、多少やりすぎてもすぐに止まれるんだ。もともとフロントが後輪より上にあるから簡単に上がるし、リアブレーキの使い方が分かってなくても、上り坂だとアクセルを戻すだけで止まれる」
田中は、上り坂に車体を向けた。
「最初はゆっくり徐行しながら、アクセルONとOFFを繰り返してごらん」
ブン、ブン、ブン
坂を上がりながら、アクセルの開閉をする。
上っては下って、また上り坂でアクセル開閉をする。
徐々に慣れてきて、アクセルの開閉が大きくなると、アクセルONの瞬間にフロントが浮き始めた。
「できました! 本当にフロントが浮きました」
佐藤はニコニコしながら次の指示を出す。
「フロントが上がったら、リアブレーキを踏んで、フロントを落としてみて」
ブン、キュッ、ブン、キュッ
「オッケー、飲み込みが早いねー、 次は平地で同じことをやってみようか」
ブン、ブン、ブン、
「わかるんですけど、平地だと急に難しくなりますね」
「そーでしょ、そしたら次はフロントフォークを使ってみようか」
「どうやるんですか?」
佐藤が見本を見せるために、装備を整えて、自分のバイクに乗った。
「フロントフォークと体重移動をよく見ていてね」
佐藤が徐行走行を始め、身体を前に振った。
その瞬間にフロントフォークが大きく縮んだ。
つぎにフロントフォークが伸びるのと同時に、アクセルをONにした。
フロントタイヤは実にあっけなく、フワッと浮き上がった。
「どう、分かった?」
「わかりました、それなら出来そうな気がします」
田中が、さっそくトライした。
しかし、思うようにタイミングが合わない。
「そこはもう、練習あるのみだからねー、今日は飽きるまでやってみてねー」
佐藤は笑いながら去っていった。
もう少しで、できそうなのにできない。田中は結局、夕方までやりつつけて、フロントアップを一日で覚えてしまった。
翌週も二人はモトクロスコースで走行練習をして、昼からウイリーの話しになった。
「きょうは、クラッチウイリーをマスターしてみようか」
佐藤は言った。
「なんか怖くてクラッチを スパッ って繋げられないんですよね」
「これも、練習方法があるんだよ」
また、佐藤が自分のバイクで手本を披露した。
バイクを徐行走行させ、一瞬 アクセルを開けたかと思うと、同時に切っていたクラッチを繋げたのだ。
「停止状態からクラッチウイリーって、最初は怖いんだよ。だから、徐行状態で練習するの」
「は~~ 練習方法にもコツがあったんですね」
「これも、練習あるのみだから、いっぱい遊んでみてね~」
田中がクラッチウイリーでフロントアップさせるのは、意外なほど早かった。
「田中くん、ストップ、ストップ」
「どうしたんですか?」
「上げるのばかり一生懸命になると、そのうちに捲れて転倒するから、必ずリアブレーキでフロントを落とすのも練習してね」
ブン、ガシャン、ブン、ガシャン
「なんか、背筋が痛くなってきたので、今週はこの辺迄にします」
「あはははは、無理は厳禁だよね」
「でも、ウイリーって、練習方法を知っていたら、こんなに簡単なんですね」
「何言ってんの、今までのやつはフロントアップで、まだウイリーじゃないよ」
二人で、なんか微妙な空気になった。
「来週は、ウイリー走行を練習してみようか」
・・・・・・・・・・・・・
翌週、佐藤はDR-Z50を持ってきた。
「キッズ用のミニバイクじゃないですか、なにするんですか?」
「これが、ウイリーマシーンとしては優秀なんだよ」
「このバイクはオートマチックだから、アクセルを開ければ駆動がかかるんだ」
「スクーターみたいなもんですね」
また、佐藤が装備を整えて、DR-Z50をヒョイとウイリーさせたかと思うと、歩くほどの速度でウイリー走行を続けた。
「おーーーーーーーーーーーーーーーーー おもしれぇぇ」
田中が大笑いしながら叫んだ
戻ってきた佐藤に田中が懇願した
「やりたいやりたい、乗せてください」
「小さいバイクだから、フロントが上がりすぎて捲れても、足が地面に着くから転倒しないんだ」
装備を整えた田中がDR-Z50に乗ったが、佐藤の様にならない
「このクラッチが無いバイクで、どうやってフロントアップさせるんですか?」
「それはね、両足を地面にしっかりとつけて、足を突っ張った状態でアクセルを開けると、フロントが持ち上がるんだよ」
「持ち上がったら、足は地面につけたまま、引きずって走ってごらん」
2回、3回とやるうちに、コツがつかめてきて、田中も佐藤と同様にウイリー走行し始めた。
「わはははははははははははははは、これおもしれぇ~」
二人は休憩しながら雑談した。
「ウイリー走行は、身体とバイクがVの字になるようにするんだ。 安定角と言うのが有って、V字が綺麗にバランスする角度があるんだよ。この角度も練習して感覚を覚えるしかないんだ」
「ウイリー走行が出来てこその、ウイリーなんですね」
「この安定角を覚えるのも、やはりリアブレーキが肝になるんだよ。最初はリアブレーキを引きずりながら走ると、安全に練習できるよ」
練習する場所はサーキットコースの平地がいいよ。
おもしろいけど、怪我しない様に、十分に気を付けてね。




