【雪遊び】
【寒冷前線】
"今夜は、上空にマイナス30℃の寒気が入り込むので、あすは関西地方でも雪に注意してください"
ラジオを聞きながら、少年は仲間にメールを送った。
「寒波到来。あすのアタックは予定通り」
バイク好きにとって、路面が凍結する冬は走れない我慢の時期となる。
仲間3人と雪道で遊ぶ話になったのは、「こんな時期にしかできないことをやろう」と、誰かが言ったからだ。
【待ち合わせ】
翌朝は、霧がかかっていた。
自宅付近の気温は、1℃
少年は自分のストマジを雪道用のオフロードタイヤに替え、コートを二枚重ねで着込み待ち合わせの広場に向かった。
1時間も早く到着したのに、仲間の二人はすでに到着していた。
「おはよー」
「みんな早すぎるだろー、どんだけ楽しみにしてたんや」
少年たちは、ケラケラ笑いながら、山に向かって出発した。
【林道】
バイクが一台しか通れない林道を、KLX125、ストリートマジック110、TTR125の順でバイク3台が慎重に走る。
倒木の下を、背を屈めながら通過する。
先頭のKLX125が、細い沢を越えようとしたとき。
「わぁぁぁぁぁ!!!」
ハンドル近くまで水没した。
見た目は数センチ程度の深さに見えたが、落ち葉が積もっていて本当の深さがわからない。
三人で力を合わせてKLX125を引き上げる。
逆立ちの様になったバイクの後輪を引っ張る役が一人。
ハンドルのことろに二人。
「せーーーーの」
昔見た映画、スタンドバイミーの少年たちのように、お互いを見ながら笑った。
道は途中から急な上り坂になり、ストマジの力では進まなくなった。
腐葉土で滑り、足で立つこともできない。
空転するリアタイヤが徐々に谷側に流れていく。
そして、ついに崖から後輪が脱落した。
「あかーーーん しぬぅぅぅぅぅぅ」
少年は、片手片足で崖に落ちかけたストマジを持ち上げた。
ストマジは車重が軽いスクーターとは言え、火事場の馬鹿だろう。
【昼食】
山腹にエメラルド色の池があり、少年たちはそこで昼食にした。
「あんな上り坂、あかんでぇ 泣きそうだったわ」
「え゛ そお? 楽勝やでぇ」
「君のはオフロード車。おれのはスクーター」
そんな会話をしながら、携帯コンロを出して鍋で湯を沸かす。
70円で買ったカレーうどんと、家から持ってきたオニギリが少年の昼食メニューだ。
別の少年が、携帯コンロにのせた編み付きフライパンで焼き肉を始め、昼食が一気にご馳走になった。
「ごちそうになりまーーーす」
「ひとり、ふた切れだからな!」
【雪道】
車の通れる林道に戻り山頂を目指すと、道の両側が雪に覆われた来た。
標高が上がるにつけて、雪の量がどんどん増えてきて、山を回りこんで日の当たらない西側になると視界が白一色になった。
期待していた、雪道走行の始まりだ。
轍が何もない、新雪の雪道に突撃。
たまに現れるアイスバーン路面を慎重に抜け、雪の積もる路面でリアタイヤを滑らせて遊んでみる。
車体が横滑りをしたまま、コーナーを走ると、少年はよくわからない声で叫んでいた。
少年は、ライディングテクニックに自信があるほうだったが、雪が深くなるに従って、バイクのコントロールに苦戦するようになった。
別の少年が、ここぞとばかりに抜き去っていく。
「あ゛ぁぁぁぁぁぁ、くっそーーーーーーーーーーーーー」
雪が20cmを超えたころから、バイクのタイヤが地面に届かなくなり、空回転を繰り返すようになる。
それでも、足を使いながら山頂を目指して少年たちのアタックは続く。
やがて3台とも限界を迎え、完全にスタックした。
汗だくになり、身体から湯気が上がる。
「このへんかな」
「このへんだな」
目の前には、青い空と、どこまでも続く白い世界。
これが、冬の遊び方だ。




