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バイク小説 短辺集  作者: 霧笛の火魔人


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【パリダカールラリーの話  前編】

挿絵(By みてみん)


これは、私が20代のときに、仲間のタカシがパリダカールラリーに行った話です。


最初にタカシから話を聞いた時は、「何を言ってるんだこいつ」って思いましたよ。

だって、エントリー費に一千万円、旅費とバイクと装備費を合わせると、1500万円の資金が要ると言うのだ。


貯金を叩いて、お金を借りても、そんな額が集まるわけもない。

仮に集まっても、それを遊び(レース)で使い切るなんて、正気とは言えない。

得る物より、失うものが多すぎる。



でも3ヶ月後、私は彼の壮行会に参加することになりました。

10名ほどでスナックを貸し切りにして、大騒ぎです。

誰かが突然始めたカンパに、私も5千円ほど出しました。



「どうやって、1500万の資金を捻出したの?」


タカシは私に企画書を見せてくれました。

そこには、パリダカとは何か、自分は何者か、そして資金援助をした場合はどのようなメリットがあるかが書かれていました。

そうです、タカシはその企画書を企業に持ち込み、資金援助を頼んだのです。


彼が、可能な限り借金をして自己資金を優先した事は容易に想像できたが、それでもスポンサーのバックアップが途方もない額だったことは間違いありません。


「よく、金を出す奴がいたな」


タカシは笑いながらいいました。

「そうだろ、協力してくれたスポンサーの社長さんには本当に感謝してるよ。だって他人の夢のために、ポケットマネーを出してくれたんだよ」

「でも、お前もカンパしてくれただろ、ありがとうな。お前も大切なスポンサー様だよ」


当時の私は、まだ現役のモトクロス選手権ライダーだった。

コーヒー一杯の小銭を我慢して、ひたすらバイクの部品代につぎ込んでいた。

私にとって、カンパした5000円はとてつもなく大金だったが、それでもスポンサーと呼ばれるにはあまりにも粗末だった・・・・


「マシーンはどうしたの?」

「ヤマハのワークスモデルが使えることになった」

「あんた、スズキのIAなのに、なんでヤマハなんだよ」

だよなぁ、と二人で笑った。


「おれは、お前にメカニックとして付いてきてほしいのだけど、どうかな?」


突然の誘いだった。


あれが、私の人生の分岐点だったと思う。



ワークスマシーンを私が管理できるわけがなかった・・・

いや、これは言いわけだ。

タカシは、私についてきてほしいと言っているのだ。

でも、その年の4月に入社したばかりの会社。

2カ月近い休みは退社を意味した。


ライダーとしての見栄もあった。

パリダカに行くのなら、メカとしていくのではなく、ライダーとしていきたい。



タカシは、ヤマハのサポートを受けてパリに立った。

その勇士を私は深夜のテレビで見ていた。


------------------------------------------------------------------

今、私は50歳。

普通のサラリーマンです。


あの時にパリダカに行っていれば、あるいはライダーとして走る未来もあったかもしれないし、やはりなかったかも知れない。



私は今も家電製品の研究・開発をやっている。

一つの新製品を作るには数千万の投資費用がかかる。


会社に製品の企画書を提出すときに、いつもあの時のタカシの顔を思い出す。


この企画は、社長がポケットマネーを出しても惜しくないと感じる、魅力があるだろうか、、、っと。


私は、タカシの様に輝けているだろうか、、、と。





さぁ、企画会議の開始時刻だ。

【あとがき】

この話は、後編に続きます

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