【彼女と紅葉と】
明け方、突然電話があった。
真美が泣いていた。
ツーリング中に車と接触をして、転倒したらしい。
電話を切ってすぐに、俺はCB1000SF BIG-1で高速に上がった。
名古屋の医大病院は、すぐにわかったが、病室の前で躊躇した。
真美と別れたのは、オレが医大生だった10年前の事。
インターンが始まり、昼も夜も休日もなく病院に泊まり込む日々が続き、人間的な思考ができなくなっていた。
悪いのは俺だ・・・・
病室から年配の男が出て来たのをきっかけに、思い切って部屋に入った。
「かずちゃん、やっと来たね」
「なんだ、意外と元気そうじゃないか。どんくせぇなぁ 怪我はどうよ」
「膝が痛くて、動けないの。」
離れていた時間を感じさせない、いつも通りの会話だった。
真美は、ずいぶんと大人の女性になっていた。
「かずちゃんは、医者になれたの?」
「あぁ、30を過ぎて、やっと一人前の外科医だよ。」
「すごいねぇ、夢をかなえたんだね」
「私、手術を受けることになるみたい、診察を受けるから一緒に居てくれない?
かずちゃんが聞いて、大丈夫って言ってくれたら、どんな手術でも受けられそうだから」
診察には口を出さずに、静かに聞いていた。
担当医は教授だった。
右ひざの前十字と側十字靭帯が全断裂
再建手術の内容は、俺が口を出す余地もなかったが、真美の怪我は教授が担当するべき内容だった・・・・
「かずちゃん、ありがとうね」
「電話で起こされたから、まだ眠いよ」
「すぐに私だってわかった?」
「番号が変わってなかったからな」
真美の楽しそうな笑顔につられて、オレも笑った
どうしても、張り付いたTシャツの膨らみに目が行く
「真美は何をしていたんだ?」
「彼氏とバイク2台でツーリングしてたんだぁ ミスった」
さっきの、おっさんか????
「ごめん」
俺は、何を期待してここに来たのか・・・
自分の馬鹿さ加減に眩暈がした。
「わたし、ずっと電話番号を変えずに待っていたのに、なんで電話してくれなかったの?」
「さぁな・・・・」
しばらく、昔話をして病室を出た。
待合室に、最初にあった年配の男が座っていた。
穏やかな表情
知的な雰囲気
俺にないものが詰まっている気がした。
俺はBIG-1のアクセルを乱暴に開けた。
名阪高速
鈴鹿山脈
青い空と色づいた紅葉
月ヶ瀬湖に夕日が映っていた。
力いっぱい投げた俺の携帯は、放物線を描いて音もなく水面に消えた。
あとひと月もすれば、ここも雪に包まれるだろう。




