祝祭の影と死の荒野③
「……あ、あの」
既視感のある声が、夜の荒野に鳴った。
振り返ると、ニコがアイリスの後に付いてきていた。
「どうかしましたか?」
アイリスは怪訝な表情を浮かべ、言葉を返す。
ニコの肩が、怯えるように震えた。
しかしニコは顔を上げ、アイリスの瞳を真正面から見据える。
その瞳には、覚悟の火が宿っていた。
「……ボ、ボクを連れて行ってくれませんか!」
「どうしてです? 見ての通り、私には他人を養う余裕などありませんよ」
「構いません。自分のことは自分で……いえ、アイリス様の身の回りのお世話もします!」
力を込めて一歩二歩と歩み寄ってくるニコ。
ふと、アイリスはニコの姿に違和感を覚えた。
(……これは、魔力だわ)
少年の身体には、かすかな魔力が宿っていた。
この世界において、魔力を持つ者はめずらしい。
聖女以外に魔力を宿している者は、代々血とともに魔力を受け継いできた王侯貴族だけなのだ。
「ボク……食べられる野草がある場所も知っています」
身の回りの世話ができることを懸命に説明する少年が、荒野を指差した。
そこは他と違い、瘴気が薄い場所だった。
目に見えない瘴気を、この少年は自らの魔力を使って判別できるのだ。
それは拙くも、魔法と言って差し支えない。
「ふーん、そうなのね。なかなか見込みがありそうじゃない」
「はい! 必ずお役に立ってみせます! 他にも向こうのほうに野草が――」
「野草の話はもういいわ。この先どうなるかわからないけど、後悔しない?」
「しないです! ひとりで、あんなところで死を待つなんて嫌なんだ!」
ニコの言葉に、アイリスは微笑む。
手を差しだすと、ニコがその手を強く握った。
あかぎれ同士が重なり合う。
その小さな絆を掴んで、アイリスは荒野を進んでいった。




