新月の夜の脆弱な契約②
「……マスター。来るな。……離れろ」
新月の夜。
突如、ゼノンが苦しみはじめた。
ゴーレム内部の宮殿内はすべての照明が落ち、暖かな空気も冷めていく。
瘴気こそ感じられないものの、外界の苛酷な空気が一斉に流れこんでくる。
「どうしたの、ゼノン!?」
アイリスはゼノンに駆け寄り、彼の手に触れる。
その手は、氷のように冷たく、わずかに透けていた。
「ゼノン! 消えかかってるじゃない!」
息苦しそうにして膝を突くゼノンの身体が、半透明に透けている。
夜の荒野の中で疲れきっていたあのゼノンよりも酷い状態だ。
まさか、魔法石と魔法陣が壊れてしまったのか。
アイリスは意識を宮殿深部へ移す。
しかし魔法陣が壊れたような反応は感じ取れなかった。
代わりに、奇妙な魔力の渦が発生し、凄まじい勢いで外部へ漏れだしている。
「これは、新月の呪いだ」
「呪い……!?」
「もうじき私は、触れるものの魔力を際限なく吸い上げるだけの『欠陥品』になってしまう」
「呪いが、そうさせるの? どうすれば止められるの??」
「止める方法は、ない。だから……離れているんだ。マスターの魔力まで……無制限に吸い上げてしまう」
縋るようなゼノンの目。
これまでの威容は、そこにない。
残っているのは、千年間誰にも頼れず、孤独に怯えていた色だけだ。
やがて宮殿のある亜空間から光が消える。
ゴーレムの身体を維持できなくなったゼノンは人間の姿に変じ、アイリスとニコは荒野に投げ出された。
「新月の夜だけは、大地から、少しずつ魔力を吸い上げる他、ない。だから――」
ゼノンが蹲り、大地に両手を突く。
虚ろな瞳。
必死に意識を保ってはいるが、それもごくわずかだろう。
この千年。新月の夜がくるたびに、こうして耐えてきたというのか。




