報いの始まり
王太子エドワードは、朝食のスープを口にした瞬間、激しく咽た。
「……なんだ、この泥臭い味は! 毒でも入れたのか!」
顔を歪ませ、エドワードは喚き散らす。
給仕が震えながら、その場で平伏した。
「も、申し訳ございません! 浄化の魔導具が、今朝から全く機能しておらず……井戸水の濁りを取り除けないのです!」
アイリスが毎朝、指を血に染めて微調整していた浄化魔法。
彼女が去り、カトリーナが魔獣を撃ち滅ぼすために放った強すぎる光によって、魔法陣が焼き切れてしまったのだ。
それでも何とか飲めるほどの水にしたと、釈明する給仕たち。
怒りを抑えられないエドワードは、彼女たちを皆追い払った。
王宮の別の場所でも、喚き散らす声がひびく。
そこは剣の聖女、カトリーナの自室。
鏡を前にして、カトリーナは悲鳴を上げていた。
「嘘よ……何で!? 何で私の肌がこんなに荒れているの!?」
辺境の荒野のように水気を失った肌。
カトリーナは聖女の力で無理矢理に浄化し、なんとか玉のような肌を保つ。
アイリスという浄化機能を失った王国。
外からの魔獣に怯えるより先に、不衛生という病を内側から蔓延らせていた。
王都を包む空気は瘴気によって淀み、かつての活気はもはやない。
むしろ、腐臭の混じった沈黙へと変わっていっている。
誇り高きハザトロトの名を捨てさせた人々への、残酷なまでに公平な「報い」の始まりだった。




