表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/45

第9話:断熱材の聖域と、熱効率の革命


「……いいか、僕は試験があるんだ。睡眠不足は脳の演算速度を著しく低下させる。だから、この『野宿』という非効率な状況を、工学的に改善する」


クレアの提案から聖都への帰路、深い森の中で夜を迎えた一行。カズキは不機嫌そうに、カバンから『アルミ蒸着レスキューシート』と『折りたたみ式の携帯コンロ(エスビット風)』、そして『パラコード』を取り出した。


「カズキ殿、何を……? 聖騎士たるもの、冷たい地面の上で精神を研ぎ澄ますのも修行のうち。このような薄い銀色の布など……」

クレアが困惑した表情で銀色のシートを指差す。


「修行で単位が取れるなら苦労しない。いいかクレア、地面は巨大な『ヒートシンク(放熱板)』だ。体温を伝導で奪われれば、免疫力が下がり、判断力が鈍る。……アリス、お前のその無駄に高い熱量の魔法、少しは役に立てろ」


「はい、師匠! 『火炎放射(火遊びレベル)』ですね!」

「違う! お前はそこにある石を、赤外線放射が安定するまで一定温度で加熱し続けろ。僕がこれから『蓄熱式床暖房オンドル』を作る」


カズキは手際よく地面を少し掘り、そこにアリスが加熱した石を並べ、その上を乾いた土で覆った。さらにその上にアルミシートを敷き、パラコードで木々の間にタープ(屋根)を張る。


「……できた。アイリス、お前は管理者権限で、この空間の『換気効率』だけ固定しておけ。一酸化炭素中毒は御免だ」

「えー、寝てる間ずっと? 報酬はポテチ大袋ね」


いまさらながら、こいつのポテチはどこから取り寄せているのだろうか…






数十分後。





「な、なんですかこれ……! 暖かい……! まるで、春の陽だまりの中にいるようです!」

アルミシートの上に座ったクレアが、驚愕に震えていた。


「地面からの熱伝導をアルミの反射層で遮断し、さらに下の蓄熱石から放射熱を循環させている。タープの角度は煙の排気と保温のバランスを計算して最適化した。……これが『居住性』という名の工学だ」


カズキはさらに、固形燃料とアルミ製のクッカー(コッヘル)を取り出し、アリスが持っていた「干し肉」と「謎の野草」を放り込んだ。

「アリス、火力の調整は僕がやる。お前はただ、この鍋の底に一定の『熱流束』を維持するイメージを持て」


「は、はい! 『対流しろ、対流しろ……!』」 アリスが必死に数値を意識しながら魔力を注ぐ。やがて、アルミクッカーの中で具材が踊り、ただの干し肉が信じられないほど柔らかいスープへと変わっていった。


「……う、うますぎる。私たちが今まで食べていた、焦げた肉や冷たいパンは一体……」

クレアは涙を流しながらスープを啜り、アリスは「師匠の計算通りに熱を入れるだけで、魔法が美味しくなるなんて……!」と感銘を受けている。


アイリスだけは、暖かいシートの上でポテチを食べながら不敵に笑った。


「ねえ、カズキ。これ、聖都で『賢者の移動神殿』として売り出したら、帰還資金どころか国一つ買えるわよ?」


「断る。量産化設計マスプロにはまだ課題が多いし、何より僕はエンジニアであって商売人じゃない。……さあ、食ったら寝るぞ。明日は朝から『加速度試験(強行軍)』だ」


「カズキ殿……あなたの工学は、戦いだけでなく、人の営みすら救うのですね……。私は、一生このアルミシート……いえ、あなたに付いていきます!」


カズキの快適すぎる野営地は、翌朝、通りがかった冒険者たちに「聖域の跡」として発見され、後にその場所には「カズキ式床暖房の祠」が建てられることになるのだが、本人はやはり知る由もなかった。


そしてクレアは思った「これ、私、もう聖都の聖騎士の団長に連絡とかしなくて良いか」と…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ