第8話:黄金の聖騎士と、金属疲労のデバッグ
カズキたちは、街道の難所『絶壁の回廊』に差し掛かっていた。
「師匠! 見てください、私のベクトル操作! 『慣性の法則(だと思って振り回している遠心力)』で歩くスピードを2倍にしました!」
アリスが杖をブンブンと振り回しながら、妙な千鳥足で進む。
「……アリス、それはただの無駄な運動だ。エネルギー保存の法則を考えろ。後でガタが来るぞ」
カズキが呆れていると、前方の崖下から金属が激しくぶつかり合う音と、聞き覚えのある悲鳴が聞こえてきた。
「くっ、この『聖なる守護』さえなければ……! なぜ、動こうとすればするほど、鎧が私を拒むのだ……!」
崖下を見ると、そこには以前カズキが助けた(?)聖騎士クレアが、巨大な魔物『アイアン・ゴーレム』に追い詰められていた。彼女の黄金の鎧はまばゆく輝いているが、その動きは驚くほど鈍い。一歩動くたびに、鎧の関節から「ギギギ」と火花が散っている。
「アイリス、解析しろ。あの鎧、明らかにおかしいぞ。強度は高そうだが、設計思想が狂ってる」
アイリスが片手間にスキャンを行う。
「あー……あれね。あの鎧、『不壊の加護』っていう強力なバグがかかってるわ。どんな攻撃を受けても壊れない代わりに、外部からのエネルギー……つまり『関節を動かす力』さえも『鎧への攻撃』と判定して、反発し合ってるのよ」
「……作用・反作用の法則を、システム側が勘違いして自分に適用してるのか。最悪のデッドロックだな」
その時、ゴーレムの巨大な鉄拳がクレアに振り下ろされた。クレアは防御の姿勢をとるが、鎧が「動くな」と命じるように硬直し、彼女はただの金縛り状態で吹き飛ばされた。
「クレアさん! 今助けます! 『加速度は力に比例する(うろ覚え)』パンチ!」
アリスが勢いよく飛び出そうとするが、カズキがその襟首を掴んで止めた。
「待て、脳筋。お前が下手に魔法を撃てば、あの鎧のバグが増幅してクレアが圧死するぞ」
カズキはカバンから『万能防錆潤滑剤(CRC-556的なもの)』と、『トルクレンチ』、そして『結束バンド』を取り出した。
「いいか、アイリス。お前の管理者権限で、あの鎧の『不壊』の判定を一瞬だけ『弾性変形』に書き換えろ。アリス、お前は僕が指示したタイミングで、ゴーレムの足元に『摩擦ゼロ』の氷結魔法を敷け」
「了解です、師匠! ツルツルですね!」
「……えー、座標指定が面倒だけど、やってみるわよ」
カズキは崖を駆け下り、ゴーレムの攻撃を間一髪で避けてクレアの元へ滑り込んだ。
「おお!賢者カズキ殿!? なぜここに……! 逃げてください、この鎧はもう、私の命を吸い尽くす呪いの——」
「黙ってろ。この迷惑金髪。呪いじゃなくて、単なる『焼き付き』だ!」
カズキはクレアの鎧の隙間に潤滑剤を豪快に噴射した。同時にアイリスが「硬度」の定義を一時的に「柔軟性」へと上書きする。
「よし、今だ! トルク管理、開始!」
カズキは鎧の各部にある「聖なるボルト(物理的なネジ)」をトルクレンチで適切な締め付け強度に再調整し、歪んだ装甲を結束バンドで強引に固定し直した。
「結束バンド(インシュロック)の引張強度は、聖騎士の祈りより信頼できる! ……アリス、やれ!」
「はいっ! 摩擦係数ゼロ・フィールド!!」
ゴーレムの足元の地面が凍りつき、摩擦を失った巨体がバランスを崩す。 その瞬間、クレアの鎧が「正しく動く機械」へと変貌した。潤滑剤とトルク管理、そして結束バンドによる応急処置によって、彼女の動きから一切のロスが消えたのだ。
「……軽い。世界が、透けて見えるようだ……!」
クレアは流れるような動作で立ち上がると、一閃。 滑って無防備になったゴーレムの核を、黄金の剣で一突きにした。
「……デバッグ完了。お疲れ」 カズキが立ち上がると、クレアはそのまま膝をつき、カズキの手を取った。
「カズキ殿……あなたは、私の魂(鎧)の歪みを正してくださった。この結束バンドの感触……これこそが真の『聖なる鎖』。私は、あなたという真理に仕える盾となりましょう!」
「いや、ただの結束バンドだ。……おい、アイリス、アリス。早く行くぞ。これ以上仲間に『物理を誤解した奴』が増えたら、僕の単位が本当に危ない」
「えー、いいじゃない。聖騎士がいれば、デバッグ作業も安全よ?」
「師匠! 結束バンドの呪文、私にも教えてください!」
カズキはもう知っている…この流れはこの誤解した仲間を入れないといけないということを。
「…おまえら、その代わりに寝る前の授業を2時間に増やすからな。そしてアイリス!俺を戻すときは試験の前の週の金曜日にしろ!テスト勉強ができないではないか!」
「カズキ様!ありがとうございます!!命の御恩はきっと今後も報います…」
こうして、物理と物理(結束バンド)で補強された、世界で最も「効率的」で「話が通じない」パーティーが結成された。




