第41話:孤独な管理者と、温かいパッチ
「ふぅ……ふぅ……!」
カズキは、蒸気で白煙が立ち込めるポテト・コアの最深部へと到達した。そこは、世界中のポテチデータが凝縮された、巨大な『黄金の焦げカス』が渦巻く空間だった。 その中心に、アイリスの姿が浮かび上がっている。だが、彼女はホログラムではなく、悲しげな瞳を持つ実体だった。
「来るな、カズキ! これ以上近づけば、あんたもポテチのデータに還元されて、私が食べちゃうしかないのよ!」
アイリスの周囲からは、無数の『焦げ付いたポテチ』がミサイルのように飛来する。それは、彼女がこれまでに「一人で処理しきれなかった孤独」の具現化だった。
「……それが、お前の言う『一人で大丈夫』か? 見ろよ、処理しきれなかったゴミデータ(孤独)が、こんなにも世界を汚してるじゃないか!」
カズキは、アリスとクレアの魔力と闘気を纏った融合レンチを構えた。
「一人で食べる飯は、味気ないだろ! 誰にも迷惑をかけないなんて、この世界で一番の『非効率なバグ』だ! みんなで協力すれば、ゴミデータなんていくらでも消去できるんだぞ!」
「そんなこと……っ!」
アイリスが反論しようとしたその時、カズキは一気に距離を詰め、融合レンチを焦げカスの中枢へと叩き込んだ。
ゴォォォォォォォォォォォォォォン!!
「——パッチ適用!!」
レンチが発する光が、焦げカスを瞬く間に分解していく。それは、物理的な破壊ではなく、孤独なバグを「共有可能な喜び」というデータへと書き換える、『愛の再定義プログラム』だった。
「っ……これは……! 私の、心の……データが……っ!」
焦げカスが光の粒子となって砕け散る中、アイリスの全身からも黒いノイズが剥がれていく。
「私は一人で十分だった……。カズキがいなくなっても……っ!」
「違うだろ、アイリス」
カズキは、目の前で揺らめくアイリスの手を取り、そっと握った。
「お前は、本当は『誰かと一緒に食べる』にしたかったんだろ? 世界のデータは、一人で抱え込むもんじゃない。みんなで共有して、みんなで笑い合えば、どんなバグだって乗り越えられる」
カズキの言葉が、アイリスの心に温かいパッチを適用した。 彼女の顔から、管理者の冷たさが消え、一人の少女としての温かい表情が戻る。
「カズキ……」
アイリスの体から、最後の孤独のバグが剥がれ落ちた瞬間、ポテト・コアはまばゆい光に包まれ、世界全体に「再起動」の信号が送られた。
「(……オールグリーン。システムの根本的なバグを解消。これでもう、この世界がポテチになることはない。……多分)」
カズキは安堵の息を吐いた。 コアから脱出すると、外の世界は、元の美しい草原へと戻っていた。空には澄んだ青が広がり、爽やかな風が吹いている。
「やった! 世界が元に戻った!」
アリスが歓声を上げる。
「カズキ殿、さすがです! あなたこそ、この世界の真の『メンテナー』です!」
クレアも目を輝かせる。
その中で、アイリスだけは、まだ少し恥ずかしそうに目を伏せていた。
「……カズキ。あのさ……。もう、ポテチの無限増殖は起こさない。だから……時々でいいから、あんたの持ってるポテチ、私にも一口ちょうだい?」
それは、管理者アイリスが初めて見せた「共有」という名の人間らしい願いだった。
「当たり前だろ。……寂しい時は、いつでも言え。そしたら、お前が飽きるまで、僕がポテチを食べてやるよ。僕、細身だけど意外と大食いなんだぞ」
―――ガタ!!
その時二人の少女が無表情で立ち上がったと同時に
カズキの言葉に、アイリスは満面の笑みを浮かべた。 世界の危機は去った。アイリスの孤独な戦いも、これで終わりだ。
だが、ルーターの画面には、まだ一つのメッセージが残されていた。 『——通信確立。異世界からの着信あり』
それは、カズキが元の世界へ帰るための、最後の扉。 しかし、その扉の向こうには、彼がこの世界で見つけた「大切な居場所」が、彼を待っていた。




