第39話(再構成):先史遺産ポテチと、書き換えられた管理者(OS)
「アイリス。ずっと気になっていたんだが……」
カズキは融合レンチをコンソールに繋ぎ、ガレージの片隅で山積みになった空き袋を指差した。 作業着を脱ぎ、細身ながらも日々の重機扱いで引き締まった筋肉を晒したカズキの体は、エンジニアとしての確かな説得力を放っている。
「僕がこの世界に来た第1話。お前はすでにポテチを食べていた。……だが、僕のノートの記録によれば、この世界にジャガイモの栽培記録も、揚げ物の技法も、ましてや『アルミ蒸着の包装袋』を作る化学プラントも存在しない」
「……何が言いたいのよ」
アイリスがポテチを口に運ぶ手が、わずかに止まる。
「お前が食べているそのポテチは、僕が持ってきたものじゃない。……この世界に最初から存在していた**『管理用リソース』**なんだろ? なぜなら、袋の裏のバーコードをスキャンしたら、**この世界の物理定数**が表示されたからな」
カズキの指摘に、アイリスの顔から余裕が消えた。 同時に、ガレージの外で異変が起きる。
「カ、カズキ殿! 街の石畳が……パリパリとした質感に変化し、踏むと香ばしい匂いが漂っています!」 クレアが報告に走り込んでくる。
「師匠! 空から降ってくる雪が……全部『のり塩』の粉末になっています! なんですかこれ、世界が美味しそうに壊れていく!」
アイリスは膝を抱え、震える声で真実を話し始めた。
「……そうよ。ポテチは、この世界を安定させるための『バッファ(緩衝材)』だったの。初代管理者が、世界の演算エラー(ストレス)を吸収するために、最も中毒性が高くて満足感のある『ポテチ』という概念をシステムに組み込んだ……」
アイリスがポテチを食べる行為は、実は「世界のバグを自分の体で処理する(デバッグ)」という、孤独な管理者の義務だったのだ。カズキが来る前から、彼女はずっと一人で、世界の歪みを「食べて」耐えてきた。
「でも、カズキ……。あんたが本物の『外の世界のポテチ』を持ってきちゃったから……! システムが混乱して、本物と偽物の区別がつかなくなったのよ! 今、この世界は『全ての物質をポテチという共通フォーマットに変換する』っていう、とんでもない最適化バグを起こしてる!」
もってきたのではなく、あのとき試験勉強で間食として食べようと持参してたものをアイリスが勝手に食べただけである。
アイリスの目から涙がこぼれる。
「このままじゃ、クレアも、アリスも、カズキ……あんたも、全部ポテチのデータになって、私に食べられるのを待つだけの存在になっちゃうのよ!!」
世界の「ポテチ化」。 それは、アイリスという管理者が限界を迎え、世界を「消費可能なデータ」へと退化させてしまうプロセスだった。
「……なるほどな。お前は一人で、この世界のゴミデータを食べ続けてきたわけか。……胃もたれするはずだ」
カズキは細身の体を大きく伸ばし、融合レンチを力強く握り直した。
「アイリス。バグを『食べて消す』時代は終わりだ。……これからは工学的に『分解して再構築』してやる。……アリス、クレア! 準備しろ! 僕たちは今から、この世界の中心へ、『胃薬』代わりの強制パッチを叩き込みに行くぞ!」
カズキの幸運と、二人のヒロインの愛。そして管理者の孤独。 すべてを飲み込むポテチの終末に、カズキのトルクレンチが挑む。




