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第38話:融合する信頼(ハード)と情熱(ソフト)、そしてアイリスの影

「ぐわぁぁ! 誰だ、このトルクレンチを投げたのは! 痛い、物理的に痛い!」


ガレージの中心で、カズキは磁気嵐の渦に飲まれていた。右からはクレアが

「カズキ殿を守護せねば!」

とフルチューンされた鎧の重質量で抱きつき、左からはアリスが

「離しません、離しませんよ師匠!」

と杖を介した魔力で食らいついている。


二人の感情が強まれば強まるほど、カズキを中心とした「恋の引力フィールド」は強固になり、ガレージ中のボルトやナットが弾丸のように飛来する。


「カズキ! このままだとあんた、ヒロインと工具に押し潰されて『人間プレス機』の餌食よ!」

アイリスがモニター越しに叫ぶ。


「わ、分かってる! 二人とも聞け! この磁場を解くには、お互いのエネルギーを完全に『逆相関』させて打ち消すしかない!」


「逆相関……? つまり、どうすればいいのですか!」

クレアが飛んできたハンマーを素手で叩き落としながら叫ぶ。


「クレアは『静』の信頼、アリスは『動』の情熱だ! 二人が同時に、僕への想いを正反対のベクトルで放出しろ! 『絶対に離さない』という想いと、『相手に譲る』という自己犠牲の心を同時に同期させるんだ!」


「そんなの、無理ですよ師匠! クレアさんに譲るなんて……っ!」

「アリス殿、私だって引くわけには……!」


だが、カズキの背中に突き刺さりそうな巨大な旋盤機を見た瞬間、二人は顔を見合わせた。


「「——カズキ(殿)を死なせるわけにはいかない!!」」


二人の心が「カズキの救出」という一点で同期した。 アリスの青い魔力と、クレアの金色の闘気が、カズキの手元で激しく混ざり合う。その時、カズキの「運」が、工学史上最もありえない「結合バグ」を引き起こした。


キィィィィィィィィン!!


まばゆい光が収まると、そこには奇妙な「物体」が誕生していた。 アリスの魔導杖と、クレアの鎧の右腕パーツが、カズキの持つ巨大レンチを核として**『完全融合』**してしまったのだ。


「……な、なにこれ。杖なの? 腕なの? それとも……スパナなの?」

アイリスが呆然と呟く。


それは、アリスの遠隔魔導出力を備え、クレアの物理破壊力を持ち、カズキの精密調整(ボルト締め)が可能な、多目的融合武装『アリス・クレア・レンチ』。


「融合……した? 二人の装備が、僕の工具を介して……」


引力フィールドは消滅し、ガレージには静寂が戻った。 カズキの両手に残ったのは、アリスの香りとクレアの温もり、そして物理法則を無視したとんでもないスペックの新型ハードウェアだった。


「……ふふ。カズキ殿、これで私たちは文字通り、一つ(の回路)になりましたね」

クレアが満足げに微笑む。


「……ちょっと、勝手にまとめないでください! 師匠、その武器(?)、次は私の寝室で詳しく検査してくださいね!」

アリスが負けじと頬を膨らませる。


カズキは、もはやツッコミを入れる気力も残っていなかった。だが、その手の中にある「合体武装」が、かすかに振動していることに気づく。


「……? なんだ、この振動数は。……1、0、1、0……。バイナリ・データ? どこから通信が来てるんだ?」


その振動の源流を辿った先——カズキの視線の先には、ガレージの片隅で、山積みになった「空のポテチ袋」に埋もれて、静かに冷や汗を流しているアイリスの姿があった。


「……アイリス。……お前の食べてるそのポテチ。……さっきから袋の数が、『物理的な在庫』を超えて増えてないか?」


「……あ、あはは。気のせいよ、カズキ。これは……そう、管理者の特権による『レンダリングの遅延』よ」


アイリスの目が泳ぐ。 いよいよ、この世界の最後の聖域にして、最大のバグ。 「アイリスのポテチに関する矛盾」の幕が上がる。

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