第34話:鋼の騎士と、拒絶のオートメーション
アリスの村を救い、ガレージに戻った一行。アリスがカズキにベッタリと寄り添う中、クレアは一人、愛用の鎧を丹念に磨いていた。
「……カズキ殿。少し、よろしいでしょうか」
クレアが差し出したのは、彼女の所属する聖騎士団からの召集令状。そこには驚くべき内容が記されていた。
「『聖騎士団、全装備を魔導鎧【イージス・プラス】へ換装。手動での整備・研磨を禁じ、すべて自動修復システム(オート・リペア)による管理下とする』……だそうです」
「全自動の鎧? メンテナンスフリーってことか。エンジニアとしては夢のような話だが……」
カズキがその令状に目を通すと、アイリスが横から口を挟んだ。
「それ、魔王軍の技術を転用した『曰く付き』の代物よ。着るだけで身体能力を強制的に引き上げる代わりに、着る人の意思を少しずつ奪う……いわば『身体の外部委託』ね」
「私は、そのようなものは必要ありません」
クレアがカズキを真っ直ぐに見つめる。
「私の剣が鈍ればカズキ殿が研いでくださり、私の鎧のネジが緩めばカズキ殿が締めてくださる。それが私にとって、戦場を生き抜くための唯一の『認証』なのです」
「クレア……。でも、ネジを締めるのはただの整備で、そんなに大袈裟なものじゃ……」
「いいえ! 大事なことです!」
クレアの顔が赤らむ。彼女にとって、カズキがスパナを持って自分の鎧を弄る時間は、もはや魂のメンテナンスに等しかった。
しかし、騎士団本部はこれを認めなかった。 数日後、ガレージにやってきたのは、全身を「滑らかすぎて不気味な黒い鎧」に包んだクレアの同僚たち。彼らは感情を失ったような声で告げた。
「クレア、貴公もこの【イージス・プラス】を装着せよ。旧式の鉄屑を使い続けるのは、騎士団の『最適化』に対する反逆とみなす」
「断る。私は、私の技術者を信じている!」
カズキは、同僚たちの鎧から漏れ出す「不自然な排熱」と「高周波の異音」を聞き逃さなかった。
(……あいつら、クロック周波数を無理やり上げてるな。あの鎧、遠隔操作(リモート制御)されてるんじゃないか?)
「……待て。クレア、その喧嘩……僕も買わせてもらう。工学的観点から見て、その『全自動』には致命的な脆弱性がある」
カズキはカバンから、特製の『極圧潤滑スプレー(魔導改良版)』と、『巨大なトルクレンチ』を取り出した。
「クレアの『手動』が、その『自動』に勝てることを証明してやる。……クレア、脱げ。今から最大効率の『フルチューン』を施してやる!」
「は、はいっ! 喜んで脱ぎます、カズキ殿!」
様子をジト目で見ていたアリスが「えっ、今ここで!?」と叫ぶ中、カズキとクレアの、物理法則を超えた「ハードウェアの共闘」が幕を開けた。




