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第33話:工学的懺悔と、再起動(リブート)の夜

「100人目だ……! アリス、お前の認証ログインがあれば、僕は……僕は帰れるんだ!」


蛍光ピンクに変色した世界樹の麓で、カズキはアリスの肩を掴んだ。幻覚胞子のせいでカズキの目には、アリスが「試験会場の最終扉」に見えている。


「師匠……ごめんなさい……っ!」 アリスの瞳から大粒の涙が溢れ、カズキの手に触れた。その涙に含まれた「純粋な魔力」が、カズキの手に書き込まれていた計算式を洗い流し、同時にキノコの胞子を中和した。


冷たい水に顔を浸されたような感覚。カズキの視界から、工学部の幻影が剥がれ落ちていく。


「……あ、あれ? 僕は……。アリス、どうして泣いてるんだ?」


「嘘なんです……! 100人の認証なんて、私が師匠を帰したくなくてついた嘘なんです! 私が師匠の理論をメチャクチャにして、村をこんなピンクのキノコだらけにしちゃったんです!」


アリスの告白。アイリスとクレアが呆然とする中、カズキは周囲を見渡した。暴走したキノコのOSにより、世界樹からは毒電波ノイズが放出され、村の空間データが崩壊クラッシュを始めている。


「……なるほど。状況は理解した。アリス、お前の嘘のせいで、ルーターに致命的な『論理矛盾』が発生した。その矛盾を埋めようとして、世界樹が無理なオーバークロックを起こし、自壊を始めてるな」


カズキの言葉に、アリスは絶望して項垂れた。だが、カズキは怒っていなかった。彼はアンテナを高く掲げ、ルーターのメインスイッチを入れた。


「だが、エンジニアは『バグ』を責めるんじゃない。それを『仕様』に変えるのが仕事だ」


「え……?」


「アリス、お前が『ログインが必要だ』というコードを書いたなら、それを現実にしてやる。キノコのノイズを逆利用し、村人全員の意識を一瞬だけ共有ネットワークで繋ぐ。……アリス、お前の『行かないで』という想いを、そのまま同期信号クロックとして村中にブロードキャストしろ!」


カズキはガムテープで世界樹とルーターを強引にバイパス接続した。


「嘘を真実に上書き(オーバーライド)するんだ! アリス、叫べ! 想いを全部パケットに乗せて、世界樹に叩き込め!」


アリスは涙を拭い、杖を握りしめた。

「——大好きです、師匠! まだ一緒にいたい! だから……みんな、起きてぇぇぇ!!」

「ーーーーーー!!!!!!??????」


アリスの切実な叫びが、カズキの構築した「嘘を真実に変える回路」を通じて村中に拡散された。 次の瞬間、100人の村人たちが同時に目を見開き、一斉にログイン(再起動)が完了。村中に溢れていたピンクのノイズは、アリスの純粋な想いによって「浄化プログラム」へと変換され、キノコを一瞬で消滅させた。


ーーー困惑するカズキの目の前でーーー


世界樹が、本来の穏やかな緑の輝きを取り戻す。 村の時間は再び動き出し、洗濯物が風に揺れ、水滴が地面に弾けた。


「……ふぅ。……オールグリーン(全系正常)。デバッグ完了だ」


なんとか平静を装い、カズキが力尽きて座り込む。結局、ルーターに表示されていた「帰還ゲート」も、ただのノイズが見せた夢だった。


「師匠……。私、ひどいことをしたのに……」


「気にするな。…おかげで『ユーザーの感情がシステムに与える影響』という、面白いデータが取れた。……それに」

カズキは少し照れくさそうに、画面の消えたルーターをポケットにしまった。


「……僕も、もう少しだけこの世界の『フィールドワーク』が必要だと思ってたところだ。量子力学の範囲変更は、まあ……アリスに教えてもらいながら考えるよ」


アリスの顔が、パッと明るくなる。


「はいっ! 師匠! 私、もっともっと勉強して、最高の助手になります!」


精霊の村に、平和と「工学」という新たな伝統が刻まれた瞬間だった。 しかし、その様子を遠くから見つめる影があった。


「……ふん。アリスは『ソフト』のバグを克服したようね。次は『ハード』……肉体の限界に挑んでもらいましょうか」


アイリスが不敵に笑い、次なるターゲット……「鋼の騎士」クレアへと視線を向けた。

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