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第20話:デッドエンド・ループと、進まない進捗

魔王軍の幹部、【無限ループのゼノン】が放った歪な魔力。それが一行を飲み込んだ瞬間、世界から「変化」が消失した。


「……待て、今、僕たちはこの大岩の横を通り過ぎなかったか?」


カズキが足を止める。横にあるのは、苔むしたゾウのような形の岩。 数分前、確かに見た光景だ。そしてその数分前にも。


「師匠……。私、さっきからずっと同じ蝶々が、同じ場所で羽ばたいてるのを見てます。捕まえようとしても、一瞬で元の場所に戻っちゃうんです」


アリスが不安げにカズキの服を掴む。 一方、クレアは剣を抜こうとして、何度も「カチッ」という音を響かせていた。


「……カズキ殿、不覚です。剣を抜くという『動作』が、完了する直前に『抜く前』の状態へと巻き戻されます。これでは戦うどころではありません!」


アイリスだけは、ポテチの袋に手を突っ込んだまま、虚無の表情でモグモグと咀嚼を繰り返していた。

「ダメね。この袋、何枚食べても中身が減らないわ。……あ、でも味もしない。咀嚼してる感覚だけがループしてる。これ、ダイエットにはいいかもしれないけど、管理者としては最悪のバグだわ」


カズキは冷静に腕時計(と化した魔導具)を確認した。 秒針が「59」を指した瞬間に「0」ではなく「0」の手前に戻る。


「……なるほど。これは空間のループじゃない。『時間のセグメント・エラー』だ。この半径50メートル程度の範囲内で、時間は常に同じ120秒間を繰り返している」


「120秒!? 師匠、どうすればいいんですか? 私たち、一生この120秒を繰り返すんですか?」


「理論上はな。だが、どんなループプログラムにも必ず『終了条件ブレイク・コンディション』があるはずだ。ゼノンというプログラムがこのループを維持しているなら、どこかにその『判定基準』がある」


カズキは地面に座り込み、計算ノートを広げた。 ……しかし、書いた文字も120秒経てば消えてしまう。


「……クソっ。思考は保持されるのに、物理的な記録が保持されないのは痛いな。アリス、クレア、アイリス。お前たちに頼みがある」


「何ですか、師匠!」


「僕が今から、この120秒の間に行われる『全事象』をカウントする。お前たちは、それぞれ10秒、20秒、30秒……と、担当する時間を厳密に体感で数えてくれ。誤差は許されない。……このループを維持するための『変数の書き換え』が行われる瞬間を見つけるんだ」


カズキの目は、かつてないほど真剣だった。 絶望的なループの中でも、彼は諦めない。なぜなら、このループの向こうには、失われたパスワードのヒントが、そして「月曜日の試験」へと続く道があるはずだからだ。


「(……まあ、カズキが頑張ってる間は、私たちは安全だし、彼がどこにも行かないから、このままでもいいんだけどね)」


アイリスがこっそり二人に耳打ちすると、アリスとクレアも小さく頷いた。 カズキが「デバッグ」に熱中している間だけは、彼は自分たちのそばにいてくれる。


かくして、カズキによる「無限ループの徹底解析」という、気の遠くなるような作業が始まった。

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