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第16話:電磁波の森と、不確定性の乙女たち

水の都を離れ、一行は禁足地『電磁波の森』の入り口に立っていた。 そこは、ねじ曲がった樹木がアンテナのように空を指し、空気が静電気でピリピリと震える異常な空間だった。


「……間違いない。この空間の誘電率は異常だ。僕の電卓の液晶がさっきからノイズだらけだよ」

カズキは、アルミホイルで自作した指向性アンテナを掲げ、方位磁石と首っ引きで歩みを進める。


「いいか、アリス。お前の感覚センサーが頼りだ。ルーターから出ているはずの『2.4GHz帯』の……いや、この世界なら『魔導波』として変換されているパルスを感じ取れ」


「は、はい……! えーっと……こっち、かなぁ?」

アリスは杖をフラフラと右へ向けた。本当は左側の茂みの奥から、懐かしい「実家のWi-Fi」のような温かい気配を感じているのだが、彼女は必死でその感覚を無視していた。


「……アリス、右か? 僕の計算では北北西なんだが……」


「そ、そうです! さっきから『右の方がなんか、ふわふわして気持ちいい』って、精霊さんが言ってるんです! ほら、工学的にも……不確定性? とかいうやつですよ、師匠!」


カズキは眉をひそめた。

「不確定性原理をそんな風に使うな。……だが、この森の異常な磁場では、僕の計算機も誤差が出る可能性があるな。よし、アリスの感覚を優先しよう」


「(よしっ!)」 アリスが密かにガッツポーズをする。その背後では、クレアが重々しい足取りで周囲を警戒していた。


「……カズキ殿! 止まってください! 危険です!」 数歩歩くたびに、クレアが鋭い声で制止する。


「今度は何だ、クレア。魔物か?」


「いえ、この先の地面……土壌の硬度が、私の足の裏の感覚で『安全係数1.5』を下回っている気がします。一度、地質調査(地面を剣で叩く)を行ってからでないと、あなたの安全を確保できません!」


「……さっきから10メートルおきに地質調査してないか? 日が暮れるぞ」


「カズキ殿の命に代えることはできません。……これも、あなたが教えてくれた『安全第一』の精神です(キリッ)」


「……そう言われると反論しづらいな」

カズキは溜息をつき、立ち止まってノートを広げる。その隙に、アイリスがカズキの肩に乗り、耳元で囁いた。


「ねえカズキ、やっぱり今日はもう野営にしない? 電磁波のせいで私の『お腹が空く関数』がバグっちゃって、さっきからポテチの警告アラートが止まらないのよ」


「どんな関数だよ。……おかしいな、僕の計算では、もうルーターの信号強度(RSSI)が最大値に達しているはずなんだが……」


カズキは首を傾げる。 彼が信じる「工学」と、彼を愛する乙女たちが全力で捏造する「誤差」。 最強のエンジニアであるカズキが、人生で初めて「自分の計算」を疑い始めた。


その時、森の奥から、電子音のような……あるいは悲鳴のような、奇妙な音が響き渡った。


「——今の音は!? ルーターの起動音か!?」

カズキが駆け出そうとするが、三人のヒロインが同時にその行く手を(物理的に)塞いだ。


「「「ダメです(よ)!!」」」

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