閑話:乙女たちの秘密会議
カズキが明日の旅に備えて、ガレージの奥で予備のバッテリー(魔導結晶)の充填計算に没頭している頃。
表の作業スペースでは、アイリス、アリス、クレアの三人が、カズキから教わった「工学用語」を使いながら、それぞれの想いを語り合っていた。
「……ねえ、二人とも。ぶっちゃけた話、あの『るーたー』って箱、見つかってほしくないわよね?」
アイリスがポテチの袋を指先で器用に開けながら、低く呟いた。
「……はい」と、アリスが即座に頷く。
「師匠は『ルーターがあれば世界と繋がる』って嬉しそうでしたけど、それってつまり、師匠が私たちの『観測範囲』から消えちゃうってことですよね。そんなの、物理学的に許せません!」
「アリス殿、それは感情論ではないか?」
クレアが真面目な顔で指摘するが、その手元ではカズキに貰った「結束バンド」を大事そうに磨いている。
「だが、私も同感だ。カズキ殿は、この世界の『安全係数』そのもの。彼がいなくなれば、私の鎧のボルトは、誰が締めてくれるというのだ……」
「でしょ? そこで提案なんだけど」
アイリスが二人を呼び寄せ、小声で切り出した。
「今回の旅、カズキの計算を邪魔しない程度に、わざと『効率』を落としましょう。例えば、アリスの『センサー』がちょっと狂ったふりをするとか」
「ええっ!? 師匠に嘘をつくんですか?」
「嘘じゃないわ、アリス。これは『不確定性原理』による不可抗力よ。……それからクレア。あなたは『安全確認』を念入りにやりすぎて、移動速度を今の半分に落として」
「なるほど……。カズキ殿の身の安全を第一に考えるのは、騎士として至極当然の任務。……一理あるな」
クレアが納得したように頷く。その時、奥の部屋からカズキがひょっこりと顔を出した。
「おい、何をコソコソやってる。アリス、明日のためにこの『指向性アンテナ(アルミホイル製)』の感度をテストしておけ。それからクレア、お前の鎧の関節に注油しておく。来い」
「「「はいっ!!」」」
三人は一斉に立ち上がり、カズキの元へ駆け寄る。カズキは彼女たちが何を企んでいるかなど露知らず、「明日のルーター捜索の成功確率(P)」を電卓で弾き出していた。
「……よし、成功率は87%だ。これなら追試には余裕で間に合う」
カズキの自信満々な言葉を聞きながら、アイリスは心の中で舌を出した。(ごめんね、カズキ。その87%っていう数字……私たちが全力で『誤差』を詰め込んで、10%以下に引き下げてあげるから!)工学部生の理屈と、乙女たちの非論理的な愛。どちらが勝つかはまだ誰にも分からないが、異世界ガレージの夜は、不思議な熱気と共に更けていった。




