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第12話:異世界ガレージと、秘密基地の断熱設計

「……まず必要なのは、安定した電力、いや『魔力供給』。そして、騒音を気にせず関数電卓が叩ける『静粛性』だ。このボロ家を、僕たちの『デバッグセンター』に作り変える」


水の都の片隅、運河に面した打ち捨てられたレンガ造りの倉庫。アイリスが管理者権限で「不法占拠(という名の国有地払い下げ)」の手続きを済ませ、カズキはそこを拠点に決めた。


「師匠! 床を磨いておきました! でも、この建物、隙間風がすごくて『熱の対流(習いたて)』がひどいです!」

アリスが雑巾を片手に報告する。


「いい着眼点だ、アリス。建物の気密性は、空調効率の基本だからな。……クレア、お前はその辺に落ちている鉄板を、僕が指定する形に切り抜いてくれ」


「承知いたしました! この剣で、ミリ単位の精度(結束バンドの教訓)を維持してみせましょう!」


カズキはカバンから『アルミホイルの予備』と、街の市場で安く買い叩いた『羊毛の端切れ』、そして大量の『松脂』を取り出した。


「いいか、これは『断熱』と『吸音』のハイブリッド施工だ。羊毛を松脂で固めて壁に貼り、その上からアルミを蒸着させることで、輻射熱を反射する。これでこの部屋は、外気温の影響を一切受けない『理想の実験室』になる」


カズキはさらに、倉庫の裏を流れる運河の「わずかな段差」に注目した。


「アイリス。ここの水流の『ポテンシャルエネルギー(位置エネルギー)』を利用して、定常的なエネルギー源を確保するぞ。……アリス、お前の杖に巻いたアルミの廃材を使って、『水車タービン』の羽根を成形しろ。形状はナセル型……いや、この流速ならペルトン水車が最適か」


カズキが地面に描いた「翼型設計図」を見て、アリスが魔力を指先に込める。

「『お水が、クルクルって、いい感じに回れー!』」

「……アリス、それは『流体解析』の結果に基づいたイメージか?」

「はい! 師匠の描いた線の通りに、水が『よっしゃー!』って加速するイメージです!」


数時間後。 倉庫の裏で、お手製の水車が規則正しいリズムで回転を始めた。その回転は、カズキが結束バンドと木の歯車で組んだ「変速機トランスミッション」を介して、倉庫内に設置された「魔導バッテリー(アイリスの予備パーツ)」へと蓄電されていく。


「……よし。これで、電池切れを気にせず関数電卓が使える。照明も、魔導結晶に一定電圧をかけるだけで『LED化』できたな」


パチッ、とスイッチを入れると、薄暗かった倉庫内が、昼間のような白い光に包まれた。


「な、なんという光の量……! 聖都の大聖堂ですら、これほどの安定した輝きはありませんぞ!」

クレアが目を輝かせ、アリスは「師匠、この部屋だけ別の世界みたいです!」とはしゃいでいる。


「これが文明だ。……さて、アイリス。この拠点に名前をつけよう。管理者として、何かいい案はあるか?」


アイリスは、部屋の隅に持ち込んだポテチの山の上で、満足げに微笑んだ。

「そうね……管理者の特権で、この場所の座標をシステム上の『特区』として登録したわ。名前は……『カズキ・エンジニアリング・ラボ』。通称、【ガレージ】よ」


「ガレージか。悪くない」 カズキは、ようやく手に入れた「自分だけの研究室」で、ノートを広げた。 そこには、帰還するための数式の代わりに、**「この世界の法則を完全に解明し、アップデートするためのロードマップ」**が描かれていた。


「——第一段階(フェーズ1)。この都の運河を動力源とした、自動輸送システムの構築。……試験に間に合わなかった『佐藤カズキ』の逆襲は、ここからだ」


絶望から立ち直ったカズキの瞳には、かつてないほど冷静で、かつ熱い「エンジニアの火」が灯っていた。

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