第8話 洞窟の平和と賑やかな洞窟生活、小さなパン屋さん始めました?
「ちゅぎのかた、どじょ!!」
『持ってきた物を、こっちに出してだじょ』
『俺はイーターの肉を持ってきた。ヒトミが食べる分と、お前らの分でちょうどくらいの量だと思うが、確認してくれ』
『……う~ん、多くもなく少なくもないんだじょ! ヒトミ、良しなんだじょ!』
「はい! じゃ、きょは、これをどじょう!」
『おお、今日も美味しそうだな! ありがとうヒトミ!! はぁ、これをずっと食べられたら良いんだが』
『みんな約束なんだじょ。また別の日に来るんだじょ』
『分かってるって、じゃあな!』
そう言い帰っていく、クマに似ているけれど、2倍の大きさもある魔獣のクーマー。サッカーボールくらいの丸いしっぽがぴこぴこ揺れているよ。今日も喜んで帰ってくれたみたい。
『ヒトミ、次を入れて良いかしら?』
「うん!!」
『ヒトミ、こんにちは!』
『ボクたちは、可愛い花を摘んで来たよ』
『いろいろな色のお花よ』
『見せてなんだじょ』
次に私たちの所へやってきたのは、リスに似ているリッスという魔獣たち、全部で10匹。
「わぁ、かわいいね!!」
『ヒトミ、好きなんだじょ?』
「うん!」
『じゃあ良いんだじょ!』
「きょは、このぱんね、どじょ! みんなでなかよくたべちぇ」
『『『ありがとう!!』』』
そう言い、全員で運びながら帰っていくリッスたち。さて、今日の営業はこれで終わりかな?
『ヒトミ、モルー、今日は今の子達で終わりよ。このまま巣に帰る? それとも外の空気を吸ってから帰る?』
「ちょっとしょと、みたいかも」
『なら、そうしましょう。でも先に片付けが先ね。荷物はいつも通りに?』
「うん。しゅぐちまうから、まってて」
私は、今日魔獣たちから貰った物を、全てマジックバッグにしまっていく。そしてしまい終われば、床や石の台や壁なんかを、シエラにクリーン魔法で綺麗にしてもらったよ。ついでに私とモルーもね。
『これで良いわね。さぁ、じゃあ私のしっぽに乗っかって』
すぐにシエラのしっぽによじ登る私。そしていつも通り、私の前に座るモルー。
『それじゃあ行くわよ。しっかりと掴まっていてね』
こうして私たちがやってきたのは、洞窟のてっぺん。私がいる洞窟は、山みたいな形をしていて、てっぺんから少しだけ外へ出られるようになっているんだ。だから時々ここで、外の景色を眺めたり、外の空気を吸ったりするの。
「ふぃ~」
『ヒトミ、今日もお疲れ様』
『今日も疲れたじょ』
『モルーは確認をしていただけでしょう』
『確認だって疲れるんだじょ。ヒトミに悪い物、危険な物、近づけないようにしないとなんだじょ』
「モルー、きょもありがちょ」
『おいら、ヒトミの1番のお友達なんだじょ! だから当たり前なんだじょ!』
ニヤッと笑いながら胸を張り、翼を胸にポンッとやって、ふんすとするモルー。
『どう? 洞窟の生活には慣れたかしら。もし何かあれば、すぐに私たちに言ってね。人間が来るまで、しっかりとあなたのことは守るし、ちゃんと生活できるように、できる限りのことはするから』
「うん、ありがちょ! あたち、だいじょぶ!!」
『そう』
私は遠くを見つめ、静かに深呼吸をする。
あれから3週間。そう、私がこの洞窟に来てから、もう3週間が過ぎたんだ。この3週間、本当にいろいろなことがあったよ。
だけどグルルとモルーとシエラ、それから他の魔獣たちのおかげで、私は十分過ぎるほど快適な生活を送ることができていて、本当にみんなには感謝しかない。
まぁ、ちょっと予想外のこともあったけど。まさか洞窟の中で、お店らしき物を開く事になるとは思っていなかったよ。
まず、それに関係する大きな出来事として。3週間前、私たちが暮らすための空間へ移動しようとした時、良い匂いって声が聞こえてきたでしょう?
あれは、グルルもモルーも……。と、その前に、モルーはモルフォンのことね。魔獣には名前がある魔獣とない魔獣がいて、モルフォンは名前がなかったんだ。
でも、どうしても私に名前をつけて欲しいってお願いをされて、問題ないかグルルに聞いたら、魔力を使わない名前付けなら問題ないって言われたから、モルーって名前を考えたの。
それで、話を戻すけど、グルルとモルーはパンの匂いに誘われて、私の所までやってきたでしょう? それが他の魔獣にも言えて。
あの時の声の後も、続々と魔獣たちが私の所へやってきちゃったんだ。そう、巣作りをしている時も、巣作りが終わった後、私たちがゆっくりしている時も、いつでもどこでもね。
ただ、匂いに誘われてきて、私がパンをあげるだけで済めばまだ良かったんだけど。ほら、魔獣だろうが人間だろうが、見境なく襲ってくる魔獣がいるって言っていたじゃない? そんな魔獣たちも来ちゃったんだよね。
だからグルルやシエラは、自分たちみたいに力のある魔獣たちを集め、『パンと私を守ろう』の議題で緊急の話し合いをしてくれて。私を襲おうとしてきた魔獣たちの中でも、みんなから恐れられている魔獣たちを中心に、グルルたちが討伐してくれたんだ。
だからそのおかげで、洞窟の中や、洞窟の周りを囲んでいる広大な森に、平和が訪れたっていう。
強い魔獣が多く住んでいる場所でも、弱い魔獣たちだって住んでいる。そんな魔獣たちに、私が来てくれたおかげだって、何故かめちゃくちゃ感謝されたよ。別に私が倒したわけじゃないんだけどね。
これがまず、私じゃなくて、洞窟と森にもたらされた大きな変化ね。まさかパンで、平和がつくられるなんて思わなかったよ。
そして次は私。パンの匂いと私の話が、洞窟内とその周辺に広まって、みんなが私の所へパンを貰いに来るようになっちゃったんだ。
もちろん私は、欲しいと言ってくる魔獣にはパンをあげようと思ったよ。だけど、パンには数に限りがあって、毎日大量の魔獣に来られたら、あっという間になくなっちゃうでしょう? それにずっとそれじゃあ、私たちはゆっくりすることもできないし。
ということで、これがグルルとシエラが言っていた、対策のことになるんだけど。私は洞窟の中で、パン屋さんみたいなことをやることになったんだ。私が人に保護してもらうまでの、期間限定でね。
ちゃんとルールを決めて、私たちの暮らす空間の隣に、少し小さな空間があって、そこで魔獣たちにパンを配ることになったの。
まず、1日にパンをもらえるのは50匹まで。そしてどんなに体が大きくても、必ずもらえるパンは1つだけ。群れで暮らしている魔獣たちには、群れの頭数を聞いて、それに合わせてパンを渡す。
それと、毎日パンを貰いに来ないこと。貰いに来た魔獣のことは、記憶力抜群のグルルと、リリアナっていう蝶に似ているんだけど、大きさがビート板くらいの魔獣がいて、その子が覚えているから、不正はできないよ。
今日はお休みの日で、頭数も少なかったから、シエラが覚えてくれたよ。
あとは、パンを貰うばかりはダメ。パンと交換できる物を持ってくること。食べ物でも良いし、花でも良いし、私が喜ぶ物なら何でも良いから、必ず何かを持ってくること。
そんな感じのルールをいくつか作って、それから私は午前中だけ、魔獣たちにパンをあげているんだ。
みんな、私のパンをとっても喜んでくれて、後でまた別にお礼を持ってきてくれたり、とっても嬉しい感想をいっぱいくれたり。こんなに喜んでもらえるなんて、本当に嬉しいよ。ただ……。
誰かしら毎日来るからね、かなりパンが減っちゃったんだ。バカ神が2000個なんて、バカみたいにパンを増やした時は、何を考えているのかと思ったけど、今は大量のパンがあって良かったよ。だけどそろそろ、渡す量を減らさないと、さすがにね。
私がここでパンを焼ければ別だけどさ。バカ神によると、この世界にもパンを作るための、地球と同じような材料があるらしいんだ。名前もパンって同じでね。グルルたちは、人間と関わりがあるから、パンのことを知っていたの。
だけど洞窟にその材料があるわけじゃないし、焼くのはまぁ、火魔法でどうにかなるかもしれないけど、でもやっぱりいろいろとあるわけで。だからその話を今日、グルルたちにしようと思っているんだ。
「ちえら」
『なぁに?』
「あの、ぱんのことで、おはなちあるの」
『ああ、もしかしてあれのことかしら。数のこと?』
「うん」
『なら、グルルが帰ってきたら話をしましょう』
グルルたちには先に、数の話をしておいたんだ。だから個数のルールを作ってくれたんだけど。
私はお昼ご飯に、モルーとシエラと自分のパンを、マジックバッグから取り出す。
「おひる、たべよ」
『きょうもいい匂いね』
『いただきますだじょ!!』
う~ん、パン問題をどうするべきか。




