第39話 妖精の約束と、スノウタイガの子
『ヒトミ、話してきたよう』
『みんな分かったって』
『今度美味しいパンちょうだいねって言ってた』
『僕たちと約束した』
『だから今度、みんなに絶対にあげてね』
『でも、今日俺たちが食べたのは、やっぱり内緒。ククククッ』
『ハハハハハッ』
『ふふふふふふ』
『ケケケケケ』
自分たちだけ食べられて、よほど嬉しいのか、笑いが止まらない妖精たち。とういうかね、何で妖精たちが約束してくるのさ。まぁ、元々そう言ってきてってお願いしたけど、約束するなら私とじゃないの?
この調子で、他の誰かと約束してこないだろうな。ちょっと心配だよ。はぁ、本当、最初のパンがとりあえず成功して良かった。
『あ、それでさ、ヒトミ。向こうに1匹、魔獣がいるんだ。人間と暮らしてない子』
『ヒトミのパンって、元気になるんでしょう?』
『その子、元気ないみたいなんだよ』
『なんか、お友達をいじめっ子から守ったら、具合が悪くなっちゃったんだって』
『だから、その子にパンあげて欲しいんだ』
「え? ぐあいのわるいこ、いるの?」
『うん。別にパンを食べにきたわけじゃなくて、あの場所だといじめっ子が来ないから、ゆっくりしてたみたい。友達も心配で、今は薬草を取りに行ってるって。この家の裏の方。薬草取り放題』
「裏? ……薬草畑か?」
「裏で薬草って言ったら、そうだよな」
「取り放題って、うちの薬草畑は別に、魔獣たちの取り放題の薬草畑じゃないんだが」
「まぁ、その辺は魔獣には分からないでしょうからね。どんな子がいるの?」
『スノウタイガの子供だよ。親はいないみたい。なんかこの前の魔獣たちの争いで、死んじゃったって』
『だから友達2匹で暮らしてるみたい』
「スノウタイガだと!!」
「すぐに行きましょう!! 案内してくれる?」
『もちろん!!』
『ささ、すぐに行こう』
な、何、どうしたの? 妖精さんたちに名前を聞いた途端、パパとママの様子が、緊張したものに変わったんだ。お兄ちゃんたちやセバスチャンさんたちもね。
そうして私は、エリオットお兄ちゃんに抱っこしてもらって、私の頭の上にモルーが乗り、妖精たちの案内で、お屋敷の裏に向かったの。
と、その途中で、合流してきたグルル。魔獣たちと話している最中だったけど、私たちが急に外に出てきたから、急いで来てくれたみたい。
ただ、その時に、魔獣たちと話すのが、いい加減面倒になって。いうことを聞かない魔獣たちを他より強めに脅して、全員帰してきたらしい。
ルーシャンさん曰く、あれなら当分、魔獣たちは来ないだろうって。それから苦笑いしていたよ。そしてそれを聞いて、溜め息を吐くパパ。
まったく、どれだけ脅したのか。でも、最後まで粘ってた魔獣たちだもんね。それくらいしないと、毎日こられたら困るし、他の魔獣たちや虫たちにも迷惑になるだろうし、良いって言えば良いのかな。
『やっぱりあの気配は奴らだったか』
「グルル、気づいていたのか?」
「あまりにも気配が薄いんでな。何とも言えなかったんだ。それと、こちらに害がなさそうだから放っておいた。何をそんなに慌てているんだ? というかな、人間というものは、こうも慌てる生き物なのか? 洞窟ではそんな感じはしなかったが、ここへ来るまでと、ここへ来てからも、慌ててばかりだろう」
「……それはお前たちが、規格外のことばかりしてくるからだ」
『俺たちは何もしてないだろう』
そうだよね? 別にこれといって、何もしてないはず? まぁ、パンではいろいろとやらかしちゃったけど。他は別に、いつも通りだよね?
「あのね、スノウタイガは、見つけたら親がいない場合、保護する決まりになっているのよ。彼らを悪用したり、その希少性から捉えて自由を奪い、自分たちの都合のいいように扱ったりするの。だから見つけ次第保護して、しっかりと生きられるまで面倒をみるのよ」
「親がいる場合でも、彼らが外で生きられないと判断すれば、保護することになっている」
「頭数がね、かなり少ないんだ」
「下手をしたら、後数年でいなくなるかもって言われてるんだよ」
異世界でも、絶滅寸前の魔獣がいるのか……。そんな魔獣の子供がいるなんて、しかも具合が悪いだなんて、すぐに治してあげないとね。
ちゃんと私のパンが効いてくれると良いな。マーゴお婆ちゃんたちには効いたから大丈夫なはず。
そうして私たちが向かったのは、薬草畑から少し横にずれた場所にある、ちょっと大きめの農具小屋。
『この中にいるよ。そうだ、人間がいっぱいでビックリするかもしれないから、僕たちが先に入って、呼んできたこと知らせるね』
「そうね、その方が良さそうね」
『おいらも行くじょ!!』
『俺も行こう』
『えー、グルル大丈夫かな?』
『大きな魔獣、怖がるんじゃない?』
『怖い顔してるし』
『何を言う! こんなにも完璧で格好良い、ハンサムな顔をしているというのに。こんなにカッコいい俺のような存在は、そうはいないぞ』
フンスっと、ニヤ顔をしながら胸を張るグルル。そんなグルルを、モルーと妖精たちが黙ったままジト目で見る。
いや、うん。確かに私も、グルルはカッコいいと思うよ。でもそこまで堂々と、自分のことを言うとは思わなかった。というか、この世界にもハンサムっていう言葉があるのか。
『……みんな行こうか』
『うん、行こう』
『驚かせないでよ?』
『怖がったら、すぐに出てよね』
『みんな行くじょ』
みんな、グルルの言葉はスルーすることにしたらしい。ぞろぞろと農具小屋に入って行くみんな。そうして待つこと、10分くらい。2人の妖精が中から出てきて、
『とりあえず、ヒトミは入って良いって』
『まだヒトミだけだよ』
『それと僕たちは、薬草取り放題のところから、友達を呼んでくるよ。もう、薬草取らなくていいってね』
『じゃ、ヒトミ、中に入って』
それだけ言うと、薬草畑に向かって飛んで行ったんだ。




