第38話 この世界の妖精たちは、結構怖い?
「いやぁ、これはうまいな。ヒトミ、とても美味しいぞ! こんなに美味しいパンを、私たちのところで作れるとはな。……ところで、作り方までは分からないが、バクスターたちは、このパンを作れそうか? ヒトミは、かなりの腕前だからな。バクスターたちも、もちろんとても腕の良い料理人だが、パンに関してはな……」
「たぶん、だいじょぶ。むじゅかちいこと、ちてない。こんどまた、いっちょに、ちゅくってみる」
「そうか?」
「まだ、きょう、ちゅくったばかり。あたちも、れんしゅうちゅう」
「そうよね。練習中よね。まだ粉を1つ試しただけだし、これからよ、これから」
「そうだな。そうだよな。今日作ったばかりなんだから、急かすようなことを言ってはダメだな。……しかし、彼らに食べさせたのは、どちらのパンだ? ヒトミの負担になるようなことにならなければいいが。こればかりは、俺だけで止められるものでもないからな」
「今日、あの子たちが食べているのは……」
ママが話している、その時だった。開いていた窓から、そして勢いよくドアが開いて、わっ!! と、ある子たちが部屋に入って来たよ。
『ヒトミ、ぜんぶなくなった!!』
『だから遊ぼう!!』
『それで遊んだら、次のお約束!!』
『全部、お約束だよ!!』
「う、うん」
「ヒトミちゃん、ママは後から行くから、エリオットとセドリックと一緒に、あの子たちと遊んでいていいわよ。セバスチャンも付いて行ってあげて」
「かしこまりました」
「それじゃあ、みんなで移動しようか」
「よし、遊ぶぞ!!」
『あれ? グルルは?』
『ん~、気配は外!!』
『グルルも一緒に、遊ぶって言ったのに』
『なんでグルルは外にいるの?』
『外の魔獣がうるさいから、帰れって言いに行ったんだじょ。みんな、お家に帰るんだじょ』
『ああ、そういうことか』
『確かに、うるさいもんね』
『僕たちは、美味しかったねぇ』
『でも、それは内緒、クスクスクス』
あっ、そうだ! 後でこの子たちに、お願いしようと思ってたんだ。まぁ、聞いてもらえるかは分からないけど……。でも、それができるのは、この子たちだけだし。
「あ、あの!」
『ん? なぁに?』
『えちょ、あしょぶまえに、おねがいありましゅ!』
『お願い?』
「ひ、ヒトミ、彼らにお願いは!?」
『どうしたのぉ?』
『どんなお願い? ダメなお願い?』
『ダメなお願いはダメよ』
『良いお願いは良い?』
『う~ん、どうだろう』
よく分からないことをいう子たち。でもこれは、あなたたちにしかお願いできないんだよ。
「あの、まじゅは、グルルがおはなちちて、かえちてもらってましゅ。でも、むししゃんとおはなちできるのは、ようせいしゃんたちだけでしゅ。こんどのぱん、おやくしょくしゅるから、むししゃんたちにも、こんどあげるから、きょはかえってくだしゃいって、いってもらえましゅか?」
『ああ、そういうことか』
『虫たちも、うるさいもんねぇ』
『うん、これだとゆっくり遊べない』
『話せるのは、私たちだけだもんね』
『これは、ダメなお願いじゃない』
『うん、ダメじゃない』
『じゃあ、みんなでちゃちゃっとお話しして、帰ってもらおう』
『そうしよう!!』
『『『おー!!』』』
そう言って、一斉に窓から出ていくみんな。
今、慌ただしく部屋に入って来て、お願いを聞いてくれた子たちは……、私の部屋にいたはずの妖精さんたち。妖精さんたちとは、パンを食べ終わったら、遊ぶ約束をしていたんだ。
そして、この妖精さんたちが、私が言っていた、『あれ』についても、どうにかなりそうで良かった、っていうやつなんだけど。
この世界には、ライトノベルや漫画に出てくるみたいな、とっても可愛くて、羽で飛ぶことができる、私の手のひらサイズの妖精さんたちがいて。洞窟では何度か見かけたことはあっても、深く関わることはなかったんだ。
すみにパンを置いておいてあげると、気づかないうちに、それを持っていっていた、ってかんじ。
ただ、その時に、グルルやシエラから、妖精はうるさいから気をつけなさいって言われていてね。でも、ほら、言った通り深く関わることがなかったから、その意味がよく分からなかったの。
だけど今回、パンが焼けて、妖精さんたちが姿を現した瞬間、ママたちの様子が一変して。すごく緊張したっていうか、戦闘体制に入るみたいに、みんな身構えたんだ。
そしてグルルは、とっても嫌そうな顔をしていて、モルーは…。モルーは、仲良くしていればいいんだじょ、って感じで、みんなより少し軽い雰囲気だったけど。
それでね、妖精さんたちが来た時には、ちょうどパンの試食が終わっていたから、美味しいパンってことは分かっていたからね。今日焼いた方のパンをみんなにあげたんだ。みんなに、早くあげてと急かされながらね。
それから、パンを食べる前に、虫たちがどうしてここへ来たのか聞いてくれって、グルルが妖精さんたちに頼んで。後は、私の部屋で、ゆっくりパンを食べてもらったの。
美味しそうに、パンを食べてくれた妖精さんたち。ただ、私は、みんなが急いで、パンをあげてって言ったことが気になって、それとなくママに聞いてみたんだ。そうしたら……。
妖精さんたちは、普段は何も問題を起こさないけれど、自分たちの気に入らないことがあると、怒って暴れて、大変なことになるらしいの。それも、街でそこそこの被害が出るくらいにね。
そして、何かお願いをする時も、自分たちに関係のないことや、やりたくないことを頼まれると。気に入らない時ほどじゃないけれど、それでも、まぁまぁ暴れるみたいで。
もうさ、グルルやシエラたちが言っていた、うるさいから気をつけろって、そんなレベルの話じゃなかったんだよ。だからママたちは、早くパンをあげてって言ったの。
いやぁ、何とかパンを作ることができて良かったよ。だってそうでしょう?
今回、もしパンが美味しく焼けていなかったら? 私が持っているパンをあげれば、その時は良かったかもしれない。でも、その後、何度も来られたら? そして、パンがなくなるまでに、新しく焼くことができなくて、それで怒って暴れられたら?
一応、パンが作れることは分かったし、そしてそれを食べて喜んでもらえたから。今度、妖精さんたちが来たら、すぐに焼いてあげれば問題なし。
なんとか街に被害が出ないで済むって、ママがホッと溜め息を吐いていたよ。森で見たママは、ビシバシと魔獣を倒す、とっても強く、カッコいいママだったんだけどね。そのママが、これだけ妖精さんたちに気を揉むなんてね。
今回1番良かったことは、妖精さんに暴れられることを回避したことかもしれないよ……。




