第35話 すっかり忘れていた洞窟でのこと。ごめんなさい!!
「な、何だこれは!?」
「おいおい、どうなってんだよ」
「あなた! こっちよ!!」
「オリヴィア! これは一体何だ!? 俺たちが外へ出ているうちに、何があった!? この魔獣たちは大丈夫なのか!? ……って、これは何だ!?」
「俺も、さすがにこんな光景を見るのは初めてだぞ。というかなぁ、この間から、初めて見るものが多いんだが」
「とりあえず住民には、帰れるようなら帰るように言ってあるわ。ダメならあとでグルルに何とかしてもらうつもりよ。グルルもそのつもりでいるわ。それと、一応今回のことは、それとなく説明しておいたけど、これからどうなるかは私にも分からないわ」
「どういうことだ?」
「まずは中へ」
わわ!? パパたちが中に入って来た!! パパが部屋に来たら、すぐに謝らないと!!
「ヒトミ、ちょっと落ち着けって。別に悪気があってやったわけじゃないんだから。父さんだって、そんなに怒らないさ」
「セドリック、普通はヒトミみたいになるんだよ」
「だけどグルルは落ち着いてるぜ」
『まぁ、なってしまったものは仕方がないからな』
「いや、それじゃあダメだからね。はぁ、ヒトミは責任を感じて、何度も謝っているっていうのに、グルルがそれでどうするのさ」
「兄さん、グルルだけじゃなく、モルーもだぞ?」
『ヒトミのパンは凄いんだじょ。だから、こうなるのは当たり前なんだじょ。いつものことなんだじょ』
「いや、だからね。それで終わっちゃダメなんだよ」
そうだよ。ほら、グルルとモルーもドアの前に並ぶ!! パパが部屋に入って来たら、すぐに謝れるようにね!!
私はグルルを後ろからグイグイ押して、モルーをズルズル引っ張り、なんとかドアの前まで移動させる。
『ヒトミ、何するんだ』
『ああ、パンを落とすところだったじょ!』
だから今、パンを食べるなって!! 私はモルーからパンを奪うと、ささっとマジックバッグにしまったよ。
『あ~、だじょ!?』
あ~、じゃない!!
と、私がマジックバックにしまったとほぼ同時に、パパたちが部屋へ入って来てね。その瞬間、私は間髪入れずに、ジャンピング土下座ばりの勢いで土下座して、パパに謝ったんだ。
「ごめんしゃい!!」
『別に謝ることはないだろう。いや、まぁ、少しはあるか?』
『でも、いつものことなんだじょ』
そう言う2人をキッと睨みつけ、頭を下げさせる私。そうして、もう1度、
「ごめんしゃい!!」
って謝ったよ。
「ヒトミちゃん、そんなに謝らなくていいから。ね。今は、どうしてこんなことになったのか、この人に話してくれるかしら」
「ヒトミと、グルルとモルーじゃあ、大違いだな。はぁ、グルル、とりあえず、どうしてこんなことになったのか話せ」
『ああ。奴らはヒトミのパンが食べたくて、集まって来ただけだ。他の者たちもな。まぁ、向こうでは、虫までは来なかったから、最初はなぜ奴らが集まって来たかは分からなかったんだがな。妖精に聞いてもらったら、奴らもヒトミのパン目当てで集まったらしい。それだけだ』
「それだけって……、ん? 妖精だと?」
『ああ。今は俺たちの部屋で、ヒトミのパンを食べているぞ。見つかると、他の連中が煩くなるだろうからな。が、妖精の言うことを聞かなくては、そっちの方が面倒なことになる。だから先に、妖精たちにはヒトミのパンを食べさせた』
「……オリヴィア、本当にヒトミの部屋に妖精が?」
「ええ、居るわね。さっき覗いたら、何人かはお腹がいっぱいになったのか、昼寝をしていたけれど」
「はぁぁぁ」
パパが大きな溜め息を吐く。
『なに、洞窟の時のように、俺がさっさと話をつけてやる。だから心配するなと言っているのに、皆、騒ぎすぎだぞ』
『前みたいに、いろいろ決めれば良いじょ。そうすれば大丈夫なんだじょ』
『だな。俺が言えば、言うことを聞くだろう。なにしろ、この街に、俺以上に強い魔獣はいないからな』
一体、何が起きているのか。実は今、お屋敷の周りにはたくさんの、というか、街中の魔獣たちと、庭にはたくさんの昆虫たち。それから、私の部屋には、10人ほどの妖精が集まっていて。そして、街中の魔獣たちと一緒に、家族の人たちも集まっている。
これの前兆は、私がパンを焼き始めた頃から始まっていたらしいんだ。私は全く気づいていなかったんだけどね。……なんていうかな、洞窟と同じことが起きちゃったっていうか。
パンを焼き始めて少しすると、良い匂いが厨房の中に漂い始めて。匂いだけだったら、めちゃくちゃ美味しそうなパンが焼けているんじゃ、なんて。ドキドキよりも、ワクワクの方が強くなっていた私。
そうして、そのパンの焼ける匂いは、そのうち厨房の窓から外へと流れていったんだ。まぁ、それ自体は当たり前のことだからね。ただ、その頃から、お屋敷の近くにいた魔獣たちや昆虫が、少しずつお屋敷に集まり始めていたみたい。
これに対してグルルは、魔獣は私のパンに反応したな、って気づいていて。ただ、そこまで気にしてはいなかったみたい。
これもね、仕方ないと言えばそうなんだけど。グルルもね、パンに関してルールのあった洞窟での生活が普通になっていたから、最初の騒ぎを忘れていたっていうかねぇ。
ただ、1回目のパンが焼き上がり、2度目のパンを焼き始めた時。1回目のパン焼きの時よりも、風が強く吹き始めて。パンの焼ける匂いは、さらに遠くまで届くことに。
すると、さらに魔獣や虫たちが集まって来ちゃって。さらには、妖精たちも匂いに気づいて。妖精たちなんて、厨房にまで侵入してきて。それで、お屋敷の中も、庭も、お屋敷の周りも、大騒ぎになっちゃったんだよ。
しかも、魔獣たちの方は家族がいるから。その家族の人たちが、突然自分の家族の魔獣がお屋敷へ向かったと思ったら、他の魔獣たちも集まり騒ぎになていて、それに驚き。
お屋敷で何かあったのかと、お屋敷の警備をしてくれている騎士さんたちや、使用人さん、メイドさんに話を聞こうとして、これでもちょっとした騒ぎになってしまったんだ。




