第29話 パンを焼く前のドタバタ、静かなママの恐怖のナイフ
『ヒトミ、いっぱい買い物できて良かったじょ! 早くパンが作れると良いんだじょ!』
「うん!」
『今日も粉、調べるんだじょ?』
「しょだよ! しょれで、じぇんぶちらべおわったら、ちゅぎはぱんのちゅくりかた、みしぇてもらうの」
『何だ? この前見せてもらっただろう』
「このまえは、ただみてるだけ。こんどは、ちっかりみて、しょれでちゅくりかたのちがいをみる。しょのあと、ぱんをやいてみる」
『ふぉ! パン焼くんだじょ!?』
「まだしゅぐじゃないよ。いろいろまだ、やることあるから」
『でも焼くんだな!?』
まだ小さなモルーが喜ぶのは分かるけど、グルルまでそんなに喜んでどうするのよ。何だったら、モルーよりも喜んでるじゃん。
私がパンを焼くと言った途端、空中で何度もクルクルと、バク宙みたいに回って、物凄く喜んだモルー。
でも、それ以上に喜んだのがグルル。犬が喜ぶ感じで、舌を出してハッハッとしたあと、めちゃくちゃにしっぽを振ったもんだから、周りに置いてあった飾りが落ちそうになって。近くにいた使用人さんとメイドさんたちが、慌てて手で押さえたよ。
「ぐるる、みんなにごめんなしゃいしゅる。あぶないはだめって、いわれちゃでしょ」
『あ? ああ、すまんすまん。ヒトミがついにパンを焼くのかと思うと、嬉しくてな』
『ふっ、グルル、ダメなんだじょ。おいらみたいに、丁寧に喜ぶんだじょ』
丁寧に喜ぶって何? 大人しくって感じか? 大人しく?
『うるさいぞ。お前は体が小さいから、何も被害が出なかっただけだ。部屋の中では、いろいろと壊しているだろうが』
『おいら、壊してないじょ。勝手に壊れたんだじょ』
言い方よ。壊したと壊れたじゃ、かなり違うからね。そして、壊してるからね?
私の部屋には、パパたちが買ってくれた、私たちのおもちゃがいっぱいあるの。だけど、そのうちの3分の1を、モルーが壊しちゃったんだよ。
確かに、壊れちゃった物もあるんだけど、壊した物の方が多いんだ。ちゃんと謝って、直せる物に関しては、私たちでがんばって直して遊んでるから、まだ良いけど。
まぁ、最近はモルーも人の生活に慣れてきて、壊すことはかなり減ったかな。グルルもね。
「ヒトミ、バクスターが来て良いって」
「あい!!」
話しをていたら、エリオットお兄ちゃんが呼びに来てくれたよ。今日は、昨日やるはずだった、残りのパンの粉を調べるんだ。
本当は昨日やるはずだったんだけど、昨日はマックスウェルさんが帰る日で。なんか朝からずっとバタバタしていて、結局ぜんぜん粉を調べられなかったの。
そうそう、マックスウェルさんが帰る時、少しおかしなことがあってね。私たちは見送りのために、玄関の前で並んでいたんだけど。マックスウェルさんが馬車に乗り込む前に、私たちを見て、ニヤッと笑ってきたんだ。そして、
「あまりやり過ぎないようにね」
そう言ってきたの。やり過ぎる? もちろん、すぐに何のことか聞こうとしたよ。でも、そんな暇もなく、マックスウェルさんはすぐに馬車に乗っちゃって。
ただ、その時、パパとママが、後で教えてくれるって言ったんだけど、結局まだ聞けていないんだ。
それから最後に、
「パンが焼けたら、すぐに呼んでねぇ~!!」
と、言いながら、めちゃくちゃ良い笑顔で帰っていったよ。何でマックスウェルさんが、私のパンのことを知っているかっていうと。
どうもパパが、パンを自慢したみたいでね。それでマックスウェルさんが、私がパンを焼くことができたら、食べたいって言い出して。それ以外にも、一昨日の夜も大変だったんだよ。
みんなで夕飯を食べたんだけど、その時、私はマックスウェルさんから、すごい勢いでパンについて質問攻めにあうことに。それで、あまりの勢いに、私は途中でダウンしそうになり。
そんな私に気づいたグルルとモルーが、いい加減にしろって、マックスウェルさんを攻撃しそうになって。
ただ、グルルが攻撃する前に、マックスウェルさんを攻撃した人がいたの。
気づくと、椅子に座っているマックスウェルさんの顔の横に、テーブルナイフが刺さっていて、グルルたちはママを見ていてね。
私は気づかなかったんだけど、ママがテーブルナイフを投げたみたい。それが綺麗に、マックスウェルさんの顔の横、1センチくらいのところに刺さったんだ。そして……。
「良い加減、煩いわよ。これ以上ヒトミちゃんを疲れさせるなら、私があなたを料理してあげましょうか?」
そう言ったママ。
「い、いや。す、すまなかったな、ヒトミ。パンの話を聞かせてくれて、ありがとう!」
それからマックスウェルさんは、ずっと静かに夕食を食べ、ママはマックスウェルさんから目を離さず。私は、ようやくゆっくりご飯を食べることができたんだよ。
まぁ、そんな感じで、マックスウェルさんのせいで、帰る前も、帰った後も、なぜかお屋敷の中はバタバタしていたから、結局、パンのことは何もできず。
なんか私、マックスウェルさん苦手かも。とういうか、なんか変な圧を感じたんだよね。いろいろなことに興味深々なのはいいんだけど。それが過ぎるっているかさ。
まぁ、もう早々会うことはないと思うけど、なるべく関わりにならない方がいいような気がするよ。
「この間、買った物も持っていくの?」
「うん」
「じゃあ僕がもってあげるよ」
エリオットお兄ちゃんがカゴを持ってくれて、みんなで厨房に向かう。さぁ、気を取り直して、今日こそ最後の粉を調べないとね!




