第11話 森の静寂の原因を調査へ(***視点)
「ジェイコブ様、冒険者ギルドより、竜巣の森について追加の報告が届いております」
書類から顔を上げると、秘書のテオドールが封書を渡してきた。数週間前の『竜巣の森』の調査に関する追加報告らしい。私はすぐに目を通した。
「……やはり、前回と様子は変わらないか」
「はい。数週間前同様、森はいつも以上に静かだと。商業ギルドからも同様の報告が届いております」
竜巣の森は、街から数日ほど離れた場所にある、人々から恐れられる森だ。強力な魔獣たちが棲み、森の中心にある洞窟にも、かなりの力を持つ魔獣たちが集まっている。
そのため、相応の力を持つ者でなければ、森に近づくことすらできない。少しでも近づけば、大変なことになるからだ。
が、そんな危険な森ではあるが、俺たちはある理由から、3ヶ月ごとに森を訪れている。
まず1つ目の理由は、今言った通り、森にあまりにも危険な魔獣が棲んでるからだ。森で異変が起きれば、近くの街、いや国に関わる大惨事になりかねない。ゆえに、定期的に異変がないか確認する必要があり、森を訪れる。
そして2つ目の理由だが。竜巣の森は広大で、人があまり立ち入らないためか、あの森にしかない非常に貴重な素材が存在している。
これを確保するため、俺たちは特定の魔獣たちと関わりをもち、森の確認とあわせて、その魔獣たちとの素材交換や採取のために森へ向かうのだ。
しかし、数週間前に、森である異変が起きたと、冒険者ギルドから報告が来た。これは普通の森であれば、近くに暮らす者たちにとっては、好ましい異変だったかもしれない。だが、異変が起きたのが竜巣の森だったのが問題だった。
一体、どんな異変が起きたのか。それは……。
あの森では、自分たちの餌を手に入れるため、あるいは自分たちの力を示すため、毎日朝から晩まで必ず魔獣たちの争いが起きており、静かになることはほぼない。が、数週間前から、その争いがいつもの半分以下にとどまっているというのだ。
俺はその報告に、無理のない範囲で森を調べるよう指示を出した。あの森が静かになる? そんなことは絶対にあり得なかったからだ。俺と関わりのある魔獣ならともかく、魔獣だろうと人間だろうと、種族に関係なく襲ってくる連中が争わないなどあり得ない。
完璧に争いがないわけではないが、そういった魔獣までもが、通常の半分以下しか争わないなど……。
もしかしたら、あの森の魔獣たちを、押さえつけるような、新たな力を持つ存在が現れた可能性がある。それか、俺が気づかないうちに、人間側が何かしたか。
どちらにせよ、脅威になる可能性が高かったため、すぐに指示を出したのだ。
そして届いた追加の報告。それによると、やはり森は数週間前同様、静かなままだということだった。
また、その原因についても、なるべく森へ近づき調べていたが、それ以上近づくのは危険と判断し、何も分からないまま引き返してきたと。
「……一体、何が起きているのか。新たに力のある魔獣が現れたか、それとも他に何か理由が」
「あの森で何かあれば、彼らが黙っているとは思えませんが」
「ああ、何かしら対処しているはずだ。しかし、そうなるとだ。静かになる前に、かなり激しい戦闘があったはずだろう? 森が静かになる前に、そういった激しい戦闘があったという報告はないからな。それすらないとなると、本当に何が起きているのか……」
と、話している時だった。
「あなた、報告がきたと!」
部屋にオリヴィアが入ってくる。
「ああ、今届いた」
「それで森の異変について、何か分かったの?」
「何も、あいかわらず静かなままらしい」
「そう……。何が起きているのかしら」
「それを今話していた。が、ここで話していても何がわかるわけでもないからな。少し遅くなってしまったが、いつも通り、とりあえずアイツらの所へ行ってこようと思う」
「大丈夫なの? 何も分かっていないのよ」
「どちらにしろ、今回何も分からなければ、俺が調べに行こうと思っていた。皆が無事なら、森で何が起こったのか、話を聞けるだろうし、あの場所へ行く最中にも森を調べることができるからな」
「……確かにそうね。なら私も行くわ。すぐに用意するわね」
「いや、オリヴィア、君はここに残っていろ。それこそ何があるか分からないんだぞ」
「だからよ。何も分からないなら、なおさら私が行かないと。あなたよりも私の方が、あそこでの戦いに慣れているのよ? 本当に何かあった場合は、私の方が止められるわ」
「いや、確かにそうかもしれないが、いろいろと調べなければならないんだぞ。それに関しては、君が証拠を消してしまう可能性が……」
「ローザ!!」
オリヴィアが廊下に向かって声をかける。するとどこにいたのか分からないが、数秒も経たないうちにメイド長のローザが姿を見せた。
「お呼びでしょうか、奥様」
「竜巣の森へ行くことになったわ。支度を手伝ってちょうだい。それからライラにも準備するように言って」
「かしこまりました」
「あなた、私が準備している間に、エリオットとセドリックに話をしておいて。それと……、そうだわ。あれについても先に連絡しておかないと。あと、あれの連絡も必要よね」
「お、おい。オリヴィア」
「セバスチャン!!」
今度は執事長もセバスチャンを呼ぶオリヴィア。そうしてローザ同様、数秒もしないうちに姿を見せるセバスチャン。
「はい、奥様」
「これから竜巣の森へ行くことになったの。だから、私の予定を変更しておいて。それと、関係各所への連絡もお願いね。これからリストを渡すわ」
「かしこまりました」
「あなた、私はこれから忙しくなるから、他の用意はお願いするわね。さぁ、ローザ、セバスチャン、行くわよ」
そう言い、バタバタと部屋を出ていくオリヴィアたち。
「俺の話は、完全に無視か」
「お止めするのは、もう無理かと」
「だろうな。はぁ、街のことを任せようと思っていたが仕方がない」
ああなったら、オリヴィアは止まらないからな。仕方ない、ここは息子たちに任せよう。それに、オリヴィアが言ったことではないが、確かに戦闘になった場合、彼女の方があの場での戦いに慣れているのは事実だ。
「テオドール、エリオットとセドリックを呼んでくれ」
「かしこまりました」
「それと騎士団の方だが?」
「出動のご指示があるだろうと思い、すでに出発の準備を進めております。おそらく、もう少しで整うかと」
「さすがだな。よし、それじゃあルーシャンにも、後で俺のところへ来るように言っておいてくれ」
「はっ」
テオドールが部屋から出ていく。俺は報告書をもう1度読み返したあと立ち上がり、森のある方角の窓へ歩いて行き、外を眺めた。
一体、竜巣の森で何が起きているのか。何もなく、たまたま、本当にたまたま静かな時が続いているだけなら良い。まぁ、その場合は。アイツらにかなり怒られそうだが。
いつもなら、もう森へ向かっている頃だ。しかし森の調査をしていたせいで、今回は数週間遅れてしまっている。
俺たちと素材交換をしている魔獣たちは、こちらが持ってくる交換の品を毎回楽しみにしていて、中でも酒は特に人気だ。そのため今回は、その酒を持っていくことになっていたんだ。
だからもしも、森に何もないのに、俺たちが遅れただけとなると、なぜ早くこない! と文句を言われるだろう。
が、もしも森の魔獣にとっても、俺たちにとっても良くないことが起きていたら。厄介な者たちが現れていたら。それをどうにか止められれば良いが、もし失敗するようなことがあれば……。
今回の件、森へ行き、しっかりと調べなければ。
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『ヒトミ、パン欲しいじょ!! 甘いのが良いじょ!』
「わかった!」
『モルー、食べ過ぎだぞ! お前は昨日、パンを貰っただろう! 今日は俺の番だ!』
『おいら今日頑張って、お話し合いの時、いっぱいはなしたじょ! それでヒトミがありがとうって、後でパンくれるお約束したじょ!!』
『ふんっ! それでも俺が先だ!!』
『グルルがあとだじょ!!』
『2人ともやめなさい! まったく騒がしいったら。森も洞窟も、ヒトミのパンのおかげで少し静かになったけれど。ここは2人のせいでいつも煩いったら』
「ぐるる、もるー、けんかちない! けんかちたら、ぱんあげない!」
『むぅ、お前のせいで怒られたではないか』
『グルルがダメなんだじょ』
「けんかちない!!」




