三条悟 佐藤正雄
俺はそのまま家族に連行されてまったく別の街に連れてこられた。
そして、今俺は一人で暮らしている。
家族は念のため全員別々に暮らすことにしようということで話がまとまった。
俺は一言もしゃべらなかった。
俺の家のあった街はあの人の一族が治めていると言っても過言ではない。
警察なんかもあの家のことは関わらない。
実際あの人に俺がぼこぼこにされたことも黙殺されて終わるだろう。
だから、家族が俺があの人に憎まれたと知ったらすぐにあの街を捨てる判断をしたのは当然なのかもしれない。
だけど、俺はあの人のところに戻るべきなのではないかとずっと悩んでいた。
それぞれ別の県に両親、姉貴は住んでいる。
俺はこの街で小さなアパートでバイトをしながら暮らしていた。
俺はなんとなく眺めていたテレビで不意に見慣れた風景が映った。
そして、あの人の会社が映る。
いったい何が起きているんだろう。
テレビの中では警察車両が何台も止まっていた。
そして段ボールがいくつも運び出されている。以前何度か見た。犯罪を犯した会社が取り調べを受けるときあんな風になるはずだ。
俺は凍り付いたようにその光景を見ていた。
見覚えのある顔が何人か連行されていくのが見えた。
切れ切れに脱税がどうとか取引法違反だとか聞き覚えのある言葉が聞こえた。
あの人に、悟さんに連絡を取らないと。
俺にできることをしてあげないと。今あの人はとても困っているはずだ。
とにかく俺は記憶を振り絞って消されてしまったあの人の番号を思い出した。
何度も何度も失敗してそれでも俺はあきらめなかった。
俺だけがあの人を助けてあげられるはずだと。俺が見捨てるわけにはいかないと。
そして、俺は今いる街の名前を言った。最寄り駅まで訪ねてくれるとそう言われて俺は大きく息を吐く。
ここであの人を見捨てるなんてできるはずがない。一番困っているときこそ手を差し伸べるのが友情だろう。
俺はそう信じてあの人を待った。
改札口を通ってやってきたあの人の姿を見た時俺は涙があふれそうになった。
俺を見つけてあの人も目を見開く。
そしてやっと会えると俺はあの人に駆け寄った。
至近距離であの人の笑顔が見えて。そして俺の腹部に激痛が走る。
俺の腹にナイフの柄が生えていた。
「お前のせいだ」
もう一本のナイフを手にあの人は笑った。




