三条悟
くすくすと笑う女がいた。
緩やかに渦を巻く染めた茶色い髪。目元を強調するきつい化粧をしていた。地震があるのか胸元をオールシーズン空けた服を着ている。
しばらく前から俺のところによってきた女だった。
名前は憶えていない。ずいぶんと折れに積極的な様子でいたが俺には凜々花がいたから絶対に相手にしなかった。
それでも食い下がってきた。もういい加減呆れる。
だがようやく凜々花が俺のもとに来てくれたんだ。だからこの女に用はない。
「あのさ、面白いものを見つけたの、いわゆる裏アカってやつ」
裏? そんなものは俺は作っていない。
「そういえば最近新しい彼女ができたそうね」
新しい、冗談じゃない、ずっと思い続けた相手だぞ。
「これ、見てみて?」
そう言って自分のスマートフォンを示した。
そのアイコン写真はウサギ、そして開くとそれは凜々花のよく使っていたものだ。
だが、ウサギをアイコンに使っている女なんていくらでもいるだろう。
そう思いつつ俺はその女からスマートフォンを取り上げた。そしてそのアイコンをタップした。
それは凜々花の物だった。
そこでは凜々花は俺じゃない男のことを書いていた。
ずっとその男を愛していると。そしてその男のためなら何でもするとか、目を覆いたくなるようなことが書かれていた。
それは時事系列を見ても凜々花の物だと思われた。
俺は凜々花をずっと見ていた。だから常に誰かしら手下どもを凜々花に漬けて行動を見張らせていたしその報告から凜々花の行動は本人より詳しいと自負している。
そして最後の言葉は信じたくない。
ほかの男のために俺の傍に来たと、そいつの望みだから。
きっと俺に近づいて何かしら要求して、その後その男のところに行くつもりだとか。
ずっと俺に対して敵意を持っていた俺の誠意を決して信じなかった凜々花が俺をようやく理解してくれたと思っていたのに。
女はにっこりと笑う。
「私ならこんなことしないわよ」
そう言って俺にしなだれかかる。
俺は女を突き飛ばしスマートフォンをたたきつけた。
だけど、凜々花の様子を見ていると凜々花がこっそりと誰かに電話しているのを見た。
だからそっと様子をうかがっていた。
誰かと会う約束をしている。




