パロンネキ
「あら。やんなっちゃう。あんたの声、私には筒抜けだったわよ。随分と私のこと馬鹿にしてくれちゃったみたいね。小鳥ちゃん。」
捲し立てるかのようにそう言うパロン。一言で言えば、伝説上の生き物グリフォンのような佇まい。まるでモデルがランウェイを歩くかのようにこちらへと差し迫る。
「飛び方もわからないくせに。今までどうやって生きてきたって言うの?」
エメラルドのようなその目は俺を完全に見下している。確かにモンスター歴は短いかもしれないが、そんなに強い言い方しなくてもいいだろう?
「貴方みたいな穢らわしい男が私の天使であるリズちゃんに抱かれるなんて…。ご主人様とリズちゃんが乗ってなければ蹴落としていたところよ。あー、思い出しただけで腹が立つ。このアルティマスである私の背に乗るなんて一億年早いわよ。まったく。」
アルティマス?
なんだそれ。
…そう言うとまるでほくそ笑むかのようにパロンの顔が変わる。
「アルティマスも知らないの?本当、お子ちゃまね。」
…むかつく。仕方ないだろう。心の声が聞こえていたなら俺がどんな生い立ちでどんな環境に追いやられてたか知ってるだろ。ばーか。
「ふふん。仕方ないわね。貴方のために教えてあげる。いい?この世には…」
話をまとめるとこうだ。
シーロンには数多くの魔物がいる。その魔物との関わり方は従獣士と討伐士の二種類に分けられる。ただし、従獣士でありながら討伐士となる者もいるため、千差万別。数あるモンスターの中でも彼らはランクというものをつけており、基本的にEからSの計6段階あるという。
アルティマス(上半身は鷹、羽が生えた金色の獣の馬)はBランクに入る。俺がデザートイーグル(金色の鷲、人の腕に乗るくらいのサイズ感)だった場合はC、ストームファルコン(紅の隼、派手な配色の長い尾羽と眉毛が特徴的)だった場合はBランクになるらしい。
なんともまぁ、ファンタジーじみたきたものだ。
「因みにご主人様…リズちゃんのお祖父様は元々S級の剣豪よ。貴方、リズちゃんがいなかったら即座にあの世行きだったわ。」
ほへー。生き延びたってことか。パロンネキはなんともなんとも賢いもので。じゃあ、パロンネキの目から見て俺はなんなのよ。
「…わかるわけないじゃない。貴方にわからないことを。」
…ほへー?
パロンネキの哀れむような目がこちらを劈く。頭にはてなマークが出る。なんともアホ面…これが本当のアホウドリってか。やかましいわ。
パロンネキが続ける。
「鳥モンスターは私たちのような要は獣型モンスターに属されるモンスターよりも種類が多くて、それでいて幼体はほとんど姿形が変わらないの。その多くは貴方のように金毛で卵形をしているわ。でも、貴方は何故か目が紅い。鳥系モンスターは目で判断するしかないの。例えば…。
・デザートイーグル→幼体は薄い茶毛で目は緑
・ストームファルコン→幼体は栗毛で目は薄黄色
貴方が拾われるまでいた巣はDランクモンスターのファイヤーバードの巣なんだけど、ファイヤーバードは金毛で目が紫なのよ。だから、貴方は自分の子じゃないから捨てられたんだと思うわ。」
ほへー。博識。
自分のことだけど知らんかったわ。
…パロンネキ、何度目かの呆れ顔。そりゃそうさ。飛べもしないし、自分のことをまるっきりわかってない。
「問題はそこよ!!」
と、右前足の指(4本あるうちの人差し指っぽい方)を指される。
「鳥モンスターは飛べなきゃなんの価値もないわ。と言っても鳥っぽい獣モンスターには脚力自慢もあるけれど、貴方は違う。飛べなきゃ生きることもままならない。リズちゃんも悲しんでる。貴方それでもあの子の従獣?…だから、私が鍛えてあげる。」
…まじで?
「私にも翼はあるわ。空を飛ぶことは…ちょっと難しいけど、多少の滑空なら可能よ。それになんだっけ?ユロ?だっけ?あいつにも教えらんないでしょう。だから、私が教えてあげる。勘違いしないでよね。私はリズちゃんのために教えてあげるんだから。」
…おう。ツンデレパロンネキ様様です。
顔を背ける姿もちょっと美しく見えてきた。
「ちょっとって何「おーい、金ちゃーん?」…きたわよ。リズちゃん。」
パロンのその言葉を聞き、俺は後ろを向く。すると俺を抱き抱える小さな手が見える。俺と同じくらいか、それ以上か。リズはにっこりと微笑むと俺とパロンを見比べた。
「パロンとお話ししてたんだ。何話してたの?」
俺たちの言葉は人間には聞こえない。先ほども俺がモンスターだから聞こえた言葉だろう。その言葉を肯定するかのようにパロンがウィンクを示す。バレるだろ。それ。
「まぁいっか。パロン、またね!キンちゃん、ご飯にしよ!」
話していて気づかなかったが、空はもう橙に染まっていた。物悲しさを感じるほどに。ここから世界は黒に染まり、色を失っていく。…なんだかんだ、どこでも同じである。
リズは太陽のような笑顔を示すと俺を抱き抱えて、自宅へと入っていった。パロンは後ろで明日から特訓だと言わんばかりにきつい目を向けると、ゆっくりと馬小屋に入っていったのだった。




