拾われる
…チュンチュン…。
鳥の囀りに意気揚々と起きる朝。見える青空は確かに感じられるもので、下を見れば鬱蒼と茂る大草原。目の前から飛んでくるのは…なんだあの、デッカい鳥は。大きさ的に言えば隼?とかそのぐらいの。
パクッ。
あっ。摘み上げられた。
ポイッ。
捨てられたァァァァァっ!?
育児放棄かよ。…いや待て待て待て。違うわ。今のって鳥の巣…だよな?なんで人間の俺があんな?…え?元々、人間ってなんだっけ。わかんねえ。俺はなんだったんだ?
『よかった。成功したのですね?』
おおう。…なんだ。あの真っ白空間の声の人か。しっかし、綺麗な声をしてらっしゃる。…てか、全部説明してもらおうか。
『説明の前に…いいんですか?目の前からボアが来てますよ?』
…え?
ちょっ、え?
猪突猛進の猪さんがこっち狙ってきてるじゃないかい。真っ赤な猪さんが。やべぇ、やべぇって。まだこちとら状況飲み込めてねえのよッ!!
まって、何故か千鳥足なの。短足なの!?まずいまずいまずいッ!!全然前に進めねえッ!!
この広大な草原に逃げ場なんてねえよ!?ふざけんなよ!?おい!?あ、あれか。俺が仮に!!鳥だったとして、飛べばいいのか!!でも飛び方なんてぇ!?
「ハッ。」
…へ?
『助かりましたね。巴さん。…ほら、後ろでボアが死んでますよ?眉間を矢で一撃とは…なかなかな腕前の方ですね。』
…ふと顔を上げてみれば…視野が狭すぎて顔までわからないものの馬に乗った大男?(視野が狭すぎて大きく見える)がいるのがわかった。視野が狭いすぎる。というか、俺の身長が極端に小さいのか?馬だってわかったのもかろうじて蹄っぽいモノが見えるだけ。それで判断したわけだけど…。うん。
「…こんなところにデザートイーグル?…いや、ストームファルコンか?…鳥モンスターは幼体時はとりわけ、見分けがつきにくくて敵わん。」
…しゃがれた声が聞こえる。弓矢の主は随分と老兵のようだ。なめし革に包まれた手が体を優しく抱きしめる。…暖かい。
「ほぉ?…これはまた人懐っこい。…だが、村の外れとはいえこんなところで生きてられちゃ困るんでなぁ。…かわいそうだが、根絶やししかあるまい。」
………おう。
尻尾…いや、尾羽か。それがビクッとしたと思ったら老父の顔が優しげな様相から厳しくなる。間違いない。殺気だ。
…この老父はどんなものなのか、わからないがあのボアを一撃で殺すほどの実力を持つ。つまり、幼体の俺じゃあ一捻りってわけだ。…悲しいかな、ここで終わりか。次生まれ変わったら何になろうね…。
「おじいちゃん。なにそれ?」
「…おや?リズ。」
…老父の後ろからトコトコと小さな影がやってくる。それは栗毛の少女で、歳は見立てになるが4〜5歳ほど…か。この世界ではこんな歳でもう馬に乗るのか?
「何この子?かわいい!!」
そう言うと少女は老兵の手の上の俺をキラキラとした目で見つめていた。なんか、悪い気はしない。俺だって男だ。女の子に見つめられて気持ち悪いわけがない。ただ、まぁ、向こうでも手を出したら犯罪よな。
「これこれ。魔物の幼体だぞ。こんな形でも人を食うぐらいのおっそろしい魔物になるんだぞ?」
「うっそだぁ。」
「嘘じゃないさ。」
「でも可愛いからこの子家で飼いたい!!だめ?」
…わかるよ、お爺ちゃん。
孫のキラキラお目目は辛いだろう。厳しい仁王は孫の言葉に諦めたように笑う。尾羽を震えさせていた殺気もまるで水に入れた雪のように溶けて無くなった。老兵はこめかみをぽりぽりと掻くと…はぁっとため息をついた。
「…だったら、ちゃんとお世話するんだぞ?」
「うんっ!!えっと…えっと…アナタは今日からうちの家族ね!!名前は…色が金色っぽいからキンちゃん!!」
…そう言うと少女は老兵の手にくっつけるように小さな手を差し出してきた。まだ飛べないが、おそるおそる足を差し伸ばすと、柔らかい少女の手にちょこんと乗った。
「かわいい!!」
「ほら、リズ。帰るぞ。パロンの上に乗りなさい。」
「はぁい!!」
元気よく返事をする少女。
そのまま俺は少女のワンピースのポケットに入れられた。
「ここにいてね。キンちゃん。」
少女はそのまま馬の背にまたがる。
老兵により、馬はすぐさま駆け出し、緑の大地を風のように走っていった。